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『性風俗サバイバル』出版記念イベントVol.2 水商売サバイバル 水の世界の緊急事態(2021年4月28日)開催レポート

2021年4月28日(水)19時~21時、『性風俗サバイバル』出版記念イベントVol.2「水商売サバイバル 水の世界の緊急事態」を開催いたしました。

今回のゲストは、一般社団法人日本水商売協会代表理事の甲賀香織さんです。

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2020年は、「夜の街」という言葉が繰り返しメディアで報道された一年間でした。

新宿歌舞伎町をはじめ、キャバクラやホストクラブなどの接待を伴う社交飲食店、デリバリーヘルスやソープランドなどの性風俗店が集う歓楽街は、「夜の街」という言葉でカテゴライズされ、濃厚接触が蔓延している空間=新型コロナの感染拡大の元凶であるとして名指しで非難され、世間から苛烈なバッシングを受けることになりました。

こうした理不尽な扱いや風評被害に抗うべく、「水」の世界=歓楽街で水商売を営む事業者は、各地で団結して行動を起こしました。署名を集め、独自の感染対策ガイドラインを作り、メディアを集めて記者会見を行い、国に対する要望を提出しました。

目の前の困難にただ振り回されるのではなく、困難を生み出している社会構造そのものに対する働きかけ=ソーシャルアクションを起こすことによって、自分たちの生活と仕事、そして街を守ろうとしました。

一方、同じ「夜の街」の住人の中でも、「風」の世界=性風俗で働く人たちの多くは、団結することも、国に対して声を届けることもできず、社会の中で孤立したまま、困窮状態に追い込まれていきました。

そうした中で動いたのは、これまで夜の世界の現場で動いてきた支援団体でした。

「風」の世界では、主に支援団体が中心となって、コロナ禍で生活に困窮した女性たちへの相談支援や署名キャンペーン、政策提言やクラウドファンディングなどのソーシャルアクションが実行されました。

「夜の街」とひとくくりにされている水商売の世界と性風俗の世界、それぞれの世界で、2020年の一年間、ネガティブな出来事・ポジティヴな出来事を含めて、どのような動きが起こったのか、そして、それぞれの世界は今後どのような方向に向かっていくべきなのか。

「水」の世界の声を集めて、国や社会に対して様々なソーシャルアクションを起こした一般社団法人日本水商売協会代表理事の甲賀香織さんと、「風」の世界で約三千人の女性の相談支援を行った風テラスの坂爪真吾が、コロナ禍の「夜の街」の一年間、そしてこれからの展望を語り尽くしました。

対談:甲賀香織さん×風テラス坂爪真吾
聞き手(Q)坂爪、回答(A)甲賀さん

Q:コロナ前、水商売の業界にはどのような課題があったのか?

A:水商売の業界は、反社会勢力と同じ扱いを受けることが多かった。特に困るのは新規の銀行口座を開設できないこと。

Q:水商売に対して社会が抱いているブラックなイメージは、どこから来ているのか?

A:元々、ブラックなところが始まりだった。行政からの支援もなく、それに対して、業界として異議申し立てもしてこなかった歴史があった。

Q:署名活動などを始めとしたソーシャルアクションに対して、業界内部の人たちからはどんな反応が寄せられたか?

A:休業要請は、家賃の高いエリア(銀座・六本木)にとっては死活問題だった。またホストの世界はいわゆるトップダウン型なので、トップの命令で、多くの署名を集めることができた。ソーシャルアクションによって、これまで繋がりが希薄だったキャバクラなどの同業者が連携するようになった。

Q:業種の異なる組織同士の連携はスムーズだったのか?

