「おやすみ」の前に

小学生の頃だったと思う。
修学旅行の最終日、早々とお土産屋さんで家族のお土産を買い、バスに戻ってうとうとしていたら、クラスの女の子が一人、戻ってきた。
バスガイドさんが笑顔で「お帰りなさい」と言い、その子は軽く会釈だけして席へ向かった。すっかり疲れてしまったのかと思ったら、リュックサックから何かを取り出して、またバスガイドさんの方へ歩いて行った。

「どうしたの?」と声をかけた彼女に、女の子は「これ、お礼。」と、小さな紙袋を渡した。
「え?くれるの?」
「うん。いっぱい案内してくれて、ありがとう。」
それだけ言って彼女は自分の席に座り、窓から外を見ていた。

いつの間にかバスは走り出していた。
周りを見渡すと、疲れたのかみんな静かに眠っていて、車内の小さなテレビの音だけが響いていた。
ふと、ガイドさんの方を見ると、うたた寝をしているようだった。
うちのクラスはとても騒がしく、ガイドさんも手を焼いているようだった。
「お疲れ様でした。おやすみなさい。」

起きているのは運転手さんだけのようだった。運転している手を見ながら、「あ。」と何か思い出した気がした。
けれど眠気に負けて瞼を閉じた。

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