【NO.21】BIG FISH ウォードヘッド1997/19y(ウィスク・イー)
(先に今回の記事は、いつにも増して意味不明かつ冗長となることをお詫びいたします。
ウイスキーに対して、私は「嫌い」という言葉は極力、使わないよう心がけています。
ウイスキーは味の個性が複雑な嗜好品であり、個々人の好みが異なる以上、月並みですが「私の好きは誰かの嫌い・私の嫌いは誰かの好き」となるからです。
とは言え、ボトラーズウイスキーを2桁本数以上買った経験のある方なら、度合いは違えど、「買って後悔したボトル」が必ずあるのではないかと思います。
・はっきり言って口に合わない
・美味しいけれど値段と釣り合っていない
・他者の評価を見て買ったが思っていたのと違った
・ボトルで買う必要はなかった etc.etc.·····
長い前置きとなりましたが、今回は色々な意味で思い入れのあるウイスキーを紹介させていただきます。
私の中で許せない存在であるが
ウイスキーにおける学びを深めてくれた存在。
BIG FISH ウォードヘッド1997/19y(ウィスク・イー)
いつもならテイスティングコメントを以下に記しますが、今回は先に公式サイトのコメントを先に紹介させていただきます。
ウォードヘッド1997は、ホグスヘッドの19年熟成のティースプーン・モルト。カスクストレングスボトリング。
メインのシングルモルトはユニークな三角のボトル形状で知られる鹿がトレードマークのスペイサイドモルトです。
【公式テイスティングコメント】
香りは完熟したメロン、蜜入りりんごといったフルーツのレイヤーの奥から、べっこう飴、蜂蜜が現れます。
味わいは柔らかで、桃のコンフィや洋梨のコンポートが口の中を満たし、蜂蜜、香ばしいクレームブリュレへと変化。
フィニッシュにかけて白コショウやオークスパイス加わり奥行きのある味わいが広がります。
以上が公式の紹介文です。
ティースプーン・モルトとはシングルモルトに別のシングルモルトを微量加えることによってブレンデッド表記にし、また本来の蒸溜所の名前を出さない事により、コストパフォーマンスにすぐれた商品をリリースできるという一種の裏技のようなものです。
主要なシングルモルトについては、99%がグレンフィディックであり、1%がバルヴェニーです。ティースプーン・モルトについては以前、ウェストポートを、そしてグレンフィディックについてはオフィシャルの12年をご紹介させていただきました。
公式テイスティングコメントを読む限りでは、グレンフィディックの原酒がバーボン樽の個性で色付けされ、長い熟成を経てフルーティかつバニラや蜂蜜も伴った逸品と憶測されます。
リリースは3年程前になりますが、今読んでも魅力的な紹介で思わずボトルに手が伸びる謳い文句です。
・・・はい。では、以下が私のテイスティングコメントです。
【スペックおよび概要】
日時(Date):2020/6/5 1:55
場所(Place):自宅
銘柄(Brand):ウォードヘッド(グレンフィディック)
ボトル種別:ボトラーズ(BIG FISHシリーズ)
蒸留/瓶詰/熟成年(Distilled/Bottled/Age):1997/2016/19年
樽種別(CaskType):ホグスヘッド
度数(Strength):51.3%
種別/国(Category):スコットランド
所有会社(Owner Company):ウィスク・イー
ボトル残量:55%
【プロフィール(Profile)】
色調(Color):Clear(0)~Dark(10) 1
甘味(Sweetness):Dry(0)~Sweet(10) 1
ピート(Peat):None(0)~Heavily(10) 0
ボディ(Body):Light(0)~Heavy(10) 6
バランス(Balance):Bad(0)~Good(10) 1
【香り(Aroma)】
19年とは思えない若い酸味とエグみと棘・焼酎・まだ食べられない若いメロンのヘタ・しなびたレモンの皮とワタ・有機溶剤・劣化した機械油・刈って放置された雑草の青みとすえた香り・乳酸・樽の存在が捉えられない
