見出し画像

夢レンタル

都内に住む大学生の恭一は
今朝見た夢の話をしていた。

「研究室のメンバーで合宿いったらさ、途中で拉致されて無人島に連れてかれて殺し合いする夢見たんだよね。やばくね。」

それを聞いていた友人の優也が
慌てて口を開く。

「なにそれ。バトルロワイアルじゃん。
 殺された?」

「いやそれがさ、ずっと古い民家にこもってたらさドアがギィーッて開いてよぉ、1人の男が入ってきたんだよ。」

「おぉ、やべーな。そんでそんで?」

「夜だったから暗くて顔がよく見えなかったけど一瞬だけ月明かりでその顔が見えたんだよ。
それが、優也、おまえだったんだよ。」

「まじで!?あははは」

今朝夢の中で殺してこようとした優也が
今目の前で笑っていることに
少し不思議な気持ちでいた。

「もう2度と見たくないよ、あんな夢、、。」

「それは気の毒だったなぁ、恭一。

んじゃあ、可哀想なお前にとっておきの情報教えてあげるよ。秘密だぞ。」

「お、おう。なんだよ。」

優也が俺の耳元で囁くようにして言った。

「"夢レンタル"って知ってるか?」

「ユメレンタル、、?」

どうやら優也は最近、夢レンタルを楽しんでいるようだった。夢レンタルとはネット上に上がっている誰かの見た「夢」を自分が寝るときに見ることができるシステムだった。
基本的には1夢につき298円。ただ有名人が見た夢だとかになるとその値段は数万円に跳ね上がるって話だ。あとみんなが見たがる人気な夢も料金が高くなる仕組みらしい。
当然自分が見た夢も貸し出しできるようになってる。それで収入を得てる「夢デザイナー」なんて職業もあるみたいだった。

「どうだ、恭一。お前もやってみないか??」

今朝、壮絶な夢を見たこともあってか
すんなりとその誘いに乗る形になった。

「このアプリをインストールして、別途で購入するヘッドギアが届けばもう準備完了だ。
あとは好きな夢を選んで、ヘッドギアつけて寝れば問題ねぇからよ。
あ、一個だけ注意事項があってだなぁ。たぶん付属の説明書にも書いてあると思うんだけどよ。

使用中はヘッドギアを絶対に外しちゃいけないからな。特別な脳波を送受信するから強制終了しちまうと脳に後遺症が残ったりするらしいぞ。

それだけ気を付けろよ!」

俺は早速、アプリをインストールしヘッドギアセットを購入した。

ヘッドギアの値段は6780円。
意外といい値段するが自分の見る夢が
選べるっていうんだからいい買い物だと思っていた。

しかし胡散臭さはある。
正直半信半疑程度で買ってしまった。
レビューは圧倒的に高評価ばかりで
それがかえって怪しかった。

まぁ物は試しだろう。




家に帰ると、ミケ猫のニックが出迎えてくれた。
今は一人暮らしをしているがペットが許されている賃貸だから寂しさ紛らわせでついつい飼い始めてしまったのだ。

「ニャーン」

ニックが何かを伝えようと鳴いていた。
後ろを見ると宅配物が置いてあった。

「はやっ、、、。」

玄関の扉の前にあったのは
あのヘッドギアが梱包された段ボールだった。

早速、ヘッドギアを取り出し
手持ちの携帯と連携させる。

「どれどれ、、どんなのがあるのかなぁ」

"夢.com"と書かれたアプリを起動し
レンタル可能な夢を漁り始めた。

■■□―――――【新着】――――――□■■

▼≪極上の癒し≫ 「ネコ8匹と野原でのんびり」
残りのレンタル数少なし!
投稿日:20XX年 8月 6日 20:48
投稿者:ニャン太郎
上映時間:2時間22分
レンタル料金:298円(税込)
▽猫好きな方必見!
▽忙しい日々の疲れが吹き飛ぶ!
▽広大な自然に心が浄化します!
★脳疲労度:2

