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アフターコロナの取材現場はどうなる? 河治良幸×ひぐらしひなつ、サッカーライター大放談

ブンデスリーガやKリーグが再開され、国内でも緊急事態宣言は解除されつつあるものの、Jリーグ再開日程はまだ読めない状況にある5月15日。

日本代表を中心に国内外のサッカーを広く取材し執筆活動を続けているサッカーライター・河治良幸氏とのコラボレーション企画対談の合間に、ちょっと脱線してこれからの仕事の仕方について話しあいました。試合開催方法にともなって取材条件も大きく変わってくると思われる今後、われわれフリーランスのライターはどういう状況に置かれるのかが気になるところ。とりとめもない会話の中から、現場の実態などをお伝えできれば幸いです。

河治良幸(以下か):どうですか最近は。忙しそうだけど。

ひぐらしひなつ(以下ひ):いや忙しいと言ってもクラブオフィシャルの仕事でスポンサー露出のための動画編集とかに追われていて、サッカーの本筋のところはなかなか深く掘り下げれてない。

か:まあやることがあるだけいいかと。

ひ:もちろんクラブとかリーグ本体がなくなっちゃったら話にならないので、出来るだけ貢献したいとは思ってるけど。

か:シーズンが再開してもどういう過密日程になるかわからないしね。

ひ:うん…でも7月には再開しなきゃヤバい感じもあるでしょ。

か:DAZNも据え置きにしてくれてるから、Jリーグ側にも日程を消化しなきゃいけないっていう使命感があるしね。

ひ:それで無観客試合になった場合さ、あたしたち現地で観れるのかな。それともやっぱDAZNで観てくださいってことになるのかな…。

か:試合は現地で観れるけど、試合後に選手との接触は出来ないとか、会見に代表で選手が出てくるだけになるとかの可能性もあるよね。

ひ:うん。でも現地で観れればマシかな。まだ書くことあるよね。選手コメント取れないのも困るんだけど。

か:コメントが普通にオフィシャルで上がるレベルにとどまっちゃうと厳しいよね。スタジアムに行かずDAZNで観るだけで記事書く人との差別化が図れない…。

ひ:リモートでもいいから取材させてもらえればいいんだけどね。

か:そうそう。現地リモートみたいな形でやれるなら、多少は新聞社とかとカブっちゃうけど、そこは生かし方だから。でも公開されるものが少なくて出せるものがすべて同じだとキツいよね。

ひ:キツい。ほんとキツい。ていうか、新聞社とかとごっちゃになって、1人の選手を20人とかで囲んじゃう状況、まあ代表とかはつねにそうなんだけど。そういうときってさ、あたしたちが質問したいことを質問してるあいだって、新聞記者の人たちに申し訳ないなと思うでしょ。

か:あるよね、気にしちゃうよね。つかまえて聞いてるときも、周りを気にした質問になっちゃったりさ。

ひ:そうでしょ。チームバスが出るまであんまり時間ないし、あたしがいちばん聞きたいところを聞いてたら、新聞としていちばん美味しいとこを聞く時間がなくなるだろうから、こっちでそれも聞いとかないといけないよねとか気を使う。そういうやりづらさは絶対出てくるよね。

か:出てくるだろうねえ。

ひ:だからせめて現地で試合を観て、新聞では書かれないような細かいところをあたしたちは書いていかないと厳しいと思うんだよね。

か:そうだね。番記者さんとかなら、たとえば試合の翌日とか翌々日に練習に行って、どういうかたちであれさらに個別に話を聞く環境が維持されればちょっとはいいけどね。

ひ:でもどっちにしろあたしたちもグラウンドに行けるようになるかどうかわからないし。

か:そこはセットかなと思う。要するに試合で出来ることと練習で出来る取材があって。試合の日がそういうかたちであっても練習の日には一応聞けるような機会が持てれば多分、違ってくるんだろうし。

ひ:試合の2日後とかにリモートで取材できるようになれば、たとえば東京にいる人も大分の試合を観たあとでリモートで聞くことは出来るじゃん。

か:うーん。でも俺は、現場の人が優位でいいと思うけどね。正直それはそれでいいと思う。逆にこっちはFC東京の取材とかに行けるわけだから。でもそれひとつ取っても、クラブによって対応が違ってくるだろうしね。湘南とか山口だったら極力、聞けるようにしてくれる度合いが高いと思うんだけど。

ひ:大分は厳しいかもな…リーグ中断当初、片野坂さんは絶対に感染者を出さないという意思の下で強度の高いガードを敷いていたから。2月26日から速攻、非公開にするのも早かったし。その後はクラブの対応が遅くて、リモートで取材させてくれってひたすらお願いして実際に風穴が空くまで1ヶ月以上かかったもんね。

か:よくそれでもやってくれたからよかったけどね。

ひ:いや、同業者の人たちから毎晩のように半泣きの連絡が送られてくるわけよ。「俺もう仕事できないよ、大分も取材できないの」みたいな。それを「もうちょっと待って、もうちょっと待って」って言いながらクラブと交渉して。きっと全国のサッカーライターがこういう状態だろうから、自分のためでもあるけどみんなのためにもって。

