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ニンジャスレイヤーAoM・愛する者の幻影と代替品の話+おまけ(3)

こんばんは、望月もなかです。
ニンジャスレイヤー第4部AoM感想~余談&おまけの休憩回です。(有料部分は、おまけの手書き感想ノート画像です)。
普段は感想にわざわざ書くほどでもないけど忍殺についてつらつら考えていることを文字に起こし、最後に手書きノートのバックアップをあげるスタイル。表題記事は全文読めますので、息抜きにどうぞ。

なにかを失いながら、生きていくしかないんだ。

グワラグワラ! ポエット!!

今回のお題は、AoMにおける、家族の喪失と再獲得の物語です。正直このお題で書くには私の中に材料が足りてないと思っていますが(特にフジキドをはじめとした第三部までの登場人物についてはトリロジー時代を読まないといけない)、他に雑談できそうなネタがないので……。ピザタキ組中心に、今書けるところまで書いてみます!

シリーズ構成の話も楽しいんですけどね。まだシーズン2読み始めてませんし……あ、でもあれかな。創作のお勉強がてら、名作エピソードの構成分解をやってもいいかもしれません。

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こういうの。(例はスパイダーマン:スパイダーバース)

次にネタに詰まったらこれやります。もしくはこの義姉がすごい!オススメ作品リストをやります(それはどうかとおもう)。


【前置き】「バディ」の構造

前回の記事で書いたとおり、ニンジャスレイヤーAoMは「ニンジャスレイヤーの復讐譚」であると同時に、「タキとマスラダの出会いから始まった2人の物語」という側面を持っています。ピザタキの基本単位はコトブキちゃんとの3人組ですが、まずは最初の2人について、主題を追っていきましょう。

さて。
(映画や漫画などの)エンターテイメント作品で「ふたりが出会って物語が始まる」場合、組み合わせには法則があります。(私調べなので異論はありましょうがとりあえず聞いてください)(なおこのセクションで「ふたり」表記なのは人と人、に限らないためです! 人と犬、犬とロボットとか、いろいろあるよね!)

たまたま出会って、意に反して手を組まざるを得なくなるふたり。

ふたりの間には基本的に、いくつもの食い違い、ディスコミュニケーション、相互への反発等が存在します。バディものにおいて、両者の性格がしばしば正反対であることが多いのはこのためです(性格以外にも、生い立ち、属性、性別、年齢などでもギャップは作れます)。

そして、ともにさまざまな困難を乗り越えていく中で、当初反発を感じていた要素(相手の所属、属性、性格など)の向こうにある、互いの素顔を発見していきます。ふたりの間にある『同じ』がともに大切だと自覚したとき(もしくは同じところがない、という事実を受け容れたうえで隣に立とうと決めたとき)、バディは真の信頼で結ばれます。

『同じ』は夢や目標だったり、共通の敵だったり、好きな人だったり、共有する居場所であることもあります。いろいろです。

バディものの基本構造は以上です。……と私は思っています!

マスラダとタキはどうでしょうか。

ふたりは性格も見た目も正反対です。ニンジャと非ニンジャ、時の流れもアクシデントへの対応(戦う/逃げる)もまるで違います。

けれど2人には共通点もある。
愛してくれた家族の喪失です。

<1>
マスラダ・カイの場合

ワモン・タエイシの遺影の前の灰にマスラダはセンコを刺し、決まった通りの祈りを捧げたが、冥福を祈るよりも、(おやじさんが死ぬまでに、おれは何物にもなれなかったな)という悔恨に近い気持ちが半分以上を占めていた。育ての親のワモンは悪い死に方はしなかった。よく笑い、よく生きた。 1
(略)
マスラダとアユミは、老境を迎えたワモンがそうした仕事を信頼のおける人手に渡したのち、ほとんど気まぐれのように引き取った孤児だった。 2
マスラダもアユミも実の親の記憶は持たなかった。それでよいのだ、とワモンは幼い二人に請け合った。それでもマスラダは物心ついたのち、実の親について深く調べた事がある。結果、ワモンの言葉には嘘はない事がわかったし、それ以上しらべればロクな事にならないと思った。家族はワモンとアユミだ。(『ヨグヤカルタ・ナイトレイド』♯2)

マッポーの世において、読者たる我々よりもはるかにたやすく、「愛する人」は手から滑り落ちていきます。家族はたやすく奪われ、再獲得は困難である。偶さか得た居場所によって殺されることも少なくないし、安全な日常は過酷な受験戦争を伴います。天寿を全うできる人々はめずらしいことでしょう。だから、マスラダの義父はとても良い人生を送ったのだと思います。

マスラダの未練は「一人前になった自分を父に見せられなかったこと」。駆け出しアーティストとして頑張るマスラダ・カイの視線の先には、きっとワモンがいたのだと思います。

義父を失ったあとも、マスラダにはアユミが残っていました。自立して離れ離れになっていたきょうだい。彼らが葬式で再会したあと、またともに暮らしていたのか、別々に暮らしていながら再び連絡を取り合うようになったのかまではわかりませんが、ふたりは家族でした。もしかして別の意味での新しい家族になる可能性だってあったのかもしれません(アユミさんの事情が明かされた今では、その未来はなかったのだろうとわかりますが)。少なくともマスラダは、アユミを守りたかったでしょう。