▼≪デート≫ 「TKG48の川村 夏と遊覧船デート」
かなりのレアもの!
投稿日:20XX年 8月 6日 19:55
投稿者:ラッキーほし
上映時間:1時間15分
レンタル料金:760円(税込)
▽TKG48好き必見!
▽お互い浴衣を着てる最高シチュエーション!
★脳疲労度:5

          :
          :

なかなかのラインナップだった。
思ったより現実的な夢が多いことに驚きつつも
今夜見る夢は「猫と戯れる夢」に決めた。
今朝の夢がハードだっただけに
癒しの時間が欲しかった。

一つ気になったのは「脳疲労度」という値。
あまり副作用が及ばないと思っていただけに
この文字にはがっかりした。

まぁ仕方のないことかもしれない。
見たい夢をみるためには多少の犠牲は必要だった。
その疲労度がどんなものかは確かめてみなくてはわからなかった。

急いで夕飯を食べ、シャワーを浴び
寝る支度を始めた。
いつもはニックとくっついて寝るのだが
今日は夢レンタルに夢中だったためか
1人で寝ることしか考えていなかった。

「よし、これでみられるってわけか。」

携帯に繋いだケーブルはヘッドギアまで伸びている。誤って脱げてしまうのを避けるため
携帯は近くに手繰り寄せた。少しひんやりとするヘッドギアが額を覆う。
まるでなにかの実験を受けるような気持ちで
眠りについた。


眠りについて1時間経った頃だろうか。

ようやく上映が始まった。
目の前に広がる草原と遠くには山が見えた。
近くにいる猫はどうやら野生の猫だった。
決して懐いているとは言い難いその猫たち。
たしかに8匹いるが一緒に戯れることは難しいようだった。近くには友人らしき男性がいた。
やたら話しかけてくる。しかし言葉のほとんどは聞き取れなかった。ただニコニコしながら話す彼の表情をみるとなんだか自分まで楽しくなったように感じられた。

明晰夢ではないためその夢をコントロールすることは出来なかった。本当に誰かが見た夢を
そのまま見ている感覚だった。
猫に餌をやることもできないし、草原を駆け回ることもできない。
ただ猫を見ながら道を歩く夢が続いた。

しかしかなりリアルな夢だ。
夢というよりもはや現実を見せられているような感覚に近かった。
夢というとどこか不思議で
普段できないことやありえないシチュエーションが用意されていることが多いが
この夢レンタルで見られる夢はかなり現実に近かった。




「う、、ぅう。」


気づくと朝になっていた。
ヘッドギアを外すと少し頭がくらっとした。
少しぼーっとする感覚が残る。
これが脳疲労度というやつだった。
思ったより大したことはなかった。
もっと痛みとかを伴うのかと恐れていたが
全然そんなことはなかった。



大学に行き、すかさず優也に夢のことを話した。

「優也!夢レンタルなかなか良かったよ。
 思ったより現実的だったけど
 猫たくさんいたし自然に触れられたんだ。」

「おぉ、良かった。なかなかいいだろあれ。
 当たり外れもあるからいい具合に見極めな。
 お前が気に入ってくれたみたいでよかった 
 よ。」

やや夢レンタルのことを疑っていたためだろうか、俺は夢レンタルで人の夢が見られたことに少し興奮していた。その声に釣られるように近くにいた友人の大地が聞いてきた。

「なんの話してんだ?」

「あーっと、えー、その、、
 今朝見た夢の話だよ。」

「そんな面白かったのか?その夢」

「う、うん。」

夢レンタルのことは秘密にしろと優也に
言われていたため、すこし口を濁した。

すると優也が言った。

「こいつには話して平気だよ。
 大地には1週間前に実は教えてたんだ。」

それは早く言って欲しかった。

ただ、危なかった。
大地が知らなければ完全に怪しまれていた。
秘密の夢レンタルのことについてはもう少し
慎重に話すことを決めた。

「お、恭一も始めたのか?夢レンタル」

「そうなんだよね、、。」

「俺も優也に教えてもらってから始めたんだけどもうハマっちゃってさぁ。今はもう可愛い子とデートばっかりしてるよ。お前も試してみ。めっちゃハマるからさっ。」

「まじかぁ。デートの夢、、。観てみようかなぁ。」


どうやら夢レンタルのことを知っている人は
ごくわずかで、あまり認知されていないらしい。使う人が増えれば見れる夢も増えるのにどういうわけかあまり広げてはいけないらしかった。

