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いま「町田也真人が町田也真人になった過程」を書いた理由

5月29日18時。ついに正式にJリーグ再開日程が公式発表されました。ちょうどその時刻はzoomによるJリーグメディアブリーフィングの最中。内容詳細はここに書くべきものではないので各メディアの報道を御覧いただきたいのですが、とにかくリーグを再開するために、とてもたくさんの人の力が動いているのだということだけはお伝えしたいと思います。感染者数が減ったかと思ったらまた増えたりしていて、第2波、第3波の到来も懸念されつつ、様子を見ながらその都度対応していくしかない状況。チェアマンの「再開する覚悟」という言葉も印象に残りました。

そのブリーフィングの前後で書き上げたのがこの記事。大分トリニータ公式メディア「トリテン」に掲載したコラムです。トリテンは月額税込330円の有料メディアなんだけど、これは無料公開にさせていただきました。有料会員の方にとどまらず、多くの人に読んでいただきたかったからです。

今季、大分トリニータに完全移籍してきた町田也真人選手のことは、彼がジェフユナイテッド千葉でプレーしていた頃から注目していました。対戦相手としてとても嫌な選手だった、つまりすごくいい選手だと思っていました。

昨季は松本山雅に移籍。初めてのJ1チャレンジは、残念ながら怪我がちであまりプレーを見ることは出来なかったのですが、その町田選手が秋、自身のSNSでひとつの告白をしました。

これにはとても驚きました。町田選手を町田選手たらしめている大きな要素のひとつは、素晴らしいポジショニング能力。でも、立ち位置を決めるときって、視覚や聴覚、いろんな情報をもとに判断していると思うんです。片耳が聞こえない状態で、支障はないのだろうか?

そこでわたしの中にひとつの仮説が生まれました。右耳が聞こえない彼は日常生活の中からつねに、人の右側に位置取るようにしていたと言います。相手に気を遣わせるより前に、自分にとって最適な位置を選ぶ。子供の頃からのそんな習慣が、彼のポジショニング能力を磨いたのではないか?

そこには町田選手の、他者への配慮を怠らない人格が、大前提としてあります。それってすごいことなのではないだろうか。

とは言え、一歩間違えれば不謹慎と叱られそうな仮説です。町田選手が大分へ移籍してきたことで、仮説について問う機会は得ましたが、移籍してきたばかりの選手にそんな突っ込んだ話をしてもいいものかという逡巡は当然あり。それでも鹿児島キャンプ中に最初にそのことを聞いたのは、町田選手が自身の片耳難聴をハンディキャップとは捉えていないという確信を持てたからでした。加えて、現在の彼がプロサッカー選手としてリスペクトできるレベルに成功していると判断したからでもあります。

もちろん、そこに至るまでには聴覚とは関係ないサッカー的な部分での努力もあったと聞いています。当然と言えば当然ですが、悔しい経験もたくさん重ねてきたようです。

そういうものを乗り越えながら、片耳難聴であったり、サッカー選手としては決して恵まれているとは言えない体格であったりを、むしろ強みに変えてプレーしているように見える。町田也真人を町田也真人たらしめている、アイデンティティーを支えるひとつの要素として、身体的特徴を含むいかなる条件も前向きに受け入れ、味方につけているように感じるんですね。

ゲーム中の町田選手は絶えず周囲の選手がどうしたいのかを観察しながらプレーしていると言います。それが瞬時に、かつ正確にわかるのは、それだけですごいこと。たとえば日常生活の中で相手がどういう動線を取るか、他の人がどの席に座るか。そういうものを見極めながら、最もスムーズに話が出来る位置に自分を置こうとしてきた、そんな周囲への配慮が、この能力を磨いてきたのかもしれないと思うのです。それは全く、臨機応変に状況に対応しながらゲームを展開していく現代サッカーにうってつけじゃないですか。

いま、日本社会も少しずつ「with COVID-19」へとシフトしつつあります。6月27日に再開するJ2とJ3、そして7月4日のJ1。リーグ管轄の下にPCR検査を行うとともに、最初は無観客での開催。その後も社会状況を見ながら、その都度、柔軟に運営方法を変えていかなくてはなりません。

きっとその中では不便なことや残念なこともたくさん起きてくるでしょう。それを「不便」「残念」と捉えてしまえばそれはそれで終わってしまうのだけど、これまでの価値基準の下では不便や残念さを感じる状況であったとしても、そこで最大の価値や喜びを得たり生み出したりするようにパラダイムシフトできれば、それは新しい可能性になります。

今後、そういった状況にぶつかったときに、多分わたしは町田選手のこのエピソードを思い出す。人によってはネガティブなハンディキャップとなってしまいそうな条件も、ポジティブなものへと反転させていく力。そのお手本のひとつを示してもらったような気がしているのです。

だからこそ、この記事を、このタイミングで書きました。社会貢献活動を続けている野村直輝選手、スポンサー訪問を続けている伊佐耕平選手の記事とあわせて、是非御覧いただければと思います。いずれも無料公開記事です。


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