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(連載小説)気がつけば女子高生~わたしの学園日記㊺ 続・新女子たちの生徒会長選挙~

「お知らせいたします。2年りんどう組の生徒は体育館にて生徒会長選挙の投票を済ませてください。」

いよいよ投票のはじまった今年の生徒会長選挙は順調に1年生の各クラスが投票を終え、続いて2年生の各クラスの投票となって校内放送でわたしたちのクラスが投票のために体育館に来るよう呼ばれたのを聞いて教室内で自習や読書をしていた生徒は廊下に整列して学級委員の千尋ちゃんの先導で体育館に向かう。

わたしのすぐ後ろをあゆみちゃんが歩いているのをチラと見るとさすがに緊張した感じで林ちゃんや弥生ちゃんもほぼおんなじだった。

そして体育館で投票の時を迎えたのだが、本当の選挙みたいに横が分からないように衝立のある机が置いてあり、入り口で「選挙人名簿」に〇をしてもらって投票用紙を受け取り、その机で候補者の名前の書かれた欄の「岸辺 あゆみ」の上に〇をして投票箱に入れる。

投票を終えたわたしたち生徒は教室に戻ってテレビの画面に映し出されている投票の風景を見ながら引き続き自習をしたり読書をしていた。

いつもならお互いに女子高生らしくにぎやかにおしゃべりをして時間を潰すところだけどさすがに今日はそんな雰囲気ではなく、小声で話している生徒は何人かいるけれど世間話か今日帰りにどこか行く?程度の事で熱心に話しに夢中になっている生徒は誰もいない。

そうしているうちに3年うめ組、3年さくら組と投票が進み、全てのクラスの投票が終わり、今度は開票作業となる。

開票作業を厳正に且つ公正中立にするべく候補者本人は元より例え放送部でその模様をライブ中継したいと言っても生徒は会場に入れないので各教室のモニター画面でその作業の様子を見るしかない。

投票箱を開けて先生方がひとつひとつ票の紙を広げてカウントしていく様子がモニターに映し出されていてわたしたちはいつしか自習や読書を止めて開票の様子をモニター越しに見ていた。

カメラが少し離れているところに置いてあり、ロング(遠巻き)に引いた映像なのでどっちの候補者がどの程度得票できているかはこの画面上では分からない。ただロングの映像であっても積まれていく票の数や高さはどちらもほぼ同じように見えた。

しばらくして選挙管理委員会の事務局長でもある行事担当主任の大島先生がマイクを持ち、カメラの前に立たれると「それではここで得票に関して中間発表を行います。」とおっしゃり、教室は元より学内全体が緊張感に包まれ、生徒みんなモニター画面に注目する。

「現在のところ若狭さん、岸辺さん共に得票はほぼ同数です。引き続き開票作業をそれでは行います。」

そう大島先生がおっしゃった瞬間、学校全体でどこからか「おおー。」とか「そうなんだー。同数なんだー。」と云う声が聞こえてくる。この選挙は確かに中盤以降ほんとに接戦だと云うすみれちゃんの読みだったけど今のところその通り接戦でしかも票数的にはかなりの接戦のよう・・・・・。

あゆみちゃんの方をわたしはチラっと見るとあゆみちゃんは平然とした表情でその開票作業の画面を見ていた。

わたしと目が合うとあゆみちゃんはニコッと笑顔を一瞬見せてくれたけど後はまた開票作業が映し出されているモニター画面を見ている。きっと今のあゆみちゃんは笑顔なんか出してるつもりや場合じゃなくてプレッシャーでいっぱいなんだろうけどそれでもそんな事は全然感じさせず平然と画面を見ている。

