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(連載小説)気がつけば女子高生~わたしの学園日記55 教育実習生はトランスジェンダー・後編~

時間調整のために偶然立ち寄った本屋さんで教育実習に来られているこまち先生とばったり会ったわたしは時間までお茶をご一緒する事になり、本屋さんのある駅ビル内のカフェに誘っていただいた。

わたしは実はカフェインの強い飲み物がどちらかと言えば苦手なので今日はフレッシュジュース、こまち先生はカフェラテをオーダーし、テーブルに座った。

「こまち先生、今日は何か本をお探しですか?。」とわたしが聞くと「そうなの。まあ見ての通り実習も上手くできないから少しでも挽回したいと思って何か参考になる本が無いかなと思って探しに来たのね。」とこまち先生はおっしゃる。

こまち先生はたまたまだけどここの駅が自宅の最寄り駅で、ここのカフェとか本屋さんもちょくちょく来るのだそうだ。そしてこれがきっかけでわたしとこまち先生はあれこれとおしゃべりに花が咲いた。

わたしはどうしてこまち先生は学校の先生、それも社会科の先生になりたいと思ってらっしゃるのかを聞いてみた。すると月曜日の最初の授業の時の自己紹介の中でお話しして下さった内容をもう少し詳しく教えてくださった。

こまち先生は今の東日大学をトランスジェンダー枠で受験する際に担任と進路指導の先生に自分がMTFトランスジェンダーであると云う事を思い切って初めて他人に「カミングアウト」したのだけど、その時の先生方の対応がとても印象に残っているのだそうだ。

それはこまち先生のMTFトランスジェンダーであると云う事へのカミングアウトにも特に必要以上の驚いたリアクションとかもなく、またトランスジェンダーそのものが国や地域に限らず少数派だけど一定数居ると云う事とトランスジェンダーである事は珍しい訳でもないし、恥ずかしい事でもないと云う事を最初に言ってくれて、それからはごく限られた先生方だけで情報を共有して且つ外にはこまち先生がトランスジェンダーである事を漏れないようにするとおっしゃってくれて実際そのように事が運んだらしい。

「わたしその時の先生方の対応が理解もあって本当にありがたくて、だからこうしてトランスジェンダー枠で実際の自分の思っている”心の性”の女子として大学に通えている訳で、わたしも出来たらこんな風に先生としてトランスジェンダーの子に接してあげて、そうすることでその子が安心する事ができる存在になりたくて先生を目指しているんだ。それから社会科の先生になりたいのはやはりLGBTQ問題について一番近い科目はやはり社会科関連だと思うのでこれについて理解を深める手助けみたいな事ができたらいいなと思ってるの。」

そうおっしゃるこまち先生だがトランスジェンダー、特にMTFトランスジェンダーの場合は学校の先生に限らず、卒業後に「女性」として会社なり組織に属して勤務するのがこれが狭き門らしい。

確かに去年の夏休みにわたしもインターンシップでお世話になったJPNトラベルでトランスジェンダー、特にMTFトランスジェンダーはいわゆる「食べていく」のが大変だと云う話は聞いた事がある。

それにインターンシップ中にわたしでさえ一般社員さんにわたしが新女子である事を揶揄されたりした訳で、どこの会社や組織でもまだトランスジェンダーが歓迎されるまではいかないし、偏見や中傷、揶揄はまだまだあるのだと思う。

また日本の文化では「女性の男装」は宝塚の男役スターを見ても分かるようにそれなりに社会に於いて理解される下地ができているように思うが逆に「男性の女装」は「わざわざ男がなんでそんな事するの」とか「キモイ」などと否定的な見方がまだ主流でトランスジェンダー、特にMTFには理解が薄いだろうなと云うのは自分の経験からもそう思う。

学校の先生に限って言えば、トランスジェンダーでも特に志望するのにあたって問題ない自治体もあるようでこまち先生としてはその応募に差し支えのない地区を目指して準備しているとの事。ただ採用になったとしてもその赴任先の学校で同僚の先生方はもちろん生徒や地区に受け入れてもらえるかは別問題で、例えば「あの先生って実は”オ〇マ”なんだって」とかのあらぬ話が出たり偏見や誹謗中傷にあったりする事が無きにしも非ずなのでその辺り少し考えるところなのだとか。

