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(連載小説)和巳が"カレシ"で、かすみが"カノジョ" もうひとつの学園祭のミスコン⑨

「みんな今日はおつかれー。じゃあまた明日の”本家ミスコン”もがんばりましょうねー!。」「はーい、また明日ねー。」

かすみの優勝で幕を閉じた「もうひとつのミスコン」の会場から記念撮影を済ませ、メイクオフをしたかすみとサポートのチームかすみの面々が満足そうな表情で出てきた。

打ち上げ兼祝勝会は翌日にあずさが出る本家ミスコン終了後にまとめて行う事で最初から決まっていたので今日はそれぞれ三々五々家路に就いていたのだが、メイクオフをしてかすみから元の男子の姿に戻った和巳とあずさは隣同士に住んでいるので帰り道は一緒で、今日のもうひとつのミスコンの事をあれやこれや喋りながら家へ帰っていたのだった。

「それにしてもドレスを着た和巳、じゃなくてかすみってとってもきれいだったね!。なんだかすぐにでもお嫁にいけそうな位ドレス姿がばっちりハマってて、わたしかすみに”ドレスキュン”しちゃった!。あははっ!。」

「そ、そう?・・・・・。そんなにドレス似合ってた?・・・・・。」

「もちろんだよ!。似合ってたからこそ優勝できたんでしょ?。もっと自信持ちなさい。かすみはうちの大学の男子でいちばん女の子らしくてきれいでかわいい子なんだから。」

そうあずさが言う「うちの大学の男子でいちばん女の子らしくてきれいでかわいい子」のは聞きようによっては何だか変な誉め言葉にも聞こえるが実際コンテストの結果はかすみの優勝だった訳だし、それにグランプリを頂いた事での気持ちの面の高揚さもあり和巳は言われて悪い気はしていなかった。

「あずさも明日の本家ミスコンは頑張って。あずさこそ”うちの大学の女子でいちばん女の子らしくてきれいでかわいい子”になれるように僕も祈ってるし、応援してるから。」

「ありがとう。まあコンテストなんで相手もある事だし、後は今日のかすみと一緒でわたしもとりあえずコンテストを楽しんでくるね!。だって今年もまたドレス着れるんだよ!。女の子にとってはめっちゃうれしい事だよね。この気持ち”かすみ”なら分かってくれるでしょ?。」

そう言われた和巳はあずさの言うことがとてもよく実感できていた。ドレスを着れる事が女の子にとってどれだけテンション上がる事なのか先程までドレス姿だった事もあり、ほんとうにその気持ちは自分としても理解できる。

そんな他愛もない話をしているうちに家に着き、和巳も自分の部屋でスマホを開いてワンピースやドレスを着た今日の自分の女装姿の写真を出してみて眺めてみた。

スクロールを一通りしながらあれこれと撮影した自分の女装写真を見ていると自分が「もうひとつのミスコン」で優勝したんだと云う実感が少しだけど沸いてきた。

「僕、ほんとに優勝しちゃったんだな・・・・・。」

そう独り言をつぶやく和巳の視線の先にはコンテスト終了後に控室でチームかすみの面々と鉄郎たち日頃から仲良くしている男友達数人でドレス姿のかすみを囲んで写した集合写真が画面の上に乗っかっていた。

かすみもだし、あずさはもちろんチームや鉄郎たち男友達も含めみんなが満面の笑みで写っているその写真を見ながら準備は大変だったし、途中晋吾たちに変な揶揄や中傷をされたりしたけれどこのコンテストに出てよかったし、何より楽しかったと和巳は感じていた。

その頃中目黒の小洒落たビストロ風の洋風居酒屋にメイクオフした晋吾をはじめ麗美、そして何人かの晋吾や麗美の取り巻きが「残念会」をしていた。

本来なら「祝勝会」となるべくこの飲み会も晋吾、と云うか怜奈の優勝ではなく、かすみが優勝したので参加する学生も少なく、多めに予約していた席には空きが目立ち、会話も弾んでいなかった事もありどこか閑散とした雰囲気だった。