わたしはあゆみちゃんがすぐ後ろの席だと云う事もあり振り向いて「あゆみちゃん、今のところ同数なんだね。ここからなんとか票数が伸びたらいいね。」と云うと「うん・・・・・まあ待つしかないよね・・・・・。」と言うあゆみちゃんは表情は変わらず柔和なままだけど口数は言葉少なく、トーンもやや低め。確かにもう待つしかない。それにきっと若狭さんも今同じような気持ちだろうから・・・・・。

しばらく開票が続き、画面上では何やら先生方が集まって協議と云うか確認のような事をしているのが映っている。マイクは一応オンにはなっているのだが先生方のお話しされている声が比較的小声だったりしてよく拾えていないので何を話しているのかは分からないが多分開票した票の数が間違いないかや投票された中に無効票や白紙票が無いか、またその取扱いについて話されているのではないかと思われた。

そのうちに開票作業と確認をされていた先生方の手が止まり、何やらボードに書き込んでいる。いよいよ開票が終了し、間違いないか立会人の先生方で票数やその他間違いないか確認が済んだのだろう。間もなく結果が発表されるようだ。

そして校内放送で「全校生徒のみなさまにお知らせいたします。只今生徒会長選挙の開票結果が確定しました。これより校内放送にて結果を発表いたしますのでモニターの画面をご覧ください。」と流れ、わたしたちは画面を一斉に固唾を呑んで見つめていたら結果を発表するべく大島先生が画面の前に神妙な面持ちで立たれた。

「それでは開票結果を発表します。本日の投票総数は611票です。では各候補者別の得票数を申し上げます。若狭千景さん、294票。そして岸辺あゆみさん317票。よって次期生徒会長は岸辺あゆみさんに決定いたしました。」

次の瞬間わたしは立ち上がって振り向き、すぐうしろの席のあゆみちゃんに抱きつくように力いっぱいハグをしていた。

「あゆみちゃーん!!。やったー!!やったよおー!!、あゆみちゃんが次の生徒会長なんだよおーー!!。」そう言うわたしにあゆみちゃんも力いっぱいわたしをハグしてくれて「ありがとう・・・・。ほんとにほんとにありがとう・・・・・。全部これも応援してくれてたみんなのおかげだよ・・・・・。」と言葉を少し詰まらせながら言ってくれ、そのうち千尋ちゃんや梨子ちゃん、弥生ちゃん、林ちゃんたち仲良しの生徒みんなも駆け寄ってきていっしょになって喜びを爆発させるように身体全体で表していた。

そして教室はいつの間にやら大きな拍手で包まれていた。見ると若狭さんを支援していた生徒もいっしょに拍手をしてくれているし、窓の向こうでは他の教室からも拍手しているのが聞こえてくる。

そうして当選を祝っていると「静かに―。みんな席についてー。」と栗田先生の声でわたしたちは我に帰り、見ると丹沢校長先生と行事担当主任で選挙管理委員会担当の大島先生もいっしょにいらっしゃる。

そしてしずしずと席についたわたしたちを前に栗田先生が「えー岸辺さん、ほんとうに生徒会選挙おつかれさまでした。それでは生徒会長選挙の当選証書をこれから校長先生にお渡しいただきます。」と言われ、あゆみちゃんが前に出て証書を受け取ると更に一層大きな拍手に教室内は包まれたのだった。

受け取っているとちょうどチャイムが鳴って午後のホームルーム、つまり「ほめ会」の時間になったのでそのまま自動的にホームルームがはじまる。

校長先生や栗田先生から改めてお祝いのお言葉を頂戴し、それからはいつものように明日の予定を確認したりして最後にこれまたいつものように「今日一日いい事をした人を紹介する時間」になり、先生が発表する人を決めるビンゴマシーンを回すとわたしにお鉢が回ってきた。

「えー今日いい事をした人をわたし神原由衣が発表させていただきます。今日生徒会長選挙が行われ、わたしの大の親友でもあり候補者でもある岸辺あゆみさんが見事当選しました!。岸辺さんはほんとうに学校や生徒の事を考えて立候補してそして当選しました。それは岸辺さんの人柄や学校やわたしたち生徒に対しての思いからだと思います。よって今日いい事をした人は岸辺さんです。」

