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カベルネ・ソーヴィニヨン&フラン2018/蔵王ウッディファーム「この年だけの奇跡の出逢い」

2018年、山形県上山市は暑い夏を過ごしたそうで、そこから秋雨、そして台風と苦労を重ねたようです。それらを経て10月の晴天である程度は持ち直しながらも、高級ワイン用ブドウの女王とも称されるカベルネ・ソーヴィニヨンの貴賓ある色調は期待したほどには至らなかったのは想像に難くありません。収穫時のpHの高さや収穫日の遅さから、なるべく収穫日を遅くする事での大きな巻き返しを図った、若き30代の栽培醸造家の営為を強く感じます。

さてこのような場合、醸造方法をどのようにするか、実に様々な選択肢があると思います。例えば一つ、牛肉で考えてみましょう。霜降りがご立派なA5ランクの仙台牛のサーロインだった場合、ポートワインをたっぷりと使ってトリュフなどを薫らせる重厚なソースを用意してレアな焼き具合のお肉を楽しむ、というのはフレンチレストランなどでの王道中の王道のプレミアムな食体験です。それが、サシはありつつもスーパーマーケットに流通している外国産牛のステーキ肉だった場合、そもそもの肉質や流通における状態などから上述のようなソースを組み合わせるのはアンバランスな食体験になってしまうでしょう。このように肉を扱うシェフ、さて本題に戻しますとブドウを扱う醸造家は、その扱うものの質を見極めて適切な判断を行なう事で魅力的なものを世に送り出します。2018年の晩秋、醸造家はカベルネ・ソーヴィニヨンのマーケットでのイメージにある重厚さを今回の収穫したブドウに背伸びして求める事はなく、方向性を変えて穏やかに優しく醸造しました。そこに同様の状態で収穫した親縁品種であるカベルネ・フランも似たように醸造。あとはブルゴーニュ製の古樽にて熟成させてブレンドしたとの事。生産数が僅か1050本限定であるのも納得。

色調だけで言えばロゼワインと呼べるものです。ただワイナリー側でロゼを名乗っていないという事は醸造方法的分類としては赤ワイン的醸造を行なったのだと思われます。果実のアロマはブルーベリー、プラムなどが穏やかに立ち昇ります。果実が優先的でありつつ、全体的に穏やかなアロマの中に実に複合的な要素を楽しめます。植物香として杉や青草などがほのかに感じるのが個人的に輪郭の構成しているイメージで好印象、またヴァニラのヒントのニュアンスもよく馴染んでます。お飲みになった御仁によっては「ピノ・ノワールっぽい♪」とのお声も。味わいはピークにあるように感じられ、澄んだアタック、そして特徴的な淡いビターが続く余韻とアロマと連動する余韻は、日本ワインを愛する者としてはまるで茶室のような決して大きな建築物ではなくも程よいサイズ感で程よくデザイナーの意匠、そしてそれを魅力的に実現させたクラフトマンシップが感じられて実に楽しい経験です。


よって、このようなとてもユニークな赤ワインというかロゼワインはその穏やかな個性からフードペアリングの懐は深く、フルーツソースの牛肉ステーキ、トンカツ、カジュアルであればBBQでも。また生野菜、特にパプリカなどがイメージにピッタリです。酒質としてはピークを感じますので熟成を図ってもあと1年ほどかと。

8+/10p


≪カベルネ・ソーヴィニヨン&フラン2018/蔵王ウッディファーム≫
有限会社蔵王ウッディファーム 山形県上山市


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