恋人どうしが公共の場で、近づいて囁き合う幸せについて
「今日、楽しかったね」「うんうん、また行きたい」
そう言うと私の目の前にいるカップルはお互いに顔を見つめて、手を繋ぎ合った。
東京駅、中央線に向かう長い長いエレベーターでの出来事。きっと2人はあの、夢の国からの帰り道。繋がれていない手にそれぞれ、カラフルなお土産袋を持っている。
ちらりとその2人を盗み見る。
ああ、いいなあ。ほんとに夢の国から帰ってきたの? これからも夢みたいな毎日が続くんじゃないの? いいなあ。
後ろにいる私はといえば、打ち合わせ帰りでへとへとだ。
エレベーターに乗っているカップルは、私が見る限りみんな幸せそうに見える。きっと、公共の場だけど、公共の場の中でも物理的に距離が近くいれるからだと思う。それも、半強制的に近くにいれる。2人の意志で距離が近いのではなく、エレベーターの構造上近くなってしまう、という緩やかな言い訳。
ちなみに、電車で隣に座るのも代表的な例だ。
ただの歩道であれば、手を繋ぐだけで2人の距離は50センチくらい。でも、エレベーターも電車も推定20センチ。彼女が前で、後ろを守るように彼が立つ。近い。
磁力が引き合うように、顔を見つめて、手を繋いで、腰を抱き合ったりする2人もよく見かける。いいなあ。
そんなふうに、公共の場で物理的距離が近い状態を長く維持するために必要なのもまた、距離なのかもしれない。
短いエレベーターよりも、東京駅の中央線に向かうような長いエレベーターが。快速で向かう一駅よりも、各駅停車で向かう15駅が。
と、ここまで帰りの電車で打っていたら、緊急停止信号で電車が止まった。
私の左隣にいるカップルは顔を見合わせて、「ふふ」と笑っている。ああ、いいなあ。私は今、この左隣にいるカップルに教えてあげたいことがある。
それは、私の最寄駅にある商業施設のエレベーターについて。
そのエレベーターは長いうえに、めちゃめちゃ遅いのだ。ファミリーマンションが多い郊外だから、子どもや年配の方に向けたスピードなのだけれど。
「あ、動いた」「ね、よかった」
小さな囁き声が隣から聞こえる。2人の間には、きゅっと結ばれた2つの手。いいなあ!
”終わりよければすべてよし” になれましたか?もし、そうだったら嬉しいなあ。あなたの1日を彩れたサポートは、私の1日を鮮やかにできるよう、大好きな本に使わせていただければと思います。