「ほんとはね・・・・・優和学園に採用していただけるのがベストなんだけどね・・・・・。難しいかも・・・・・。」とこまち先生はおっしゃる。わたしもそれは感じていたのだけど確かに言われてみて気づいたが案外、と言ってはなんだけど事務職員や校務員さん、各種スタッフさんを含め優和学園の教職員は全員現在のところ「医学的に女性」で生徒にはわたしやあゆみちゃん、弥生ちゃんをはじめ「新女子」は居るのにちょっと不思議な感じがする。

こまち先生も優和学園が「第一希望」な訳だからもちろん新卒の採用に関して調べたり問い合わせてみたりしたのだけど基本的に優和学園では教職員の採用については「欠員補充」と云う事でどなたかがお辞めにならないと採用はしないらしく、もちろん生徒が増えたり科目が増えたりしたらそれに対応するべく教職員・スタッフも増員するのだけど今のところは近々新規採用の予定はないとの事だった。

それに過去の優和学園の新女子の卒業生で今度は教職員として優和学園に通いたいと志望してきた学生が今までに全然居ない訳ではなかったのだが、優和学園はわたしたち生徒に対しても「女子」も「新女子」も特別扱いはせずに実力主義であるのと同様に教職員の採用の場合もトランスジェンダーだからどうとか云うのは無いらしく、あくまで他の志願者と同様の採用基準にしているようでそれもあって今まで新女子・トランスジェンダーの教職員は出てないみたいだった。

そこまでおしゃべりしているとこまち先生が「ねえ、神原さんから見て正直わたしの教育実習ってどう?。」と聞いてくる。

「正直」と言われるとお世辞にもこまち先生の授業の実習に関してはそれほど上手にできているとは言えないし、慣れてないところや焦って空回りしているところも目に付く事が多い。

だけど本気で先生を目指している希望や想い、それに熱意は充分伝わってきていたし、担当分野の授業だけでなく割烹着を着て掃除やゆうわマートのお手伝いを自主的にしてみたり、着物館に足げく通って着物や着こなしについての知識を積極的に得ようとしたりとしているところからもこまち先生自身の人柄や人物像に関してはわたしは好感を持っていたのもまた事実だったので「授業実習に関してはまあそれなりですけど、それよりこまち先生がこの教育実習に熱意を持って取り組んで頑張っておられるのをわたしだけでなく生徒みんながよく分かっています。」と答えた。

「そうなんだ・・・・・なんとか頑張って指導係の和久井先生並みにとまではいかなくても和久井先生がされてる事に少しでも近づきたいと思ってたんだけどやっぱりわたしの授業ってまだまだだよね。」

と上手に実習ができてない事に関して自分でも分かっているけど「もどかしさ」みたいなものを感じていたこまち先生に「先生、大丈夫ですよ。わたしだって2年前に”新女子”として入学してきた時は覚える事が山ほどあって大変だったし、今でもこの女子校生活に付いていくだけで精一杯ですけどこの天然で何をやっても人並みが精一杯で時間も手間も人一倍掛かるわたしだってなんとかみんなと一緒に3年生になれたんですから。」と思わずわたしはこまち先生を励ますような事を言っていた。

それを聞いて「えっ、そうなの?。神原さんって新女子なの?。そう言えば出席簿に浦田さんと神原さんは何やら別のマークがついてたし、もちろん事前にわたしも調べて優和学園には新女子と云う制度を利用して通っている”元男子”が居るって事は知ってたけど・・・・・。だけど神原さんって小柄でかわいらしいし、浦田さんは”クールビューティー”って感じで大人びてて綺麗でどこをどう見たって普通に女子だと思ってた・・・・・・。」とおっしゃるこまち先生にわたしはどうしてわざわざ「女装」までして新女子として優和学園に進学したのかを中学時代にいじめにあった事や桜田先生との出会いの中で優和学園を知った事や初めての着物女装の事、また自分の中で「男らしさ・女らしさ」や「ジェンダーフリー」について思っている事をここまでの経緯といっしょに話してみた。