そうした雰囲気を察したのかお付き合いでこの飲み会に参加していた取り巻きたちもひとりまたひとりと「じゃあ用事あるから。」とか「明日も予定あるんで。」などと適当な事を言いながら席を立っていき、気が付くとその場には晋吾と麗美だけが残って適当に皿の上に残ったフード類をつまみながらグラスを傾けていた。

「あーそれにしても成人式の時と今回続けてかすみとあずさペアに負けちゃうだなんてほんと信じらんない!。なんでー?!。」

そう自分のプライドが許さないのか不満そうに言う麗美は続けて機嫌悪そうにその矛先を晋吾に向けていた。

「大体あれほどSNSを使ったり、それ以外の日頃からの対策も手間暇お金全て掛けてしっかりやったのになんで晋吾がグランプリじゃないの?。そんなにかすみの方がいいだなんて私的には思えなーい!。もっと晋吾もやり方とかあったんじゃない?。反省してる?。次回は頑張ってね!。」

などと酒に酔った勢いもあるのかあれこれ言う麗美に晋吾は最初のうちは「まあまあそう言わずに。」とか「これって本家ミスコンとはまた違うんだし、終わった事だから今日は忘れて楽しく飲もうよ。」などと言いながら麗美をなだめるように接していたが、変わらず不平不満を口にしている麗美にそのうち段々と晋吾もめんどくさくなってきていた。

そして晋吾は「あのさ、麗美。ちょっといい?。」と麗美の話しているタイミングを見計らって切り出した。

「ん?なに?。」

「俺さ、もう麗美とこれ以上カレシカノジョの仲を続けて行くのって無理。」

「え?なにその”無理”って?。」

そう晋吾に切り出された麗美は驚き、そして酔いが一瞬で覚めたかのように真顔で晋吾の方を向いて聞きなおしていた。

晋吾にとって麗美は東都大のミスコングランプリ取るくらいに美人だし人気者でその点は自分にとっても誇らしいし、成人式の時のカップル振の人気をあのかすみとあずさの二人に持っていかれて面白くなかったのを取り戻すのにこの「もうひとつのミスコン」に出て見返してやりたいなどと云う気持ちも麗美と同じように持っていたからコンテストに出たけれど、何度も恥ずかしい思いをしながら大勢の人前で女装をして、また裏ではSNSで他人の妨害をしたり色んな細工をしたのに結局はあの二人に勝てなかった訳でほとほと嫌になっていた。

「だからもう麗美と付き合うのって俺的には無理なの。成人式の時限りと思ってた女装もこのコンテストのために無理やりやらされたり、その件もだし他にも麗美は俺に対してあれこれリクエストが多くて正直うざいんだよね。」

「・・・・・。」

「和巳みたいに俺は喜んで女装なんかもうできないし、するつもりもないよ。成人式にカップル振で俺が振袖着たのはあれは最近のおしゃれ男子みんながやってる流行りって事なのと”たまのコスプレ”感覚”からだったし、それに成人式当日に着物を着た東都大ミスコングランプリのお前を独占して横に置いとけるって云うのは俺的にもいいかと思って割り切って女装しただけだかんね。勘違いしないでよ。」

そう言われた麗美は「そうなんだ・・・・・。私もちょっと最近晋吾って調子に乗ってるって思ってたし、2度も連続してあんなダサくて地味な和巳なんかに勝てない晋吾ってどうかって思った。」と皮肉を言うのが精一杯だった。

お互いがお互いを「自分にとってのステイタス」としか見ていない言わばうわべだけの麗美と晋吾の恋人付き合いはこうして終わりを告げ、お会計を済ませた二人は口も聞かずに店を後にしたのだった。

翌日、メイクやら最終リハーサルの関係もあって割に早めに家を出たあずさだったが、和巳の方は普段通りの時間に普通の学生として大学に向かった。

学内では鉄郎たちと合流して鉄道模型のジオラマを楽しんだり、模擬店で飲み食いをしたりして昨日の女装コンテストからの解放感と一緒に和気あいあいとした時間を過ごしていた。

