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(6) 真・アンチエイジングのススメ (後編) /歯科医師・野地一成の「維持論」

「歯」は一生付き合っていく大切な道具であり、仲間であり、自分自身。

いつまでも食べ物を美味しく噛んで食べられるように、歯の痛みで嫌な思いをしたり防げたはずの悪化で余計な治療費がかかったりしないように、私たちはもっと歯と大事に付き合っていかなければなりません。

そのためには、かかりつけ医と言える信頼できる歯医者さんを見つけることが大事ですが、世の中にコンビニの数よりも多いと言われる歯科医院の中で、そんな信頼に値する歯医者さんはどうやったら出会えるのか?

そして私たちは、歯に対してどれだけの維持管理の意識を持っておかなければならないのか?

生涯歯を残していくための治療方針を徹底する、東京都千代田区の野地デンタルクリニックの野地一成先生に、維持管理の大切さをお話し頂きます。

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 ▼野地 一成 (のじ いちなり)

野地デンタルクリニック院長。歯学博士。東京都出身。2007年に地元の神田小川町にて野地デンタルクリニックを開業。2010年より母校の日本大学松戸歯学部薬理学教室兼任講師。臨床歯周病学会、スタディグループ救歯会、臨床歯科を語る会所属。発表論文も多数。

野地デンタルクリニック

・公式ブログ「のじでんのひとりごと

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『ビジネス発想源 Special』の「各界発想源」にて2012年11月に連載され大好評を頂いた『歯科医師・野地一成の「維持論」』を、noteに再掲載することになりました。ご自身の歯の維持管理、身体の健康管理はもちろん、会社の設備や工具のメンテナンス、社員やお客様との長いお付き合い、良質な経営の維持など、お仕事にも活用できる多くのヒントが見つかると思います。ぜひご利用下さいませ。

※連載当時の、読者の皆さんの質問に野地一成先生がお答えする「Q&A」も掲載致しました!

※連載当時に同時掲載し好評を頂いた、『ビジネス発想源』筆者・弘中勝による便乗連載企画『弘中勝の「勝手に維持論」』も収録!

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●歯科医師・野地一成の「維持論」

  〜長く正しく付き合えば、長く愉しく幸せに。〜(全6回)

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【最終回】 真・アンチエイジングのススメ(後編)

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皆様こんにちは、

歯科医師の野地一成です。

先週に続き「歯科医師・野地一成の維持論」の最終回、今回は「後編」としてお届けします。

今回が本当の最終回となります。

前回の「前編」の内容を今一度読み直して頂いてから今回の「後編」を読んで頂ければ、より理解が深まります。

・前回の「前編」の内容

  <1>「歯の生涯図」

  <2> 歯とアンチエイジング


それでは、最終回「後編」です。


<3>「維持」の本質を考える先生、考えない先生


私は大学院を出たので、卒業した時は28歳でした。

「28歳の歯学博士の歯科医師」ってすごい治療ができそうに聞こえませんか?

でも、基礎の大学院に週6日研究してマウスの世話をして、試験管を振ってるわけですよ。(笑)

治療なんかできるわけがありません。

週6日研修して、日曜日の1日を町の歯科医院でバイトして治療をして……なんていう生活を4年間やりました。

大学院を卒業してからは、他の若い先生と同じように、わけも分からず、いろいろなセミナーや講習会を受けて、まず「技術」の向上を目指しました。

確かに腕(技術)は上がりましたが、卒業して数年たったある程度治療ができる若いドクターにありがちな、鼻っ柱のつよい謙虚さのないドクターでした。


当時の私に限らず、この時期のドクターの勘違いは、患者さんにとっては「害」以外の何者でもありません。

「自分の行った治療は一生持つ」と思ってますから。


そしてこの時に最も陥りやすいのが、

「完全」「完璧」「永遠」

といった、分かりやすい考え方です。

当時、私も御多分にもれず、「永遠で完璧を目指す危険人物」だったと振り返ります。(笑)


「完全」「完璧」「永遠」って、とても響きのよい単語です。

なので、そういうものに惹かれやすいのでしょう。

歯科医師が聴講するセミナーでも、「講師の○○先生の施術は一生持つ」と直接は言ってなくても、明らかにそんなミラクルを連想させるものがあります。

当然、集客して採算を取らないといけませんからね。そういう響きの良い単語で釣ろうとするのです。


でも、世の中にあるもので、特に毎日使うもので、「一生持つ」ものなんてありますか?

身の回りの物品では、靴、眼鏡、家電製品……

医療の分野では、義手、義足……

人が普段使うもので。「一生持つ」というものって、なかなかないのです。

このあたりは、最後に後述します。


そして、そのような勘違いに陥りやすい時期を経て、歯科医師はここからだいたい2種類の先生に分かれます。


・経過をちゃんと追って、自分の行なって来たことを見つめて謙虚になる先生

・そのままの傲慢路線で行ってしまう先生

という2つのタイプです。


前者の先生は、自分の行なった間違いをフォローしようとします。

「歯の生涯図」を見ると一目瞭然ですが、10年未満の未熟なドクターのやったことが「一生持つ」なんてなかなかない、とようやく気が付くのです。


後者の先生は、間違ったことに気付けません。

患者さんが離れてしまうので経過を見ることができない、もしくは経過から目をそらして見ようとしないのです。

だから、勤め先を複数持ったり、勤め先をすぐ変えてしまったりします。


また、前者の先生は、「治療経過を追うため」「自分の研鑽のため」に記録(レントゲンや写真)を撮りますが、

後者の先生は、「診療点数が取れるため」に記録を撮ります。


前者の先生は、撮り貯まった記録から「経過中の変化」に気付くようになります。

つまり、自分の研鑽のために撮っていた記録が、患者を守るために記録を撮るようになりるのです。

そして、上述の治療効果のための治療方法技術の研鑽をするようになります。

後者の先生は、同じ治療法を10年も20年もやるのは飽きてしまうので(←本当みたいです(笑))、新しい方法を次々と導入して、経過は追わない、という事態になります。


前者の先生は「維持」を純粋にさせるために、誰にも見せない地味な努力をしていきます。

何かを長い間「維持」させるということには、患者さんには特にアピールをするほどでもないようなじみーなことを地道に積み上げていかないと達成できないのです。

レントゲンの画質調整にこだわったり(こだわった結果、デジタル画像では限界があるのでフィルムの手現像をおこなったり)、

スケーラー(歯石を取る器具)の研磨にこだわったり、

詰め物の適合(歯との合わせ目の精度)にこだわったり、

歯ブラシ指導の内容にこだわったり…。

このように、まっとうな治療を行おうとする先生は地味なことを積み重ねながら、自分のした治療に「魂」を込めます。

歯ブラシの指導も、言葉一つ一つに「言霊」が宿ります。


後者の先生は「維持」できるような「必殺技」を探すことに一生懸命になります。

安易なインプラントを入れてみたり、殺菌水でうがいをさせて歯周治療と称したり。

本質に迫るためではなく、集客や効率のためだけに新しいテクニックやノウハウに没頭するので。


でも残念なことに、この両者の先生の違いは、患者さんの目にはとっても分かりにくいものです。

だから、かかりつけ医たりうる存在で患者さんの分かりやすい部分として…

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