そうわたしが言うとまた教室内は拍手でいっぱいとなった。そしてあゆみちゃんは拍手に押されるようにゆっくりと立ち上がって深々とみんなの方に向かって長い時間お辞儀をしていたのだった。

放課後になり、わたしたち放送部は校門のところや校内のあちこちでインタビュー取材をしたのだがあゆみちゃんに投票したと云う生徒からは前にあゆみちゃんに親身になって話を聞いてもらってとってもよかったので投票したとか自分では相談はした事はないのだけど友達や部活動の先輩や後輩があゆみちゃんに色々と親身になって相談に乗ってもらったり励ましてもらったりした事があってその話を聞いてあゆみちゃんの面倒見の良さや人間味あふれる性格を感じ取ってこの人になら生徒会長を任してもいいかなと思って投票したという声が割と多く寄せられた。

確かに1年生の時からあゆみちゃんはその聞き上手に話し上手で褒め上手だったからわたしたち同じクラス・同じ班の生徒だけでなくて他のクラスや部活からもわざわざあゆみちゃんを訪ねてきて相談に乗ってもらっている生徒は多かったのだけどこの差が最後の票差を分けたみたい。

また選対本部長のすみれちゃんの文化部系の部活動でも元から人数の多い和楽器演奏部を早くから自主投票にしてまたすみれちゃんのツテや人脈で3年生の部活動を引退したお姉様方にあゆみちゃんをお願いして回ってくれたりと戦略もよかったみたいだ。

すみれちゃんとあゆみちゃんは言ってみれば中学の時は模試で、そして高校に入ってからは同じ学校・学年の中で学業成績の面で常に競い合ってきた「よきライバル」だったけどお互いがお互いをとってもリスペクトしているしクラスは2年になって離れてもこうして何かあれば駆けつけてくれる位仲は良く、今回の選挙ではほんとすみれちゃんの存在や力は大きいと思っている。

そして今日も校内取材が長引いたのと部室に戻ってから少しあれこれ話し込んでいていつもより帰りが遅くなったわたしは昨日に続いて駅までの帰り道で部活終わりのあゆみちゃんといっしょになった。

そんなすっかり日も暮れかけた夕暮れ時、わたしはあゆみちゃんとあれこれ話しながら駅へ向かっていた。そしてその話しの中で今日の放課後になぎなた部の練習場に若狭さんがわざわざ訪ねてきてくれたと教えてくれた。

「えっ?そうなの?。若狭さんそれで何て言ってたの?。」「うん、まあ・・・・・。」

聞くと若狭さんはあゆみちゃんにわざわざ当選おめでとうと言いに来てくれてそして若狭さんはあゆみちゃんが対抗馬だったからいい選挙だったと言ってくれたのだった。

「でもね、わたしも若狭さんに言ったのね。”わたしにとってもこの学校でもとびっきりのスーパー高校生の若狭さんがお相手だったからこそ熱心に、そして真剣に選挙にみんなと力合わせて取り組めたし、今までの自分の実力以上のものが出せたの”ってね。」

つまりあゆみちゃんは若狭さんと云う学業成績も実技もずば抜けて上位で実績も人柄もすばらしいお相手に勝る生徒会長を目指すにはどうしたらいいかを考えて周りの選対本部のみんなと一緒になって相談しながら選挙戦をやっていく中で成長できたしそれがあったからこそ投票してくれた生徒の心に届いてあゆみちゃんは当選できたし、だから自分が生徒会長になれたのはある意味若狭さんがお相手だった点があり、そして選挙戦のお相手が若狭さんでよかったとあゆみちゃんは思いを若狭さんに言ったのだった。