その間もあずさの方はファイナリストとして本家ミスコンの最終準備に余念がなく、打ち合わせや最終リハーサルに臨んでいた。

午後になり、三々五々本家ミスコンが行われるメインステージに最終準備の仕度を終えた昨日まではチームかすみで今日はチームあずさの美咲や実憂、純菜たちはもちろん鉄郎たちもあずさを応援する面々が集まり始めた。ただそこにはなぜか本来居てもいいと云うか是非居るべき和巳の姿が無かった。

「あ、居た居た、鉄郎くーん、昨日はおつかれー。あれ?和巳は?。」

「いやさっきまで一緒だったんだけど、なんか行くところがあるから先にメインステージ行っといてって言われたんだよね。でも今日の祝勝会兼打ち上げには参加するから心配しないでって和巳は言ってた。」

「そうなんだ・・・・・。」

自分のカノジョがファイナリストとしていよいよ念願の上位入賞を目指して今年も本家ミスコンに出るのと、大体昨日まで自分の「もうひとつのミスコン」にはあんだけあずさも熱心にサポートをしてくれてたと云うのに当の和巳が今日のこの本家ミスコン決勝大会に応援に来ないだなんて・・・・・とチームのメンバー全員がいぶかしがるような気持ちでいた。

そうしているうちに本家ミスコンの決勝大会が始まった。本家の方は選ばれた10名のファイナリストがまずはそれぞれがこの日のために選んだ私服で順にステージ上に登場し、ファイナリストが1名出てくる毎に会場は大歓声に包まれ、それは昨日の「もうひとつのミスコン」以上の大きくて力強い歓声だった。

そして最後に「エントリー番号10番、文学部3年、諏訪あずささんの登場です!。」とMC役の学生が言うと舞台の袖から白を基調としたレースをふんだんに使ったワンピース姿のあずさが現れた。

「昨年、一昨年とこのミスコンにチャレンジされ、いずれもファイナリストだった諏訪さんですが、是非”三度目の正直”と云う事で”その上”を目指して今年も参加してくださいました!。」

とMCが紹介すると「わー!かわいいー!!。」とか「さすがここの大学のミスコンで2年連続ファイナリストだけあってきれいー!!。」などと他のファイナリストたちに負けず劣らず、いやそれ以上の大きな声が会場から湧き上がるように起こった。

そしてその大歓声に後押しされるようにコンテストの”ツボ”を押さえたあずさがはにかんだような笑顔で小さく控えめに手を振りながら、それでいてしっかり堂々とした足取りでステージ上のランウエイを会場の視線を好感度と共に集めながら歩いて行くと会場からは昨日のかすみたちと同様に飾りのついた応援用のうちわが揺れ、まるでアイドルのライブのような雰囲気だった。

ステージ上にファイナリストが勢ぞろいするとMCとのトークコーナーや特技を披露するコーナーとなり、さすがに2年連続ファイナリストのあずさは慣れた雰囲気でどれも難なくこなしていき、その都度会場からは大きな拍手や歓声が上がり、盛り上がったのと同時に見ていたチームの面々にも会場のあずさへの好感度が実感できていた。

そして前半戦の私服での時間が終わり、一旦ステージ上から降りると昨日の「もうひとつのミスコン」同様に後半戦は全員ウエディングドレスに着替えて「お色直し」を済ませたファイナリストたちが改めてステージに上がってくる。

「わーほんときれいー!。」「すごくどれもすてきなドレスばっかりだし、それに着てるどの子もみんなドレス似合ってるねー!。」

そんな風に会場からステージ上のファイナリストたちへの声援や歓声が聞こえてきたのだが、確かにさすがファイナリストと言っていいこのドレス姿は本当にこの二十歳前後の年頃の女子を美しく彩っていて、会場はスマホのシャッター音が鳴りやまないほどだった。

