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何者にもなれない私。だけど私は、私になれる

「おれ、お前のこと好きで……だから付き合ってほしい」

そう言って彼は下を向く。少しだけ目にかかる前髪。恥ずかしそうに右手で後頭部をかく仕草。それでもう一度遠慮がちに私を見る。私の言葉を待っている。だけどすぐに目をそらすーー。


中学生のとき、友達だと思っていた男の子から告白されたことがある。


その日の夜、布団の中で何度も何度も同じ場面を再生した。「おれ、お前のこと好きで」のセリフから始まり、目をそらす。そしてまた「おれ、お前のこと好きで」がエコーのように耳に鳴る。

思い出すだけで胸がじんじんして、手足をばたばたさせる。「好き」と自分で呟いてみては、布団を抱きしめてもだもだする。気持ち悪いとわかっているのに、それ以上のきらきらした気持ちが自分の中で弾けて止まらない。

「おれ、お前のこと好きで」のひと言は、鋭いけど柔らかな破壊力で私に伝わってきた。


時はかわり、今日。

先日noteにも書いた「自分の道を言葉でつくるための連続講座 企画メシ」の第1回講義があった。

事前課題「自分の広告」を提出した47人の顔がオンライン、パソコンの画面に等間隔にコマ割りされて並ぶ。

定刻13時。主宰のコピーライター阿部広太郎さんから、企画メシにかける想い、今回の課題の意図が解きほぐすように語られた。

悩みや葛藤、悔しさ、羨ましさでぱんぱんになった私たちを、阿部さんがそっとそっと包み込むように講義が進む。ぎゅうっと抱きしめるような強さじゃない。両のてのひらで、そっと掬いあげるような強さ。

いろんな気持ちでない交ぜになった私たちを、「それでいい」と柔らかく、だけど確かな温度で鼓舞してくれる。その包み込まれた安心感を感じたのは、きっと私だけではないだろう。


でもやっぱり。

どんなに包み込まれていたとしても、ぱんぱんに膨れた気持ちがなかなか消化しきれないのも事実だった。

共有された事前課題もそうだし、企画生どうしが感想を伝えあう「感動メモ」でも、ずっと羨ましさが消えてくれない。各人の企画や、書かれた言葉を目に入れるたび、「いいなあ」「すごいなあ」の想いがふっくら、勝手に湧き出てしまう。

「他人と比べるのは、悪いことじゃない」

講義中、阿部さんはそう言ってくれた。しかし私にとって、それを受け入れる作業はなかなか難しい。

そのとき、阿部さんはこうも言った。

「自分を勝手に諦めない。自分を勝手にみくびらない。自分を勝手にきめつけない」

その一言にはっとした。

何者かになりたいとまさに今、もがいていた。あの人みたいに企画できたらよかった。この人みたいな職業についてればよかった。そしたら私も……周りと比べたあと、自分の現在地を見て泣きそうになった私がいた。


「あなたは何者にもなれない。だけど、あなたはあなたになっていく」


すうっと肌に馴染む化粧水のように、その言葉がゆっくりと私に浸透する。

私は、何者にもなれない。それはきっと今までもそうだったし、きっとこれからもそうだろう。けれど、私は私になれるのだ。いや、私は、私にしかなれないのだ。


染みわたったその言葉を筆頭に、オンライン中、阿部さんの言葉が”伝わって”くるのを感じていた。

「言葉が大好きなんです」と言っていた阿部さんの言葉がこうも伝わるのはきっと、阿部さん自身がそのことについて長い時間考え、咀嚼し、そして自分の言葉(講義中では、マイ定義と話していた)にしたからなのだろうと思う。

阿部さんの言葉は、阿部さん自身が生み出した生の言葉。阿部さんの言葉。講義のために作った言葉じゃなくて、ぽたぽたと垂れた水が鍾乳洞を作るように、積み重ねた結晶のような言葉だ。

だから、伝わってくる。

そこで私は、連続講座の枕詞を思い出す。「自分の道を言葉でつくるための連続講座」

その体現者こそが、主宰の阿部さん自身なのだ。


冒頭、私に「好きだ」と伝えてくれた男の子のことを思い出す。

彼自身が生み出した、彼の言葉でまっすぐ私に伝えてくれた。だから想いが私に”伝わった”。思い出を反芻したとしても、今なお新鮮な気持ちが湧き出てくるぐらいに伝わった。

恋愛って、”伝わる”行為の最上級じゃないか。そんなふうに思う。だから私もこの半年間で、私に”伝わる”ようにしたい。

「私は、私にしかなれない。だから、自分の道を、自分の言葉で見つけに行こう。私は私が、好きだから」

そして、企画生にも恋愛のように伝わってほしい。

「私、この企画メシでみんなを好きになる。だから、たくさん話そう。たくさん言葉を交わそう。もがく者どうし、半年間よろしくお願いします」

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