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2022年上半期に読んだ本

 2022年。本読んで、映画観て、音楽聴いて、note書いて、ご飯食べて、寝て起きたら半年経っていた。

 今日の記事は私的な備忘録として、今年上半期に読んだ本を、極めて雑にレビューしていく。

独断と偏見に満ち満ちた星評価


「ヘンタイ美術館」
山田 五郎 著, こやま 淳子 著

★★★★★

 レオナルド・ダ・ヴィンチなら知ってるけど、ラファエロ?何それ?美味しいの?レベルの”アート無関心層”にも自信を持ってオススメしたい作品。

 美術界の偉人たちを「誰が一番ヘンタイか?」と言う切り口で山田五郎が語っていくのだが、美術素人代表として人気コピーライターこやま淳子がトボけた質問をかましていくのも笑える。

 遠い昔の天才たちが、職場や友達の中にいるヤバい奴らと重なり、めちゃ人間味を帯びてくる。

 笑いながら教養が身に付く山田五郎のYouTubeも併せてオススメしたい。


「神様からひと言」
荻原 浩 著

★★★☆☆

 広告代理店から食品会社に転職した主人公の奮闘を描いたコメディタッチのエンタメ小説。滑稽なほどのサラリーマンの悲哀と、痛快な下克上的ストーリーが、軽快な文体でテンポよく進む。面白くて途中何度も吹き出した。読後感も爽やかで気軽な暇つぶしにぴったり。


「あなたにオススメの」
本谷有希子 著

★★★☆☆

 2つの物語が収められているのだが、登場人物の誰にも共感できない。友達になりたくない。

 まず「推子のデフォルト」はデジタルに依存しきった近未来で子育てする2人のママの対比が核となっている。子供を「等質」に育てると言う”度を超えた同調圧力が常識となった未来”が、まんざら絵空事ではない感じが恐ろしい。

 短編の「マイイベント」は、巨大台風の夜に、謎の選民意識と優越感で常に人を見下している主人公の部屋に、同じマンションの低層階に住む家族がド厚かましさMAXで避難してくる話。

 ストーリーの後味も最悪だが、それってひょっとすると同族嫌悪?と思うとさらに胸糞悪さMAX。きっと誰もが一皮剥けば似たような嫌らしさが隠れているのかもしれない。と言うわけで一読の価値あり。


「残月記」
小田雅久仁 著

★★★☆☆

 月が放つ不穏な美しさモチーフした3つのダークファンタジー。

 ピンクフロイド の「狂気」=the dark side of the moonを彷彿とさせる月が裏返る物語や、「月昂」と言う病が蔓延する世界を舞台とした戦いと愛の物語など、どこかファイナルファンタジー的ゲームっぽい世界観。読了後、月を眺めながらドビュッシー「月の光」やベートーベン「月光」でも聴きたくなる。

 ただ、人物や風景の描写が丁寧過ぎてやや冗長気味なため、せっかくのスリリングなストーリー展開がまどろっこしく感じた。


「夜と霧」
ヴィクトール・E・フランクル 著

★★★★★

 アウシュビッツに強制収容された経験を持つ精神科医・心理学者による手記。感傷的な日記でも糾弾的なドキュメンタリーでもなく、学者としての冷静かつ客観的な視点で淡々と書かれている。

 収容されている者、監視する者、それぞれの状況や心理状態、それは想像を絶するが、その悲惨さや絶望が極限に達した時、人間の底力、自然の輝き、命の価値、愛の本質が明確に浮かび上がってくる。

 5年前、アウシュビッツを訪れたとき、現地ガイドに紹介してもらった必読書を久しぶりに再読した。何度読んでもこの一説にグッとくる。

世界はどうしてこんなに美しいんだ!