わたしは初めてこまち先生が授業に来られて自分がMTFトランスジェンダーでありその事で子供の頃よりずっと悩んでいた事を聞いたり、実習で焦って上手く思う様に授業が進められないところを見たりしているうちにいつしかこまち先生にわたしと通じる親近感みたいなものを感じていた。

「わたしも本当に天然で不器用で授業も実技もなかなか最初の頃もだし、今でもなかなか他の子みたいに出来ない事も多いですけど、焦らずに友達や先生の手助けを得てなんとかやれてますからこまち先生も時には和久井先生や他の先生にご指導頂きながら焦らずに実習なさったらいいと思いますよ。」

「ありがとう、そう言ってもらえると幾分気が楽になったわ。そうよね、わたしって先生になりたい気持ちがどうしても強くて”この教育実習でちゃんとやらなきゃ”とか”デキるところをここの先生方に見せて優和学園の採用試験を優位にしなくちゃ”なんて気持ちが空回りして焦ってばっかりだったな。ちょっと反省だね・・・・・。」

「先生、あとまだ少し実習期間もある事ですからこの週末で気分転換をされてまた残り半分を頑張ってください。わたしもだし、少なくともわたしの仲の良い生徒達はこまち先生がこの実習に熱意を持って頑張ってる事に気づいてますから。」

そう言うわたしにこまち先生は黙ってうなづきながら聞いてくれていた。こんな一生徒が例え教育実習生とは言え年上で目上の方に出過ぎた事を言ってしまったかなと云う思いはあったけど、それでもわたしは実習を頑張っているこまち先生を応援したくなっていた。そして「女性」として社会に出て、自分がしていただいたようにトランスジェンダーに理解のある行動を今度は先生になることで後輩や現役世代にしてあげたいと云う想いを何とか叶えばいいなと感じていた。

そうこうしているうちにそろそろ美容室の予約の時間が近づいてきたのでお茶をご馳走になった事のお礼を言っておいとまさせて頂く事にした。ただせっかくなので美容室「ポプリ」がすぐそこだからご一緒して着物に関してもアドバイスを頂いたらどうでしょうかとお節介かとは思いきや言ってみると乗り気になられてカフェを出てから「ポプリ」へ引き続き一緒に移動した。

「ポプリ」に着くとちょうど予約の時間だったのとわたしを担当してくださる三橋店長さんも手が空いていた事もありわたしはすぐそのままカット椅子に案内され、その際に店長さんにこまち先生の事をご紹介して着物に関してのアドバイスをお願いしてみるとたまたまあゆみちゃんの担当で優和学園OGでトランスジェンダーの摂津さんがお手隙だったのでそちらは摂津さんにお任せしてわたしはカットをしていただく事にした。

そしてカットをしながらの背中越しに摂津さんとこまち先生が何やらあれこれ着物に関して話し込んでいるのが聞こえてきた。ここでもこまち先生は熱心であれこれ足りない着物の知識を補充するべく質問をされていて、また摂津さんも同じMTFトランスジェンダーと云う事もあってこまち先生の気持ちや思うところや考えもよく分かるみたいでひとつひとつの質問に丁寧に答えてあげたり具体的にアドバイスをして下さっていた。

ひと通り質問を終えた位で摂津さんの次のお客様の予約時間がそろそろと云う事でこまち先生はおいとまする事となり、わたしにも背中越しに「神原さん、今日はありがとうね。いい”実習”になったわ。また学校でね。」とおっしゃりながらお店の皆さんにもお礼を言って帰って行かれ、そのこまち先生の声はさっき本屋さんでお見掛けした時のとは全然違う明るいもので、また改めて教育実習を前向きに頑張りたいと云う気持ちが伝わってきていた。

週明けこまち先生の教育実習第2週目がスタートした。時間割は前の週とおなじだからさっそくこまち先生は月曜日の2時間目に和久井先生といっしょに3年すずらん組の教室に授業実習に来られた。