すると若狭さんも今回の選挙についてはあゆみちゃんがお相手でよかったと思っていたと言い、それに接戦の末あゆみちゃんが当選した訳だけど学校や生徒のみんなへの思いは自分だって決して負けてないからこれからも生徒として協力は惜しまないとまで言ってくれたのだった。

「へえー・・・・・若狭さんってすごいね・・・・・。普通は落選して落ち込んでるところその日に対抗馬のあゆみちゃんに挨拶に行ってるだなんて・・・・・。やっぱり若狭さんってすごい人だしさすがだよね。わたしも聞いててあゆみちゃんのお相手が若狭さんでほんとよかったよ。」

そして1カ月が経ち、年間で最大の学校行事の秋のきものまつりの日となった。

わたしは行事委員として準備段階から当日までほんとてんてこ舞いの毎日でおまけに放送部としても通常どおりの番組用の取材やライブ配信もあるから入学して一番と言っていい位とっても忙しくここのところ過ごしていた。

この秋のきものまつりそのものは伝統もあるのである程度プログラム自体はできあがっているのだが、それでもゆかたまつりの時にとても好評だった着物や小物類、和雑貨の安く買える「きもの大バザール」は今度はマーケティング部の展示の一環で主導してやってもらうようにして規模を拡大したりといくつかの点に関しては行事委員会で改善や手直しをしたりもした。

そのきもの大バザールにはうれしい事に県外からわざわざゆかたまつりの時に浴衣体験をしてくれたみどり子ちゃんがやってきていた。

秋のきものまつりは3年生の振袖の着付けやメイク・ヘアメイクにスタッフも場所も必要なので女装子・トランスジェンダー向け着物体験はスペースの問題で出来なかったのだけどそれでもここのきもの大バザールだとB面(男性の姿)でも気兼ねなく買えるし、毎年恒例のきものショーと振袖パレードも是非見たかったのでやってきたのだった。

そしてその3年生のお姉様方全員が振袖をお召しいただいて校内を散策されたり恒例の振袖姿で3年生全員がモデル・踊り手役として参加するきものショーとショーの終了後に学校近辺を振袖姿のままパレードするきものパレードのプログラムは午後から例年通りに盛大に行われ、昨年同様に色とりどりの多数の振袖姿のお姉様方にわたしはその絢爛豪華さも手伝ってしばし見とれていた。

ただわたしは行事委員の仕事で沿道整理を林ちゃんや他の2年生の生徒達とやらせてもらっていたのであまりじっくりとはパレードやショーを見る事ができなかったのだけどそれでも見とれるくらい今年もきれいで華やかなショーにパレードだった。

また年々好評で参加者も増えている主に近隣住民の方向けに和装振興目的の格安で着付け・メイク・ヘアメイク込みで着物体験ができる催しも以前にも増して大盛況で多くの一般客の方が着物姿で校内の散策やきものまつりの見学を楽しまれ、あでやかな振袖姿の3年生のお姉様方と相まって校内はとても華やいでいた。

そんな中、午前中の体育館メインステージの最後のプログラムとして壇上では新旧生徒会長の引継ぎ式が行われた。

豪華な絞りの赤の振袖姿の現生徒会長の遠山杏奈お姉様からやや神妙な面持ちで緊張しているあゆみちゃんは台紙に挟んだ引継書を受け取り、「新生徒会長として期待しています。」と遠山杏奈お姉様に声を掛けてもらうと「はい。しっかり生徒会長としてこれから1年間やらせていただこうと思います。」と答えながら小さくうなづいていた。

そんなこんなで忙しかった秋のきものまつりもなんとか終わり、行事委員と生徒会役員のみんなはまつりの終了後、本部用の会議室で無事終わったと云う安堵感の中でホッとしながらしばし雑談をしているとあゆみちゃんが「ところで行事が終わったばかりでみなさんお疲れのところなんだけどちょっと生徒会長としてのプチ初仕事をやってみたいんだけどね・・・・・。」と言う。

(つづく)






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