【味わい(Flavor)】
19年とは思えない若さと棘・焼酎・無糖ヨーグルトのホエイ・メロンの皮・生姜のような辛み・少なくとも果実のフレーバーや樽の主張は見受けられない・グレンフィディックとは何なのか分からなくなる
【余韻(Finish)】
舌の上の余韻は短いのに、喉の奥に安いアルコールの不快感が長く続く・チリペッパー・若い瓜・青草・柑橘のワタのエグ味
【総合評価(Total)】
・逆年齢詐称ボトル。19年間果たしてどんな樽に入れられていたのか問い詰めたくなる、煮ても焼いても食えぬ上、ネタにもならぬ残念なボトル。
10/100
はい。はっきり言って私の中の「買って後悔したボトル」筆頭でございます。
公式テイスティングコメントに
と、物申したくなるレベルです。
今回、100点満点中10点とつけさせていただきましたが、歯に衣着せぬ物言いをするなら、「ウイスキーの出来もさることながら、このテイスティングコメントを出したインポーターが許せぬ」というのが、素直なところ。
売り文句に踊らされた方が悪いのは承知しておりますが、何もなく飲むだけなら、多分、20~30点くらいになるかなと思います。
コメントを書いたインポーターが執筆中に頭に拳銃を突き付けられていたのか、家族を人質に取られていたのか・・・
はたまたサンプルで飲ませたものと、まったく違うものがボトリングされたのでは・・・
もしくは飲まずに想像で書いたのではないかと邪推してしまうほどです。
いわゆるウイスキーにおける個性や旨味の要素が、探せど探せどどこにもなく、麦の甘さや旨味もほとんどありません。
樽熟成由来の芳醇な味わいや香りどころか、本当に木製の樽に詰められていたのか疑いたくなるほど、樽の存在は希薄です。
おそらくは原酒自体の良さも、出涸らしのような樽の中で無情にも消え失せたものと思われます。もしかしたら樽詰め前の原酒の方が見どころがあったかもしれません。
また厳しいところで、このボトル・・・いわゆるサルファーやソーピーとは異なり、時間経過で消える可能性があるような、将来に望みのあるフレーバーではなく、また、驚くことに消費にあたって加水のほか、炭酸水・コーラ・ソーダ・ジンジャーエール・トニックウォーターなどの炭酸系、緑茶・紅茶・牛乳など様々な飲み方を試みましたが、どれも総じて余韻に悪いアルコールと劣化した油のようなすえた匂いが残り、マイナス補正がかかります。
何より驚かされるのが、こちらウィスク・イーの「BIG FISH」シリーズの第一弾のウイスキーだったという点です。
昨今、ヨーロッパはじめ世界中で様々なボトラーズが誕生しており、また既存のボトラーズでもこのBIG FISHシリーズのように新しいシリーズを展開しているボトラーズが多々ある中、共通して一発目は気合を入れるor無難なものを出すという傾向にあります。
・・・というのも説明するまでもなく、新しい商品・シリーズに新しい客を呼び込むには、ある程度のインパクト・魅力が必要ですし、それが「このブランドなら安心」「このシリーズなら買っても良い」という信頼、または「今後のリリースも要チェックだな」という注目を持続的に集めることに繋がります。
逆に一発目で外れると、その後にどんな良作を生み出そうとも、購入する側としては過去の経験が頭をよぎり、実際に手に取る確率が下がるというのは言うまでもありません。ましてやバーなどで飲む以外に、ボトル購入前に味を試す機会がほとんどないウイスキーなら猶更です。
・・・で、それを踏まえて率直な感想は、
「一発目からこれかよ!!!!」
もし、これがテイスティングコメント通りの味わいであったなら、何の文句もなくBIG FISHシリーズの華々しいデビュー作となっていた事でしょう。
もしくは発表したテイスティングコメントがスパイシーとかグラッシーとかオイリーな方面を強調して、実際の味わいと極端に乖離していなければ、ここまでの衝撃は受けませんでした。