 哲学書やバイブルに近い希望の書。絶対に読むべき1冊。

  

「なつかしさの心理学」
日本心理学会 監修

★★★★☆

 心理学、脳科学、マーケティング、理学など様々な分野の専門家が、”懐かしい”という感情を研究し1冊にまとめた学術書。

 懐かしさ商法がヒットを生む仕組みが素人にもわかりやすくレポートされている。2014年発行なのだが、懐かしさの普遍性は2022年に読んでも違和感がなかった。

 この記事を書くために買った参考文献である。


「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」
若林 正恭 著

★★★★☆

 キューバ 、アイスランド、モンゴルへの旅を主軸としたエッセイで、何の飾り気も外連味もない素直な文章が暖かくじんわり沁み込んでくる。まるで友達の日記を読ませてもらってるみたいだ。父親とのエピソードに思わず涙。

 楽しいだけじゃなく、旅先での出会いやエピソードにちょっぴりセンチメンタルでビターな心模様が揺らいでいて「ああ、旅に出たいなぁ」としみじみ思う。旅をするとお悩み解決とまでいかなくても、何か大切なことに気づくものだから。

 DJ松永による若林への手紙のような”解説”を読んで、DJ松永の書いた本があったら読みたいと思ったが見つからなかった。

誰かの為ではないことが、誰かの為になることがある。
俺はあなたから、そう教わりました。

表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬「解説」より


「二重らせんのスイッチ」
辻堂ゆめ 著

★★☆☆☆

 読みやすいライトノベル。ただそれだけ。ミステリーのキーとなるフックもありきたりだし、読み終わった瞬間から記憶からズリ落ち、正直どんな話だったかもほとんど覚えていない。

 でも案外、こういうのがイケメンアイドル主演で映画化とかされちゃうのかもしれない。


「ボクたちはみんな大人になれなかった」
燃え殻 著

★★★☆☆

 どこにでもいる冴えない普通の若者がおじさんになり、恋に仕事にもがいていた青い25年前を思い出すという何の変哲もない物語なのだが、感想を一言で言うなら「エモい」。これに尽きる。

 甘酸っぱいのである。90年代が青春だった40代、50代ならキュンキュンくるに違いない。

 だが、文学的な表現力も小説としてのエンタメ性も示唆があるわけでもない。だから星3つにしたのが、ネトフリで映画化されていて、これがもうとんでもない化学反応を起こしていた。

 まず、主演の森山未來と伊藤沙莉の演技が素晴らしい。特に初々しい21歳から、スレっからした46歳までを演じ分けた森山の演技は圧巻だ。さらに、小沢健二をメインとした90年代を彩ったJ-POPのヒット曲がエモさに拍車をかける。

 小説が”この映画の生みの親”だという点に於いては文句なしの星5つだ。


「風姿花伝・三道」
世阿弥 著

★★★★★

 言わずと知れた能の神様「世阿弥」が記した芸事のバイブル。あまりにも有名な「秘すれば花なり秘せずは花なるべからず」をはじめ、幼少期から老年期までそれぞれのなすべき芸についての記述は、芸事のみならず、そのまま人生に置き換えられる。

 私にとっては「いきの構造九鬼 周造)」、「思考の整理学外山滋比古)」と並んで、ことあるごとに読み返している大切な一冊である。

「夜が明ける」
西加奈子 著

★★★★☆

 重い。ずっしりと重い。辛うじて光のようなものが見えないこともないのだが、それはあまりにも遠く頼りない。

 貧困、差別、虐待、犯罪、障碍、そして過重労働と不幸のてんこ盛り。文体はカサブタのように乾いているのに、その下の傷は化膿しているみたいに熱を帯びている。

 主人公の親友であるアキは、生まれた時から何ひとつ恵まれていない。だが、なぜか悲壮感がない。つまり、最初から不幸なら何が不幸なのかもわからない。幸せと不幸の間に落差があるのはまだマシなのかも知れない。

 政治やSNS、世界情勢などあらゆる問題を詰め込み過ぎた感があるし、後半、森という登場人物に結論めいたことを延々と語らせ、無理やり希望をほじくり出しちゃってる部分など若干残念な点を差し引いても、あの”平仮名”の意味を知った時の”痛み”がずっと疼いている。

 読んでてしんどいが読んだほうがいい。


「教養(インテリ)悪口本」
堀元見 著

★★★★★

 ウィットに富んだブラックユーモア満載。軽い毒っ気を含んだアカデミックなジョークがポンポンと飛び出し、知的好奇心が刺激される。

 日々イラっとくることやモヤモヤも、知識や教養で濾過すればたちまち楽しくなる。「私って繊細だから〜」と鈍感発言をする自称繊細さんには「ルンペルシュティルツヒェン現象だね」って言ってやりたくなる。