今年のあずさのドレスは昨日のかすみと同様にオフショルダーのプリンセスラインのドレスで、やはり同じくかすみが着たドレスと同様にレースを多く使い、ビーズやスパンコールを多用した華やかなドレスであずさにとても似合っていてそのドレス姿の美しさは昨日のかすみを超えていた。

そして前半戦と同様にそれぞれにMCがインタビュー形式で各ファイナリストに審査を兼ねたトークを振り、あずさもそれにそつなく答えたのだった。

「さて諏訪さん、先程からドレスを着た諏訪さんに会場からすごい歓声が飛んでますね!。今のお気持ちをお聞かせください。」

「いえ、ほんとうに皆さんありがとうございます。今年もこうして伝統と歴史のある渋谷学園大学のミスコンのファイナリストに選んでいただき、また今年もこうしてドレスを着る事ができてほんとうにうれしいです。」

そう言うあずさに会場からはまた一層大きな歓声が上がり、「さすがあずさだねー。ドレスもすっごく似合ってるし、それに3回目と云う事もあって慣れてるし全然噛まずにトークも言えてていいね!。」と美咲たちチームあずさのメンバーもステージ上でのあずさの立ち居振る舞いに感心しながらMCとのやりとりを見ていた。

ひと通り全員のドレス姿でのトークが終わって最終審査となり、審査員が協議したり会場からの投票結果を集計している間は昨日の「もうひとつのミスコン」同様メインステージ上では幕間を拝借してダンスユニットのパフォーマンスが繰り広げられ、それを見ながらしばし集計結果の発表を皆で待っていた。

そしてダンスパフォーマンスが終わり、再度MCがステージ上に現れ「会場の皆さん大変お待たせ致しました。投票および審査が終了しましたのでファイナリストの皆さんはステージ上にお進みください!。」と言うとドレス姿のファイナリストたちが皆やや緊張の面持ちで再度ステージ上に登場してくる。

「わあー改めて見てもどの子もみんなきれいー!。」「ドレスほんとうにみんな似合っててすてきー!。」と声が掛かる中、各自所定の位置に整列して結果発表を待っていた。

「それではファイナリスト全員がお揃いになりましたので、これより結果発表とさせていただきます。」とMCが言い、まずはスポンサー賞から結果発表が始まる。

そして結構な副賞の数と共にスポンサー賞、そして実質の3位表彰になる審査員特別賞の発表があったが、ここまでまだあずさの名前は呼ばれていない。

続いて準ミス渋谷学院大学の発表となったのだが、ここでもあずさの名前は呼ばれなかった。

「準ミスでもあずさ呼ばれなかったね。と云う事は優勝かそれとも今年もファイナリストどまりで上位入賞じゃなかったのかな・・・・・。」と会場で推移を見守っていたチームの面々は不安と期待が入り混じった表情でそう呟きながらステージ上を注視していた。

そしてそれはあずさにとっても同じで、ここまで来たらなんとか三度目の正直で上位入賞したいと思いながらステージ上で発表を見守っていた。

「それにしても和巳どこ行ったんだろう?。この大事なあずさの結果発表だって言うのに・・・・・。」と美咲が言えば「SNSでさっきメッセージ送っておいたけど既読には一応なってるけど返事がないんだよ。電話も1時間前くらいから繋がるのは繋がるんだけど留守電になるし・・・・・。」と鉄郎が答えているうちにMCが「それでは会場の皆様大変長らくお待たせしました!。これより栄えある今年の渋谷学院大学のミスコンテストグランプリの発表です!。ステージ上にご注目下さい!。」と言い始め、会場は一気に緊張に包まれた。

そして会場のやや照明を落とし、ドラムロールが鳴り響く中、MCがゆっくりとした口調で「発表いたします!。今年のミスコンテストグランプリは・・・・・文学部3年、諏訪あずささんです!!!。おめでとうございます!!!。」と告げた。

「やったーー!!!。あずさグランプリだよ!!。」「あずさすごーい!!。」とその瞬間、美咲をはじめとしたチームあずさの面々はその場で立ち上がり、拍手やハイタッチをして全身で喜びの感情を表していた。