お値段も下手すればオフィシャル18年よりも高いのに、18年どころか、お値段が約1/3の12年よりも出来が悪いというのもいただけません。
同時リリースだったラフロイグは未飲のため評価ができませんが、少なくとも私の中ではこのシリーズの信頼度はゼロに等しく、現在もこのBIG FISHシリーズはリリースされているものの食指は動きません。(など言いつつ、実はほぼ同時期に買ったものがもう一本あるのですが、これもまたなかなかのクセモノです・・・)
※以下は個人的なこのボトルについての思い入れと、ウイスキーとの付き合い方についての独白となりますので、テイスティングコメント以外不要な方は是非、ブラウザバックを・・・。
さて、このボトル購入したのはリリースされたばかりの2017年で、当時の私はどちらかと言えばカクテルを主にいただいており、ウイスキーは気が向いた時にハイボールや、オフィシャルを嗜む程度でした。
美味しいお酒を追い求める、というよりは居酒屋など騒がしい所で飲むのが苦手で、一種の逃避としてバーにちょこちょこ通っておりました。
その時にたまたま(今はもう閉店してしまいましたが)某池袋のバーで隣席にいた紳士からいただいたバルヴェニーtun1401の美味さに驚き、お酒に対する見方がひっくり返りました。
それまで何となくカッコつけて飲んでいただけのウイスキーで、こんな美味いものがあるのかと感動したのを覚えています。
そしてその直後、このウォードヘッドと出会った訳です・・・買ったお店も忘れはしない、洋酒好きの聖地とも言える、目白の酒屋さんです。
はじめて足を踏み入れた聖地は、どこか不思議な香りが漂い、見上げるほどの高さの棚には宝石のように輝く多種多様なお酒の数々が並んでおります。
ふと、目を引く異色のデザインのボトルに足を止めると、何と魅力的なテイスティングコメント。先日のバルヴェニーの記憶が鮮やかに蘇ります。
お値段は当時、税込で12,000円程度。
今ならスペックに対しての相場としては、そんなものかな、あるいはお手頃価格と思えるものの、当時は一本1,000円以下のジンのトニック割か、ウイスキーのハイボールを飲んでいた私にとっては「一本のウイスキーに5桁!?」と仰天したことを覚えています。
棚の前で30分近く悩んだ挙句、おそるおそる手に取りレジへ。
はじめて買ったボトラーズ。ラベルもオシャレ。テイスティングコメントも魅力的。はじめての高価な買い物って興奮しますよね。
期待に胸をふくらませ、帰宅後、早速開栓し、テイスティングした私の頭に浮かぶのは数えきれない「?」でした。
「えっ?おいしく·····?··········ない???」
いやいやいやいや待て待て待て待て。
これは人生で最高額のウイスキーじゃないか。
芸能人の某格付けチェックでも一本〇〇百円と一本〇〇万円のワインの飲み比べとかやってるし、高い方が美味いに決まってる・・・と、悶々とした自問自答の末、
このウイスキーは美味しいけれど、私が未熟だから美味しさがとらえられないのだ。
という結論に至りました。
この結論自体は間違っていないと思いますし、今も様々なウイスキーと出会う中でこの結論というか、可能性を念頭に置くことは忘れないようにしています。
とは言え、この時の私はそうした客観的な視点ではなく、正常性バイアスにより、自分の鼻、舌、脳がこのウイスキーに対して拒否反応を示しているという事実を捻じ曲げておりました。今、思えば別の意味で
「(人生)一発目からこれかよ!!!!」
と胸中で慟哭するところです。
しかし、一体なぜか。なぜ合わないのか。一人で考えても答えは出ず、ウイスキーに関する情報を調べ、先達者に教えを乞いはじめました。
その過程でバーテンダーの方々や当時、師匠と仰いでいた方から
「加水で香りが広がったり、味わいが変化する」
「きっとまだ固いんだよ。開けてしばらくしたら美味しくなるよ」
「炭酸でハイボールにする以外にも、色んな飲み方がある」
などなど、ウイスキーの製造方法や種類にはじまり、ウイスキーの飲み方、加水・瓶熟・カクテルなど様々な方法や楽しみ方を学びました。