お見えになられたこまち先生は週末にがんばって着付けの練習に励まれたようで前の週と比べて随分着物の着こなしや立ち居振る舞いもよくなっていたし、小物を上手く着物に取り入れてアクセントを小洒落た感じでまとめてらしゃった。

そして慣れてきたのもあるだろうし、こまち先生の事だから週末熱心にリハーサルや授業の研究や準備をされたみたいで相変わらず時々声が裏返ったり詰まったりはするもののその回数も前の週から減って何よりオドオドした感じが話の中から減っていた。

授業以外でも先週同様に割烹着を着ての校内の清掃や整理整頓、中庭や花壇のお手入れにも頑張っておられたのを見かけたし、校内売店のお昼の補助も引き続き自主的にされていたり、もちろん着物館にも通ってあれこれと教わっているようだった。

わたしはそんな頑張っているこまち先生を見て心の中で「こまち先生がんばって!。」とつぶやいていた。それにわたしだけでなく他の生徒達もこまち先生の一層の頑張りと教える事に関しての上達を感じてこまち先生に対していつしか好意的な空気が場を包むようになっていった。

そしてなんとかかんとか無事にこまち先生の実習は進み金曜日となり、いよいよ実習の最終日を迎える事となった。

金曜日の5時間目は「女性とジェンダー」の時間で先週と同じようにこまち先生は和久井先生と一緒にわたしたちの教室にお越しになられた。そしてこの授業では時々先生のお話しを聞くだけでなく、ワークショップ形式で各班で議論や討議をしてその日のテーマについて発表する形式が取られるのだけど今日はそのスタイルの日だった。

「起立!礼っ!。」といつものように千尋ちゃんの号令で授業が始まると担当の和久井先生が今日の授業はこまち先生に全てお任せします旨おっしゃり、こまち先生が壇上に立たれて「えーみなさん、今日のこの授業は各班でテーマに沿って各自の意見を交わして議論していただいてその結論を授業の最後に発表していただきたいのですが、今日のテーマに関しては”トランスジェンダーの就職”と云う事でお願いしたいと思います。」とおっしゃる。

「トランスジェンダーの就職」とはまさに今こまち先生の最大関心事でもあるし、いずれわたしたち「新女子」の生徒達にとっても将来的に非常に関わってくる事柄だけど思いきったテーマ選びだなとそれを聞いて思った。

「MTF,FTMに限らずトランスジェンダーが就職をする際、或いは転職をする際にどんな問題があるか、そしてそれを解決したり前に進むためにはどのようにしたらよいか、自身でも頑張るけど周りや行政からどのようなサポートがあったらいいか等々皆さんが日頃考えている事や感じた事を基に議論してみてください。でははじめ。」

そう言われわたしたち千尋班の5人も机を寄せ合って議論スタート。「そもそも就職を希望してその会社にエントリーシートを出す際に”トランスジェンダー可”とか性別欄の記入不要になっている会社ってどの位あるんだろう?。」とか「LGBTQを含めてトランスジェンダーに積極的に門戸を開いている会社・団体ってどんなところがあってどの位の数があるんだろう?。」等と思いつくままではあるけど意見を出して、その都度考えられる問題点について時折タブレットを開いて検索をしたり、各自の思った事や感じた事をあれこれお互い話しながら班長の千尋ちゃんが意見をまとめていく。

議論しながらふと周りを見るとわたしたちの班だけでなく、他の班も結構議論が白熱していて「トランスジェンダーの人の新卒での就職って結構大変なんだね・・・・・。」とか「能力があるのにトランスジェンダーって事でその人の持っている能力を存分に発揮できない職場ってなんかおかしいよね。」等と色んな意見や感想がそれぞれの班で交わされている。