「え・・・・・わたしが・・・・・グランプリ・・・・・。」とステージ上のあずさは自分の名前が呼ばれた事で胸がいっぱいになっていた。

そして表彰式に移り、優勝したあずさにまずはトロフィー、そして賞状、更に花束が手渡される。

受け取るあずさもグランプリ受賞と云う事でうれしさを隠し切れずに表情には笑みがこぼれ、また同時にうれし涙も少し流れていた。

続けて副賞の贈呈となったのだが、さすがに伝統も人気もあるこのミスコンだけあってスポンサーや賞品そのものも多く、そのため一度ではなく、何度かに分けて目録や賞品が手渡されていた。

そしてセレモニーと云う事もあってピンクのシンプルなワンピースに白のボレロのジャケットを羽織った「清楚なお嬢様」と云った感じのちょっぴりよそ行きの服装でおめかししたプレゼンターが目録を持ってあずさに近づくとMCが「只今優勝されました諏訪あずささんに副賞の目録をお渡しくださっております方に皆さま見覚えがありませんか?。」と言う。

その言葉を聞いたステージ上のあずさや会場の美咲をはじめとしたチームあずさの面々や鉄郎は「はて、誰だろう?、わざわざ言うなんて・・・・・。」と思いながらそのプレゼンター役の「清楚なお嬢様」を見ていた。

そのうちあずさが「え、この人ってちょっと・・・・・もしかして・・・・・。」と云った表情でそのプレゼンターを見つめているとMCが「そうです!皆さま。この方は昨日行われました”もうひとつのミスコンテスト”にて優勝されました”豊岡かすみ”こと豊岡和巳さんです。それにしてもさすが”もうひとつの”の方とは言え、優勝された位だけあってほんとうにきれいでそしてかわいくてどこから見ても女の子にしか見えませんねー。」と紹介するではないか。

「えーあれって和巳、いやかすみなのー?。道理で会場に居ない訳だよねー。」と会場のチームあずさの面々がびっくりしているうちに、MCが「それでは昨日の”もうひとつのミスコンテスト”グランプリの豊岡かすみさんより副賞の目録が本日のこの渋谷学院大学本年度ミスコンテストグランプリの諏訪あずささんに授与されます!。諏訪さんどうぞお受け取り下さい!。」と言うとピンクのワンピースを着たかすみは笑顔で目録をあずさに渡したのだった。

昨日事務局から和巳が「もうひと仕事」と言われたのは実はこの事で、今日の本家ミスコンの演出として女装してのプレゼンター役をセッティングされたのだった。

そして目録を受け取ったあずさはこれまでミスコンでいろいろあった事や自分のカレシの和巳が無理やり出させた女装コンテストで優勝して今プレゼンターでこのステージに立っている事など色んな想いが胸と頭の中で交錯して大粒の涙を流していた。

「かんぱーい!。かすみ、あずさグランプリダブル受賞おめでとうー!。」

コンテストも終わり、夕方になると大学近くの美咲たちが時々通っているおしゃれな洋風居酒屋ではチームかすみ&あずさの祝勝会兼打ち上げコンパが行われていた。

和巳にとっては栄えある初代「もうひとつのミスコン」のグランプリ、そしてあずさにとっては念願のミスコン上位入賞、しかもグランプリと云う事で祝勝会兼打ち上げの席は大層盛り上がった。

また和巳は先程のプレゼンターの時の衣装のまま着替えずに「かすみ」としてこの会に参加しており、それもあって鉄郎たち何人か男子もいるものの傍から見た感じは「女子会」のようだった。

かすみとあずさが頂いた数々の副賞はチームのフォローアップがあったからこそ優勝できたと云うお互いの意向でみんなで山分けした事もあり、その副賞が結構豪華だったので、会はより盛り上がって楽しい時間を過ごせた。

打ち上げが終わり、「清楚なお嬢様」風なファッションのままのかすみとあずさは電車で家に帰っていた。

電車内ではかすみは着ているそのよそ行きのファッションは多少目立ってはいたが、相変わらずのハイレベルなパス度なのでこれが本当は男子とは誰も気づかず、そのフェミニンな衣装のおかげもあってテンションもかすみのままだった。