A:これまでは、それぞれのプライドや業務内容の違いから、異なる地域・業種間での交流はタブーだった。コロナ禍ではそれらを乗り越えて、団結することができた。

Q:水商売の世界からのソーシャルアクションは、歴史的にも初めてだったと思う。この経験を通して、甲賀さんが感じられたことは。

A:「正論だけでは通らない」ということ。政治家には政治家の、業界には業界の思惑があり、それらがかみ合わないと社会は動かない。政治家も、コロナ対策をきちんとやっていますというパフォーマンスの一環として、水商売の業界を取り上げたいという思惑があったと思う。

Q:具体的に、国に対してどのような要求をしたのか。

A:雇用調整助成金と持続化給付金の対象から、水商売の事業者が排除されないことを要求した。特に新しい権利を主張したわけではない。マイナスをゼロにした、という感じ。この要求が受け入れられたことによって、水商売の業界を一般企業や一般人の枠に近づけることができたと思う。

Q:ソーシャルアクションの後、水商売の店舗に対する融資は円滑になったか?

A:数千万円を借りられるようになったところもあった。以前は水商売というだけで、申し込みの時点で弾かれていた。ただ窓口レベルではこれまで通りに跳ね返されることもあった。そうしたところに対しては、協会として働きかけることで、融資が可能になったケースもあった。

Q:持続化給付金や雇用調整助成金をめぐるソーシャルアクションの流れの中で、ホステスやキャバクラ嬢は個人事業主である、ということが明確になった。個人事業主としての位置づけが明確になったことは、良かったのか?

A:良い悪いはわからない。ただ、現実に即した形にはなったと思う。

Q:ソーシャルアクションに対する世間や業界内の反応は?

A:この業界は、融資や公的な支援から排除されるのが当たり前。理不尽な扱いをされても、「業界あるある」で、仕方がないと受け流しがちな業界だった。でも今回は「仕方が無い」と受け流せるほどの余裕がなかった。世間には、水商売の業界が公的支援から排除されていることすら知られていなかった。権利を主張することは妥当である、という同情的な見方もされていた。「納税をしていないくせに権利を主張するな」という意見も多かったが、これは論点がずれており、問題が正しく伝わっていないと感じた。

Q:動いた水商売と、動けなかった性風俗。違いはどこにあったのか?

A:「自分たちで何かしよう」ではなくて、たくさんの人に名前を借りたり、力を分散させながら活動することができたのが水商売だったのではないか。

Q:業界が団結できたのはなぜか?

A:主張が正論だったから。メディアの影響も大きかった。表面上だけではなく、きちんと問題を伝えてくれた記者がいたことも大きかった。

Q:コロナの影響で、オンラインキャバクラなどが一時期流行ったような印象を受けたが、実際はどうだったのか?

A:オンラインのお客様は、これまでお店に来て頂いていたお客様とは別の層だった。

Q:お店の休業や失業で、水商売で働く女性はギャラ飲みに流れた?

A:流れたのは事実。ただ、ギャラ飲みはグレーな仕事であり、感染対策も何もない。

Q:「夜の街」という言葉について、どう思うか?

A:差別的な言葉だと考えている。差別用語には対義語がない。「昼の街」とは言わない。「夜の街」で働く我々がウイルスを持っており、それ以外は大丈夫、というイメージを植え付けるものだった。本来は、店舗や顧客一人一人の衛生意識の問題。「何がどう危ないのか」を具体的に、科学的根拠に基づいて示してもらえれば、もっと根本的な対応ができたのではないか。

Q:なぜ国は明確な基準を出さなかったのか?

A:基準を出すと、対応が具体的になる一方で、取るべき責任も増えてしまうからではないだろうか。

Q:休業要請には、どのような問題があったのか

A:感染対策を頑張ってきたお店にも、そうでないお店にも、一緒くたに休業要請がきた。頑張ってきたお店が評価される仕組みではなかった。企業の団体客など、顧客層が決まっているお店は、会社側からのNGによって来店ができなくなり、大幅に顧客が減ってしまった店舗は休業さぜるを得ない状況に追い込まれた。

Q:メディアへの情報発信で心がけたことは?