そのアユミが目の前で死に、真の意味でマスラダの「帰るべき場所」は永遠に失われてしまいます。

義父に見せたかったオリガミ・アーティストとしての将来は断たれ、きょうだいのアユミは殺されました。

マスラダの家族はワモンとアユミ。

奪ったのはサツガイ、だから、マスラダはサツガイを殺すまでは家に帰ることができないのです。

そのはずだったのです。


<2>
タキの場合

バイオイセエビの殻を剥いて育った。だからオレの指先は黒い。死ぬ思いでカネを稼ぎ、旧式UNIXデッキを手に入れてハッキングを覚えたのは、9歳の時だ。15歳の時、姉貴分だった一個上のハッカーが、ニューロンを焼かれてオレの目の前で死んだ。 20
今でもたまに見るんだよ。彼女のユーレイを。昔から霊感が強くてな。……ともかく、そこからオレは犯罪への幻想を捨て、何かマシな生き方を探そうと決めた。だがロクな考えは思いつかなかった。ニューロンの中まで真っ黒に染まってンのかも知れねえな。犯罪はもう、日常の一部になってたワケだ。 21(『トーメント・イーブン・アフター・デス』♯1)

タキはとにかく必死に生きてきました。目の前の労働をこなすだけでは生きていけないからと、技術と道具を手にして犯罪で稼ぐようになります。そばにいたのは一つ年上の少女。多感な15歳のとき、姉貴と慕っていた彼女が目の前で死にました。
これがタキの転機です。彼は生き方を変えようと決心します。犯罪まがいのことはしながらも、前ほど危ない橋を渡るのはやめ、どうにか自分の店を手にしました。それがピザタキです。(こんなに頑張って自分の店を持ったんだから、ちょっとくらいだらけててもいいよね……と思った)

(ところでこの、「昔から霊感が強くてな。」って部分、今後のエピソードへの伏線だったら面白いですよね。霊感エピソードやってほしい。なにか見えるオレはユーレイに憑りつかれてると大騒ぎするタキさん、ニンジャ警戒はしつつも基本は無関心なマスラダ、なにも知覚できないけどめちゃくちゃ興味あるコトブキちゃん。そんな超常現象カワイイエピソードがピザタキには存在するよ(幻覚をキメている)。)

タキが薬を服用できずに精神死しかけるエピソード、『ウィア・スラッツ、チープ・プロダクツ、イン・サム・ニンジャズ・ノートブック』。ここでは急性自我希薄化症で死線をさまよいながら、姉の幻影を見て語りかけるタキがいました。日々を適当に生きるタキの心に、「姉貴」喪失の記憶が深く根を張っていると示す一幕です。

「姉貴。何かおかしいな」オレは呟いた。言葉は文字となりこのコトダマ空間の0と1の滝の中に流れ去った。何かおかしい。そもそも姉貴は焼き切れて死んだんだろうに。我ながら仕方ねえな。オレは……オレは企業アカウントを前にしている。確かアダナス・コーポレーション。そう。何のためだ。 43(『ウィア・スラッツ・チープ・プロダクツ~』♯8)

ピザタキにはクソだけど愉快な常連がいて、綱渡りばかりしているせいでいつヤクザに殺られるかはわからないけれど、少なくとも稼ぎは安定しました。タキがくつろぎ眠れる場所ができたのです。

ですが、姉貴はもういません。

だからタキがヤクザに拉致られてピンチに陥っても、誰も彼を救いに来てくれません。誰も来てくれないことはタキにもわかっていました。

誰か聞こえるか。ここから助け出してくれ。オレにゃカラテもカンフーも銃も無え。おい、誰か!……ああ解ってる。無理だろうな。このままじゃ無理だよな。(『トーメント・イーブン・アフター・デス』♯1)

タキさん、ちゃらんぽらんに見えていつもピンチに備えているし、諦め悪いし(口ではもう嫌だもう嫌だ言いますが)、けっこう足掻くんですよね。ネオサイタマのはずれという、生まれる地域としてはかなりハンデを負ったところで育ちながらも生き抜いてきた地力を感じます。

そして足掻いた結果、タキが取ってしまった手が、死神・マスラダでした。そして死神が、オレンジ髪のウキヨを拾ってきます。

ピザタキが、タキひとりの店ではなくなったのです。


<3>
コトブキとピザタキの場合

「わたしは、ピザタキ出向社員のコトブキです!」女はアイサツし、グレネード・ランチャーを投げ捨てた。 39

かわいい。

たまたま出会った正反対の孤独な2人。そんな2人のあいだに飛びこんできて、ピザタキを「ホーム」にしたのがコトブキです。

彼女は店を手伝い、ピザタキから殺しに向かうニンジャスレイヤーと一緒に出かけていき、一緒に帰ってきます。2人がピンチになれば躊躇なく助けに入り、守ろうとします。ピザタキ社員を名乗り、ピザタキのテレビ台を作ります。

