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俳句を詠んでみた(注連綯う) 

眼裏に注連綯う父の若かりし 

(まなうらに|しめなうちちの|わかかりし)

幼い頃、暮れになるとしめ縄を綯う父の手元が面白く
後をくっ付いて回っていた。
寒い戸外で、漁具の納屋やウィンチ小屋の入り口、
流氷を避けて高く巻き上げた船にも注連縄をはった。
私の名前を船の名に付けてくれていることが、なんだか誇らしかった。
戦争が終わってから生まれた私に父は、「日本の夜明けという意味があるんだよ」と名付けの由来を教えてくれた。
山に入ってクリスマスのツリーを伐ってくれた父、餅を搗く父、しめ縄を綯う父、若水を汲む父、本を読む父、書き物をする父。
流氷に閉ざされる漁閑期の、穏やかな父の横顔。
亡くなって四十八年になろうとするいま、なぜかしきりに思い出される。

表紙の擦り切れたルソーの「民約論」の冊子に、三十六歳の父の熱い書き込みを見つけた。
達筆すぎて読むのに苦労したが、十九歳のとき初めて読んだと回想している。
書き込みの日付が奇しくも私の生まれた年だった。
本州、樺太、北海道を旅した本。