原稿用紙を一行ずつ破って燃やす話【#冬ピリカ応募作】
世界一好きな作家が亡くなった。
最愛の人だった。
長年連れ添った妻だった。
予想通りに、化けて出た。
「本を全部燃やして」と妻は言った。
無茶な話だ。著作数は百冊を超える。
「生原稿だけでもいいから」
妻は肉筆にこだわった。丁寧に文字を書き、一文字を書いている間に次に書く一文字を考えているのだと言っていた。「一文」ではなく「一文字」だった。そのためか手直しが少なく、締め切りに遅れたことはない。
「嫌だ」と断った。
「原稿含めて、愛してた」
「燃やしてくれなけれ