A:業界の人たちの目線と、業界に対する厳しい目線の両方を意識して発信した。ただ実際は、誹謗中傷の嵐だった。それでも、業界の人であれ、一般の人であれ、その人なりの正義があると思う。だから肯定も否定もしない。

Q:ガイドライン作成の経緯について

A:小池都知事に「夜の街」と名指しされたが、名指しされるだけの理由があるのではないかと考えて、業界側からガイドラインの作成を建設的に働きかけた。

行政は性風俗に対する言及を「不健全な業界」というような理由で避け続けているが、不健全かどうかは、ウイルスにとっては関係ない。感染対策を考えるなら、「不健全だから何も対策はしない」というロジックは不要なはず。

Q:行政との連携の難しさについて

A:私たちは、行政と業界の架け橋=翻訳機能を担いたいと考えている。行政の弱点として、制度をつくるだけで実際に活用されないことが多いことが挙げられる。そこで我々が店舗を回り、制度を現場に落とし込む、ということもしてきた。そのような活動に予算は出ずボランティアになるため、自分たちができる範囲でしかできないというのが悩ましいところ。

Q:換気をできないお店があるのはなぜ?

A:風営法で窓を開けてはいけないという規制がある。そもそも窓がない店舗もある。風営法や消防法をはじめ、理不尽なルールが足枷になってしまった。そうしたルールを変えていくために、今後、声を上げていくことが必要。組織票がない我々には難しいことだが、この窮地を活かして逆にアクションを起こしていきたい。

Q:夜の世界に対する注目は、今後も続くと思うか?

A:一過性のものだと思う。一時期、水商売をGO TOの対象になるかどうかで騒がれたが、今は落ち着いてきた。そもそも現場は目立たず粛々と動いているので、注目される必要もない。

Q:第三回目の緊急事態宣言が発令されたが、水商売の世界への影響は?

A:地域によって差があるが、元々受けたダメージが大きすぎるため、今回の宣言が特に大きな影響を及ぼす訳ではない。

Q:今後、国や社会に対してどのような要望をしていきたいか?

A:イメージではなく、科学的な根拠に基づく政策を出してほしい。WITHコロナというからには、経済と感染対策の両立が不可欠であり、そのためには科学的根拠に基づいたルールや政策が必要になる。

<参加者との質疑応答>

Q:日本水商売協会設立の経緯は? 

A:別の業界で仕事をしている際、水商売の業界に興味を持ち、この世界に入った。社交飲食業生活衛生同業組合とは活動内容が違うため、別の団体を設立した。店舗や個人ではなく、団体として立ち上げることが良いと考えた。

Q:客が9割減ったとあったが、働いている女性たち(本業・かけもち・学生)はどうなったのか?

A:華やかな生活を送るようなホステスは、去年の段階で業界から卒業していった。そこからは「昼職を探したが見つからない」という人が残り、元OLなどで失業した人たちが業界に入って来た。高級と言われる銀座で働くホステスさんでさえ、手取りは平均20万円くらいなので、昼職と大して変わらない上に経費がかかる。

Q:弁護士をしています。直接夜の世界に関係を持っていない自分のような立場の人にできることはあるか?

A:弁護士のような立場の方々に、業界のためになるようなソーシャルアクションをしていただけるのであれば、協力したい。

Q:一般には「水商売や風俗は儲かる」というイメージがあり、現実とかけ離れている。このギャップに対して、どんなアクションが起こせると思うか。

A:水商売は自分が華やかであるとアピールすることで価値を生み出す側面があるため、店舗や個人がきらびやかなブランドイメージを壊すことは構造的にできない。だからこそ、第三者が発信する必要があると思う。

Q:やめたくてもやめられない(出勤しても稼げない・でも他に行き場もない)人たちに対して、どのような支援があれば、現状から脱出することができると思うか?。

A:我々のスタンスは、脱出ではなく業界活性化。水商売業界で頑張りたい人を支援する。コロナ以前のきらびやかさを取り戻したい。業界の活性化を通して、人々の生活が豊かになればいい、と考えている。

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あっという間の2時間でした。終了後の懇親会も盛り上がり、「夜の街」の現状と課題、これから必要なソーシャルアクションの在り方を考える有意義な時間になりました。

参加者の皆様、ゲストの甲賀さん、ありがとうございました!

『性風俗サバイバル』の目次・詳細はこちら

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