またそんな話を伺いつつ、色々なウイスキーを飲ませていただく中で、自分の中の得手・不得手や、ウイスキーの出来・不出来についても知ることができました。
自分がどんな傾向のウイスキーが好きなのか。そして自分の好みに合わないウイスキーと出会った時に、「不味い!」と断じる、あるいは諦め、完結するのではなく、なぜ自分がそう感じたのか、その裏付けや理由を考え、もしかしたら美味しく飲む方法があるのかもと模索するようになりました。
(自分が身銭を切って入手したボトルの出来がよろしくないという事実に目を背けてあがき続けたと言えばその通りですが・・・)
今回のボトルについて考察するならば、やはり樽の影響が強いのでしょう。
色付きもほとんどない点から、おそらくは何回か熟成に使われほぼプレーンと化したホグスヘッド樽で熟成し、元々ライトなグレンフィディックの原酒に樽の成分が移るよりも、年数の経過による劣化の方が目立った結果と思われます。
私は最初にこのボトルを「買って後悔した」と、評しましたが、逆にこのボトルと出会えた事により、
・ウイスキー全般についての知識
・ウイスキーの様々な飲み方や楽しみ方
・必ずしも価格=絶対的な価値ではない嗜好品の性質
・自分の中の好みがどういうものなのか
・反対に自分の口に合わないものはどういうものなのか、そしてそれは何が原因なのか
・ボトラーズが必ずしもオフィシャルより美味しいわけではない
・見た目や謳い文句を盲信してはいけない
と、数々な教訓を得ることができました。その意味ではこのボトルはウイスキーについての沢山の「学び」や「気づき」を私に与えてくれたのです。
不味いを不味いで完結しない
美味いを美味いで完結しない
それを教えてくれたという意味では、そして今でも飲む度に初心を思い出させてくれるこのボトルは、美味しいウイスキーよりも得るものが多かったのかもしれません。
また、ただでさえ飽き性の私が「もういい!私、ウイスキーやめる!!」とならずに、今も付き合うことができるのは、先述のバーテンダーやお師匠様のおかげあり、感謝の念に耐えません(その分、お財布も大分軽くなりましたが)
今はインターネットおよびSNSの普及に伴い、ウイスキーの情報が様々な方法でより容易かつ迅速に入手できるようになりました。
国内外の豊富な知識と確かな味覚を持った専門家やドリンカーのブログ、スコア付の批評サイト、販売店の広報などで古今東西のウイスキーの評価を購入前に知ることもできますし、ニューリリースであればSNSで検索をかけると大抵、購入した個人やバーのボトルの評価を確認したり、直接感想を聞くこともできます。
(これを食べログであるような「情報リテラシーの必須化」や「スタンプラリー化」、「評価されたものの確認作業」と化しつつある点もまた問題ではあろうと思いますが、ここでは触れません。)
情報網が発達し、実際の評価がすぐに明らかになるおかげで、買う側としては「買って後悔する」ようなボトルを手にする可能性は減り、逆に売り手側はウイスキーを紹介・販売する上で、より正確な情報を示すことが求められるようになりました。
しかし、そんな便利な世の中でも、もしウイスキーと出会い、ウイスキーを飲み続け、買い続ければきっと頭に「?」が浮かぶボトルに出会うはずです。
そんな時は自分の頭に浮かんだ「?」を忌まわしい記憶として投げ捨てるのではなく、ほんのちょっと立ち止まり、自分の「?」の正体について考えてみてはいかがでしょうか。
そうすればきっと、その「?」はよりウイスキーに対する造詣を深める一助になるかもしれません。(なお、精神衛生上にも良いと思われます)
これは「?」なウイスキーと出会った時のひとつの処方箋、あるいは、身銭を切った分は何らかの形で元を取ろうとする守銭奴の遠吠えとして、今回の記事を結ばせていただきます。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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