マスラダは恩義を無視できない性分です。
タキにとって「ピザタキ」はようやく手にした自分の城ですから、迷惑な奴らが居座ったからといってそう簡単に捨てられません。コトブキは可愛いし口でも物理でも勝てないし、店員としてよく働きます。タキを脅さないだけマスラダよりマシです。渋々でも受け入れざるをえない。
そんなこんなで、互いに辛らつな言葉を掛けあうマスラダとタキも、コトブキちゃんには攻撃しづらいのです。コトブキ緩衝地帯の発生!
これが「ピザタキ」の転機です。

彼女がやってきたせいで、ピザタキの非日常の中にも「暮らし」ができてしまった。『ストーム・イナ・ユノミ』ラストでモップをかけるマスラダさんが私大好きなんですが、これ、日常の修復行為なんですよね! 壊れたら直して住めるようにする。汚れたらきれいにして住めるようにする。マスラダ・カイが、モップをかける意味ですよ。もっとモップかけてくれ。

喪った家族は戻りません。家(ホーム)もまたしかりです。ネオサイタマでは、というかAoM世界では、そして現実世界においても、しばしばホームの喪失は起こりえます。場所としては残っていても、関係が壊れてしまうことで失ったりもします。

けれど、人と人が繋がって暮らしていけば、いびつな代用品でも、そこに暮らしが生まれて、新しいホームになることがある。それはモータル(タキ)もニンジャ(マスラダ)も同じでしょう。マスラダとタキとコトブキは、『同じ』ホーム……ピザタキを共有している。少なくとも、ナスカ消失前の時期には、不器用ながら共有しかけていたのだと思います。

もっともニンジャとモータルは時の流れが違います。ともに暮らすのは難しく、組織に属さないニンジャはひとつ処に留まらず旅をするしかないのかも……と、AoM以前の私は思っていました。

ですが、『クルセイド・ワラキア』ではモータルとニンジャ(それも、リアルニンジャと憑依ニンジャ)の共存可能性が前向きに描かれていました。だからもしかしてそんな未来も、なんて思ってしまうのです。


代替品が、もうひとつの本物になる。ヒトの代用品が自我を持つように、偽物が本物になることはあります。

マスラダはアユミを失い、ナラクを得て、ニンジャになりました。
復讐が果たされ、サツガイの情報をタキから引き出す必要がなくなったとき、マスラダはそれでもピザタキに帰ってくるのでしょうか。もうひとつの「家族」を彼は受け取ることができるのでしょうか。

積極的には帰ろうとしなくても……、コトブキちゃんに「帰りましょう!」と手を引かれたら、逆らわないんじゃないのかな。なんて期待も込みで思っていたりするのです。
タキも、もしマスラダが帰ってきたなら、「出ていけ」なんてもう言わないんじゃないかと思いたい。

そのとき、孤独だった「ふたり」はもう「ひとり」じゃなくなると思いたいのです。

(ところでモータルよりニンジャは長生きなんですよね? つまりマスラダが爆発四散しないかぎり、タキさんが3人の中で最初に逝きますよね? さらに修理のきくオイランドロイドもかなり長生きする可能性ありますよね? タキさんの死後……を考えると無限に切ない気持ちのまま未来予想図を描けるのでみなさんもやってください)
(……100年後もネオサイタマの49番地に「ピザタキ」という店が残っていて、美しいオレンジ髪のウキヨが切り盛りしている。客がなぜ「ピザタキ」という店名なのか店主に訊くと、彼女はにっこりと笑って……やめやめやめやめ悲しくなってきた!!)(個人的にはネットワーク内に精神だけ生存しているみたいなのが平和でいいと思います、空色勾玉のカラスとかジョジョ5部ラストの亀みたいなアレでよろしく!!)

マスラダとフジキドの、新旧ニンジャスレイヤーにおける父と息子の関係性もぐるぐる考えているのですが、シーズン2でそれっぽい展開がありそうなので、また今度にします。

というわけで今日の雑談はここまで。お付き合いありがとうございました! 


おまけ《手書き感想ノート:第3弾》

さて。当記事のもう一つの目的です!
「おまけ/手書き感想ノートまとめ(第3回)」

私の「ニンジャスレイヤー」感想記事は、読みながらノートにとった感想メモを取捨選択してまとめたものです。その手書きノートのバックアップ画像です。

基本的な内容はほとんどnoteの記事と同じです。差分として、読みやすさを優先してnoteには書かなかった細々としたツッコミやお絵描きがあったりします。

◆こんな感じの画像です(2枚ほど抜粋)◆

画像2

こういうのが、合計52枚あります。毎度ながら多いですね……。

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過去の手書きノートまとめはこちらです。

手書き感想ノート・スズメバチの黄色
手書き感想ノートまとめ・1
 「AoM予告編」~「ストーム・イナ・ユノミ」
手書き感想ノートまとめ・2
 「ダメージド・グッズ」~「オラクル・オブ・マッポーカリプス」

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画像があまりにも多い&制限なしに生原稿を晒すのは少し恥ずかしいため、ここから先は「おまけ」ゾーンです。


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