そして議論しながら各班で意見をまとめて、順番に班長がその結果を発表する事となり、わたしたちの班からも千尋ちゃんが代表して意見を述べた。

概ね各班から発表された内容や意見はテーマの大きさに比べて討議する時間が限られていた事もあって似たようなものになったのだけど、それでもトランスジェンダー、特にMTFトランスジェンダーの人が「女性」として社会に出ていわゆる一般的な普通の正社員として働くのは現時点では非常にハードルが高いと云う事、また仮に入社できたとしても仕事するにあたり社内外の周りの理解が充分得られるかどうかはまた別問題だと云う事等々それぞれがぞれぞれに意見を出し合ったり調べたりするうちにこの問題点に関しての認識を深め、結果としてやはり社会全体でトランスジェンダーである事についてカミングアウトの段階から優しい社会である必要があり、そうでないと折角の優秀な人材が適材適所でトランスジェンダーである事で持っている才能や能力を発揮できないのであればそれは社会全体にとっても必ずしも得策ではないと云う意見に落ち着いていた。

このわたしたちの班ごとの発表をこまち先生は熱心にメモを取りながら聞いていた。そして全ての班の発表が終わると最後にこまち先生から「まとめ」のお話しとなった。

「皆さん少ない時間の中で本当に熱心に、そして真剣にこのテーマに関して議論していただいてすばらしかったと思います。わたしがそうだから言うのではないのですがトランスジェンダーと言っても一人の人間には変わりありませんのとそれぞれがそれぞれに得手不得手があったり、希望する職種もまたそれぞれです。そんな中で一人でも多くのトランスジェンダーが偏見や揶揄される事なく、希望する仕事に就けれて普通に社会人として働ける社会になる事をわたしは願っています。」

そうおっしゃるこまち先生に自然と教室から大きな拍手が起こった。生徒だけでなく和久井先生も満足そうな顔で大きな拍手をされていた。そしてその和久井先生からこまち先生に実習最終日にあたって何か一言挨拶をと促された。

「それでは実習も今日で終了と云う事でひと言みなさんにご挨拶させて下さい。わたしは先週今週と優和学園で教育実習でお世話になる事ができて本当によかったと思っています。元々が不器用なわたしですので失敗ばかりして和久井先生はじめ他の先生、何より生徒の皆さんにご迷惑をお掛けしたり見苦しいところもいっぱいあったと思います。でも何とか自分が先生になる事でトランスジェンダーの生徒の力や希望になりたい、その為には教員免許をまずは取得するんだと云う強い想いの元でこの期間を過ごして参りました。そして同じ位この期間を何とか乗り越えてこれたと思うのは生徒のみなさんの温かいまなざしやお気持ち、そしてトランスジェンダーへの理解です。わたしは正直自信を失いかけていました。だけどみなさんのご理解ある姿勢に随分助けられ、そして授業だけでなくいち女性として、そしていち人間としてもこの実習期間中には優和学園で大変多くの事を学びました。ですからこの優和学園で学んだことを活かして先生になる夢に向かって残りの大学生活を頑張ろうと思っています。みなさん本当に本当にありがとうございました。」

そう言うこまち先生は深々と頭を下げてお辞儀をされ、わたしたちも和久井先生もさっき以上の大きな拍手で応えた。

放課後、部活動を終えて下校しようとしていると和久井先生をはじめ社会科の担当の先生とこまち先生が一緒に帰られるところに出くわした。わたしはこまち先生に駆け寄り、「先生実習お疲れ様でした。これからも頑張って下さい。」と声を掛けた。

「ありがとう。神原さんはじめ優和学園みんなの温かい気持ちの中でなんとか実習できてホッとしてるよ。今回学んだ事を活かしてどこかでわたし来春先生になれるよう頑張るね。」

そう言っていると和久井先生たちが「こまち先生行きますよー。」と声を掛けた。何やら今日はこれから実習も無事何とか終わった事だしこまち先生を交えて先生方と一緒に食事に行かれるらしい。そしてこまち先生は実習がなんとか終わった事での安堵の表情を見せながら、また満足そうな表情も併せて見せながら和久井先生や他の先生とお食事に行かれた。

その姿を見送りながらわたしはこまち先生はきっといい先生になれると思った。生徒の事を第一に思い、自分の経験からトランスジェンダーや弱い立場の生徒に寄り添えるすばらしくすてきな先生にこまち先生ならきっとなれるだろうし、ぜひなってほしい。そんな事を思いながらわたしも下校したのだった。

(つづく)





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