「しろちゃん」はもういないよ~
全身ふさふさの上品なネコが、我が家の前を行ったり来たりしている。たまに顔を見せるどこかの飼いネコちゃんだ。昔うちにいた雄ネコと、ちょっと見は似ているけれど、ゆったりおっとりした態度は大違い。
このネコ、お隣の「しろちゃん」と仲良しだった。しろちゃんはいつも1階の部屋の窓ベに座って外を見ていたけれど、時々外に出て散歩をする。おっとりネコと一緒に走っている姿を目撃したこともある。2匹とも、私と目が合うと、必ず「ミャー」とあいさつをしてくれるのだ。
しろちゃんの飼い主は、5月に家の中で亡くなっていたお隣さん。残されたしろちゃんはしばらくの間、家の中のどこかに隠れてしまい、片付けに通ってきた弟さんにも姿を見せなかったそうだ。3週間ほど経てようやく慣れてきて、今はその弟さんの家で穏やかに暮らしている。
おっとりネコはしろちゃんを誘うように、シャッターがおりた窓を見上げ、わが家とお隣のまえを、あっちに行ったりこっちに行ったりウロウロ。そしてお隣の玄関前の駐車場で寝転んだ。近所の子が恐る恐る背中をなでなですると「ミャー」と応える。おとなしいネコだ。
「しろちゃん、もういないのよ~」
お腹を見せてゴロゴロしているおっとりネコに、ちゃんと知らせてあげたほうがいいと思って、私は小さな声で事情を話した。そして、しばらくその場で寝転んでいたけれど、諦めたように、ゆったりのっそり歩いて行ってしまった。
「引っ越してしまったんだって~ つまんないなあ~」
おっとりネコちゃん、うちに帰って飼い主に報告できただろうか。
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