 さらに、あの日本映画やあのJ-POPの感想を求められたら「プロールの餌って感じだわ」と言いたい。

 そのココロは本編にてw


「ビジネス書ベストセラーを100冊読んで分かった成功の黄金律」
堀元見 著

★★★★☆

 「教養悪口本」があまりにも面白かったので同じ著者のこちらも購入。本当にビジネス書ベストセラーを100冊読んで、その相違点や共通点を一覧表にし、その矛盾やいい加減さをおちょくるように「27の教え」として再構築している。

 私は巷に溢れるビジネス本、自己啓発本の類をほとんど信用していないし、役立つ点があるとしても200p中3行あったら御の字だと思っている。そのせいか、この本は最高に笑えるエンタメ本として泣きながら読んだし、鼻水も出た。

 全く役に立たないビジネス本「成功の黄金律」。幅広い知識といい塩梅にえぐみのあるユーモアセンス、シャレの効いた文体もクセになる。

 

「ゲンロン戦記」
東浩紀 著

★★★★☆

 そもそも、著者の東浩紀も「ゲンロン」のこともほとんど知らないのだが、読み物として面白いとの評判だったので読んでみた。なるほど、会社経営の試行錯誤が率直に書かれていて、その臨場感に引き込まれる。

 それは輝かしいサクセスストーリーではなく、基本的に失敗談と苦労話の連続である。特に、経理などがガバガバだったが故に経営が傾き、企業の根幹を支えるのは地味な事務処理であることに気づくくだりは、事務処理能力の低い私には耳が痛かった。

欠点だらけの試行錯誤の先駆者としてのぼくを見てくれるのであれば、それこそがぼくがやりたかったことです。ひとの人生には失敗ぐらいしか後世に伝えるべきことはないのですから。

ゲンロン戦記より

 批評家であり哲学者である著者の矜恃が感じられる良書である。

 

「映画を早送りで観る人たち」
稲田 豊史 著

★★★★☆

 映画、音楽など様々なカルチャーが、「作品」ではな「コンテンツ」となり、「鑑賞」ではなく「摂取」される昨今の風潮をレポート本。

 サブスクによる怒涛の供給を効率よく処理していくために、映画を早送りで観る、あるいは10分程度位まとめたファスト動画で済ませると言う現状。

 さらにショッキングだったのは、制作者サイドもこの流れに合わせた作品作りに傾いていると言うことだ。あくまでも商業エンタメである以上、それは避けられないことなのだろうが、何とも切なく世知辛い話である。


「空白を満たしなさい」(上下巻)
平野 啓一郎 著

★★★★★

 平野啓一郎の一貫したテーマである「分人」をテーマにした長編。ミステリーとしても人間ドラマとしても、ある意味ホラーファンタジーとしても成立する濃密な物語が、精緻な文章でじっくりと構築されている。

 死後に蘇った主人公が、記憶を失った自分の死因を探っていくストーリー。死を通じて生を、他者を通じて自分を、悪意を通じて本質を知り、人生の意味が肯定されていく様は感動的だ。

 ドラマ化され先週からNHKで放送されている。阿部サダヲがハマり役すぎて怖い。


「死刑にいたる病」
櫛木 理宇 著

★★★☆☆

 奇しくもこの作品も映像化され、不気味なキーパーソンを阿部サダヲが演じている。映画はまだ観ていないが、小説の方は、サイコミステリーとして読み出したら止まらなくなるほど面白い。1回読めば十分だけど。

 驚愕の事実が明かされるシーンなど「ひゃー!」だし、ラストなんて「ぐぇー!」である。シリアルキラーの恐ろしさは殺人そのものじゃない。猛暑の夏、怪談代りに読んでみては?思いっきり鳥肌が立つと思う。


「鳥肌が」
穂村 弘 著

★★★☆☆

 鳥肌が立つといえば、文字通りのこの作品。表紙を触ると本当にぶつぶつと鳥肌のような加工がしてあると言う凝った装丁。と言ってもこちらは歌人・穂村弘の脱力系エッセイ集なので怖いのが苦手な方にもおすすめ。

 日常のちょっとした違和感や恐怖感を、腰のひけたとぼけた文体が笑いに変えていく。だが、本人は本気で怖がっているのがさらに面白い。しょーもないことにビクビクとキョドっているのだが、「わかるー、それ!」と言う感覚が絶妙なのだ。

 飲み屋での会話のネタにもなりそう。

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