その日の夜も夢レンタルをした。

■■□――――【オススメ】―――――□■■

▼≪ホラー≫ 「栃木県の山奥にある廃墟散策」
心霊スポットでまさかの〇〇に遭遇!?
投稿日:20XX年 8月 1日 02:22
投稿者:クリスみつる
上映時間:3時間05分
レンタル料金:1820円(税込)
▽ホラー好き必見!
▽失禁注意!オムツ推奨!
▽閲覧注意、幽霊にガチで出会います
★脳疲労度:8

▼≪ドライブ≫ 「首都高速を駆け抜けろ」
夜の首都高速を爆走できます!
投稿日:20XX年 7月 25日 11:53
投稿者:ゴリラクリーム
上映時間:1時間35分
レンタル料金:980円(税込)
▽BMWに乗れます!
▽車内爆音につき注意!
▽オープンカーになってます
★脳疲労度:4

▼≪デート≫ 「夏の江ノ島でデート」
夏を感じられる一本!
投稿日:20XX年 8月 5日 10:30
投稿者:レイン坊主
上映時間:5時間35分
レンタル料金:1780円(税込)
▽新江ノ島水族館にいけます!
▽海の風を感じられます!
▽夏を全身で感じたい人は是非!
★脳疲労度:3

          :
          :

カテゴリー分けすればさまざまなジャンルが
見つかった。どうやらレンタル数にも限りがあり在庫がないこともあるみたいだった。
今夜の夢は「江ノ島デート」にした。
大地がオススメしていたこともあってかどうしても気になってしまった。

その日も眠りについて1時間ほどだった頃
上映が始まった。

お揃いの服で出かけている夏のデートだった。
デート相手の子はとてもステキな方で
これは完全に当たりの夢だった。
江ノ島水族館ではイルカのショーを見れた。
江ノ島の方まで出かける機会がない俺にとって
貴重な夢の時間だった。
かなり長めの夢だったこともあってか
お昼ご飯を食べるシーンや
一緒にドライブを楽しむ様子も見られた。
すこし高めの値段とはいえ、満足できる
内容の夢に俺は完全にのめり込んでいた。

後日、またこの夢の話をしようと
優也のもとへ行くと優也が少し沈んでいることがわかった。

「優也、どうした?」

「おぅ、恭一。大地のやつが体調崩したみたいでよ、なんかしばらく大学来られないみたいなんだ。それで心配になっちゃって、、。」

「え、そうだったのか。」

今朝見た夢の話なんてとてもできなかった。

たしかに昨日見た大地は少しだけ
疲れている様子ではあったものの
体調を崩すような予兆は見られなかったためか
その知らせは若干の驚きだった。

「どんくらい来られないんだ?」

「わからない、、。でも少なくとも1ヶ月は
 休むみたいなんだ、、。」

「そんなに休むのか、、。」


それから大学で大地の姿を見る機会がなくなった。密かに大地は死んだのではないかという噂が出回っていた。大地の家に家宅捜査が入ったという情報もあったためだ。しかし本当のことは分からなかった。

大地が休んでいる今も俺は夢レンタルにのめり込んでいった。その一方で頭の重みは日に日に増していく。脳が疲れていることは明らかだった。頭がクラクラする日は夢レンタルを中止した。それでも夢レンタルに没頭していた俺は徐々に負荷の重い夢もレンタルしていくようになった。