そして駅に着いたので電車を降り、二人はあれこれとおしゃべりをしながら歩いて家へと向かっていた。

「いやいや楽しい祝勝会兼打ち上げだったね!。だけど副賞の山分けの時はかすみもさすがに5万円の旅行券と3万円のデパート共通商品券は渡さなかったね。ま、他の副賞が豪華だったし、それに祝勝会兼打ち上げの支払いもかすみとわたしが貰った副賞のグルメギフトカードで支払ってみんなに奢ってあげる事ができたからよかったけどね!。」

とあずさは楽しそうに言う。

「ところでかすみはあの5万円の旅行券はどうするの?。かすみの事だからこれ使ってまたどっか一人で鉄道旅行とかしようと思ってるんでしょ?。どう?図星でしょ?。あははっ!。」

と言われるとかすみは「あのさ、その件なんだけど・・・・・。」となんだか恥ずかしそうにしながら言い始めた。

「ん?どしたの?。」

「いやね、もしあずささえよかったらこの5万円の旅行券使って前から乗りたかった伊豆に行くリゾートトレインでわたしと二人で一緒に旅行できたらなって・・・・・。」

へ?伊豆にリゾートトレインで旅行?。そう言われたあずさは持っていたスマホで検索するとおしゃれな外観でゴージャスな内装の特急電車が出てきたので画像を見せながらかすみに言った。

「もしかしてリゾートトレインってこれ?。わー!むっちゃ女子向きだしおしゃれだねー。いいなーこれ。で、いつ頃の予定?。それに日帰りでしょ?。」

「いや日帰りじゃなくてさ、今年のクリスマスイブはこれに乗って泊りがけであずさと旅行に行けたらいいなって・・・・・。」

そう言われるとそれまではしゃいでいたあずさだったが、「リゾートトレインに乗ってクリスマスイブにお泊り旅行」と云うかすみからの意外な提案に少し沈黙していた。

そしてその少しの沈黙の後「うん!いいよ!。一緒に伊豆行こうよ!。誘ってくれてありがとう!。」とあずさはうれしそうに言った。

「ただし、ひとつだけ条件があるの。」

「え?条件って何?。」

「それはね、和巳が女装してかすみになってくれるんなら行ってもいいよ。どう?。」

「・・・・・そんな・・・・・また女装するの・・・・・。それもずっと女装して1泊2日の旅行だなんて・・・・・。恥ずかしいしそんな長時間女装しててバレないかな・・・・・。」

「まあこの旅行券も和巳が女装してかすみとして出たコンテストの副賞で女装してかすみになってなかったら貰えなかった訳だし、第一この電車っておしゃれで女子向きだから絶対女子として乗った方が楽しいよ。大丈夫。今もこうしておしゃれしてかすみになってるけど、誰も男って思ってないでしょ。絶対バレないって。うふふ。」

そう言われてかすみの方が今度は少し沈黙していた。自分なりにあずさにも喜んでもらえる旅行券の使い方を考えているうちに浮かんだこのプランだったが、まさかもう1回女装して、しかもお泊りで旅行だなんて・・・・・。

でもせっかく誘った以上はあずさと一緒に旅行に行きたいし、大学生のたかが知れてる小遣いでは通常は乗る事など無いこのおしゃれでゴージャスなリゾートトレインにも鉄道ファンとしても是非この機会に乗りたい。

「どう?かすみ?。メイクはわたしが2日ともしてあげるから心配しなさんな。衣装もいっしょに買いに行って選んであげるから。ねっ、そうしよう。いいでしょ。」

沈黙しているうちにあずさにそう言われ、かすみは「うん・・・・・あずさがメイクしてくれてかすみになるの手伝ってくれるんだったらそうする・・・・・。」と大変恥ずかしそうに言いながらOKした。

こうしてまたまたかすみになる事になった和巳。でもなんだか楽しそうなクリスマスになる事だけは実感していた。

(この項おわり)





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