見出し画像

ひらがなエッセイ #26 【は】

    お金は無くても自分の好きな事だけを追求して【花屋】を営む父親と、自分の好きな事は主張せずお金だけを貯め続けながら喫茶店を営む母親の間に育った私は、その芸術至上主義と拝金主義の狭間で、白と黒に挟まれた灰色のような考え方が根付いてしまった。お金で買えるものもあれば、買えないものもある。そもそもその考え方に正解など無く、その線引きこそがその人の価値観であり、付き合うべき人間の査定材料の一つである。一つの考えに縛られている人は、とても危険だ。頭の中ではそう思いながらも、一つの考え方に縛られている人を魅力的に見てしまうのは、家庭環境の賜物である。ありがとうパパさんママさん。

    父親は宇宙と般若心経とタロットカードとお花の話しかしない変わった人である。ある夜、部屋の窓からタロットカードを掴んだ手を投げだしている父親を見て、何をしているの? と聞いたら、いや、月の光を充電しているんだよ、それでタロットカードに力が宿るんだ。と教えてくれた。私の家のすぐ隣は街灯が設置されていて、月の光より街灯の光の方が強い。私は静かに父親と真顔で向き合って頷き、野暮な事は言わずに自分の部屋に戻り、布団にくるまって寝た。あの血が自分の中にも流れている事にゾッとしたのである。

    母親は、お金と映画とおしゃべりと説教が好きな陽気で平凡な人である。一年中何処にも出かけずにテレビの前に居て、狂ったように映画をひたすら見続けている。何日かに一度は寝ずに映画鑑賞を行い仕事に出かけているようだ。無駄な事に一切お金をかけない。外食や旅行などせず、ずっと家の中に居る。酒も飲まないし、服や化粧品にも興味が無い、煙草も吸わないし、賭け事もしない。一度、何か楽しみはあるの? と聞いてみたらもう独身時代に全部したからいらない、と答えた。老後は自分達で設計してやりくりするから自分の人生を好きに生きていけ、と言うのが口癖の映画鑑賞アンドロイドだ。

    私は、そんな二人の考え方を合わせ持った、優柔不断で根暗な目立ちたがり屋である。突然一人で旅行に出かけてギターを弾きながら歌ってお金を稼いだり、部屋から一切出ずに海外ドラマを観て暮らしたり、よくよく考えてみると、二人の間を行き来するかのような生活を繰り返して来た。私が私である為に、両親がやりそうでは無い事を考えてみても中々見当たらない。この鎖から解き放たれた時に、私は初めて私になるのかも知れない。

    そしてそれは音楽なんじゃないのかな、ってな事をぼんやりと思う今日この頃である。二人とも音楽には疎いしね。

    もしかしたらそれは将棋なのかも知れないが。

最後まで読んで頂いてありがとうございます。 基本的に無料公開しています、お楽しみ下さい。 でも、宜しければ、本当に宜しければ、是非、私をサポートして頂けると、お金、いや、愛情を、投げ銭、私欲、お寿司食べたい、違う、取材費として、建設的に、お金、あの、是非、お待ちしております。