か:もちろん全国の記者が取材できるようになればいいんだけど、やっぱりまずは番記者だと俺は思う。

ひ:それはそう言っていただけるととってもありがたいんですけどね。

か:いやだってそれで普段から取材してないライターが番記者と同じ土俵に立てるのはおかしいし。

ひ:でもまああれだよ。うちの番記者だけじゃ露出媒体も限られてくるから。そういうとこよ。

か:うーん、まあ、トリニータ全体のことを考えればね。やっぱりクラブもサービスのところはちょっと頑張ってよとはあるかもしれないけどさ。…そうなんだよ、今後さ、クラブによって相当そういうところで差が出てくるからさ。

ひ:取材しやすいクラブに殺到するだろうしね。特にリモートでどこからでも囲み取材に参加していいよっていう話になったら、余計そうなっちゃうでしょ。足を運んで現場で取材するっていう労力をかけずとも、簡単に話が聞けちゃう。しかも囲み取材だと、真面目に準備してきて質問してる人が引き出した話を、そのネタで全員が記事を書けちゃうわけだから。

か:そう。だからね、そこが蔓延してくるとよくないんで。

ひ:なんか自分がすごいケチくさいこと言ってる気もするんだけどさー。

か:いや。そこは今回のことで味をしめないでほしいね。リモートでもいいから、せめて現場に行ったところでのリモートとかさ。それが出来たらいいけどね…。

ひ:厳しいよね。この状況で今後あたしたちどうやって、他より濃いコンテンツを出していけるんだろう…。

か:そうだねえ、クラブの裁量のところかなあ。Jリーグからお達しが出たらもう仕方ないけど、クラブの裁量で済むところで、なるだけ現場っていうのがリスペクトされた状態になるかっていうのが、すごく今後は大事で。多分FC東京とか川崎Fは多分、結構早いタイミングで、現場での2メートル距離をとった状態での囲み取材とかが可能になる気がする。

ひ:そうだねー、小平とかやりやすそうだしねー、ネットで囲われてるし。

か:湘南はもともとそういう体質だし清水エスパルスもそう。最初から厳しい横浜FCとかジュビロ磐田とかはそもそもからして塩なんで。名古屋はすごく線引きをちゃんとしてくれる。たとえば選手3人を出してきてくれて、そこで必ずちゃんと取材してくださいとか、すごくきっちりしてる。そのきっちりしてる中でもこっちがちゃんと取材できて素材を取れるところもわかってくれるから。

ひ:もう、湘南の遠藤さんが全クラブにいてくれたらいいと思うよ…。

か:ホントそうだよねー。湘南は結構、練習再開イコール取材可能になるという状態に近いと思うんだ。おそらく現場で何らかの形で、リモートとかでなくちゃんと囲み取材が出来るようにしてくれると思う。接触しないかたちとかで上手くやってくれるんじゃないかと思う、さちえちゃんは。

ひ:あの人はいろいろと工夫してくれるもんね。

か:おそらくね。それだけにこれまでも湘南は感染者が出ないかと心配ではあったけど、大丈夫だったからよかった。まあもともと取材者も少ないんで…。

ひ:ははは。それもつらい…。

か:関東もそれぞれクラブによりけりで、柏レイソルとかジェフ千葉は、多分1週間に1回っていう取材ルーティンが普通に復活するんじゃないかと思うけどね。

ひ:外国籍監督のとことか特殊だろうしなー。

か:柏なんかは1週間に1回しか取材させてもらえない代わりに、その日はすごい自由だったりする。クラブごとにいろいろで本当に面白いよね。

ひ:週1しか取材できないときって、ゲームとかは見れるの?

か:ゲームは多分見れないと思う。だからそのときにやってる練習次第ってところもあるけど、でもそんなに隠して練習してる感じもなかった。別に普通に練習してる中で1週間に1回って感じだった。中断期間に入って、まだ緊急事態宣言とか全然出る前の時期に。

ひ:試合取材も大変だろうなー。あたしなんかアウェイも全試合行ってるから、過密日程で選手はターンオーバーできてもあたしはターンオーバーできないわけよ。どうなるんだろうって。

か:確かに今後の遠征は3日に1回、3日に1回とかのペースになる可能性あるんだよね。

ひ:うん。死ぬ(笑)。

か:アウェイアウェイで北海道の次が広島に飛びましたとか(笑)。

ひ:ありえるもんね…。ただ、あたしも替えがきかないけど、監督も替えがきかないから、リーグも監督にはそんな無茶はさせないかなっていう希望的観測は持っていたい…。なんか中立地開催みたいな選択肢もあったでしょ。

か:あったね。カレンダーは本当にその中で、ホーム・アンド・アウェイの距離とか、「日程くん」に頑張ってもらうしかないだろうね。メディアもそうだけど、選手とか監督が、極力負担のないようにホーム・ホーム・アウェイとかいった感じにしてくれると。

ひ:日程くんもまさかのタスクを課せられたね…。

か:もともと「九州の中でのホーム・アンド・アウェイはこのタイミング」とかあったじゃん。九州のチームって開幕してしばらくはあんまり関東に来なかったりさ。ああいうのもきっとそういう工夫がされてる結果なんだろうけどね。そこも組み直しなんだろうなあ。いやあ、本来なら今週はトリニータはヴィッセル神戸戦ですよ。イニエスタが来るだの来ないだの。

ひ:藤本憲明が出るだの出ないだの。

か:そうだよねー。言ってたタイミングだよねー。

ひ:まあこうなった以上、なんとか臨機応変に乗り切りましょう。

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