そして夢レンタルを始めて2週間経った頃だった。

「今日はなにをみようかなーっと。」

いつものようにみたい夢を漁り始めていた。
すると新着の気になる夢を発見した。

■■□―――――【新着】――――――□■■

諤悶>繝昴う繝ウ繝遺蔵隕九◆縺薙→辟。縺?シ「蟄励′諤悶>
邵コ陷キ譴ァ謔??墓コ
蜈ィ驛ィ隱ュ繧∫┌縺?ク翫↓縲∝クク逕ィ貍「蟄励°繧峨°縺鷹屬繧後◆貍「蟄励?縺九j縺ァ諢丞袖繧ゆコ域Φ縺ァ縺阪↑縺??
逕俶・ス驕贋ク?隕
縺ィ縺九↑繧峨∪縺?縺九o縺?>縺ョ縺ォ縲
投稿日:20XX年 8月 12日 0:00
投稿者:譁�ュ怜大地�1112
上映時間:0時間30分
レンタル料金:666円(税込)
▽ 縺ゅ>縺�∴縺 �撰シ托シ抵シ
��スゑス �ク�ケ
★脳疲労度:� �

「なんだこれ、、?」

明らかに文字化けを起こしている。
気味が悪すぎて到底見る気にはならない。
しかし、投稿者の名前に「大地」の文字。
それにあいつの誕生日である11月12日が
投稿者のところには書いてあった。

「これを投稿したのは

             大地、、?」

わずかにそんな気がした。
確信はなかったがこれが大地の見た夢の一部なら大地が今どうしているかの手がかりがわかるかもしれない。しかも上映時間はたったの30分。かなり気味の悪い夢だったが俺はそれを見ることにした。

眠りについて1時間。
その夢では大地の家にいた。

「え、、、。」

あたりは真っ暗で誰もいない。
大地のベッドの上にいるみたいだ。


視界が妙に霞む。
クラクラとした感覚はまるで夢レンタルを見た後の副作用を思わせた。
ベッドの上で半分、体を起こすと
左肘が何かに当たった。

「ん、、。ヘッドギア、、?」

ヘッドギアが外れる夢をみたのだろうか。
無機質なヘッドギアが横たわっているのが
暗闇の中でもはっきり見えた。
慌てているかのようにヘッドギアに手を伸ばす。

そのとき



(ガチャガチャ!!)

ドアを開けられようとしている音がして
すかさず、そちらに目をやった。
大地は一人暮らしだったため
ドアは寝ている部屋からでも見えた。

何者かが開けようとしているのだろうか。



(カチャ、、。)



明らかにクラクラしている視界。
ドアからは誰か人が入ってくるような気がした。

少しずつ黒い影がヒタリヒタリとこちらに近づいているのがわかった。
必死に逃げようとしていたが
ふらつく足元のせいで動けなかった。



その影が目の前に来る。

朦朧とする意識の中わずかに見えたその顔に
どこか見覚えがあった。








優也だ。




そのとき理解した。
俺が今見ている大地の夢は「夢」じゃないことを。これは大地が見た「現実」だと直感的にわかった。ヘッドギアが夢の中に出てきたことが何よりこの思いを強めた。


優也の手にはスタンガンのようなものが見える。
呼吸が荒くなるのを感じた。


そのとき



「...ーン」




遠くで何か音が聞こえた。








「ニャーン」





ネコの声が聞こえると同時に目を覚ました。
全身にはグッショリと汗をかいていた。



横を見るとニックが
こちらを睨んでいた。




夢レンタルにハマってからは
一緒に寝ることのなかったネコのニックが
俺のヘッドギアを取り外してしまったようだった。

「ニャーン」

まずい。
夢をレンタルしているときに
ヘッドギアを外すことは危険と言われていた俺は慌ててヘッドギアに手を伸ばす。


「まて、、、。」



大地の夢通りならば
もしかすると俺も優也に狙われているかもしれない。ドアの方を見るが誰もいない。
頭は僅かにクラクラするが
動くことはできた。

「ニャーン」

ニックはまだ鳴いている。
鋭い目で睨んでいるが
その目線の先は俺に当てられてはいないことに
気付いた。






(バチッバチッッッ!!!!!)








全身に激しい電流が走った。









「またな、恭一。」




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?