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オフィスの存在価値は?という話

コロナウィルス騒ぎによる自宅勤務急増を受けて、「オフィス勤務は本当に必要なのか?」というツイートをしている人がいた。それも、結構アカデミックにオフィス環境を考えている人が。

オフィスの必要性に疑問を投げる人

今や、オンラインコミュニケーションは、現代の知的労働者の基本だ。子供の頃から、親、友人、恋人などとLINEで会話するのは当たり前だった。会社でも普通に使っている。隣の席の同僚とだって、チャットで非同期にメッセージ伝えるのは便利だし効率的だ。最近は遠隔地の人ともビデオ会議で色々話すことが当たり前だ。重要なことならメールを使う。これだったら、自宅で仕事してたって全然変わらないじゃないか。毎日満員電車で1時間かけて通勤する必要なんかないんじゃないか。

オフィスのコミュニケーション(単純な例)

A「Bさん、例のXの件で部長に見せる資料できた?」
B「あ、できてまーす」
A「じゃ、3時からの打ち合わせで部長に説明しよう。事前に私に一通り説明してくれる?」
B「わかりました、ちょっとメール出さなきゃいけないんで、11時からでいいですか」
A「了解」

一般的なオフィスコミュニケーションが想定しているのは、上の例みたいなやつだ。これくらい単純だったら、たしかにチャットベースのコミュニケーションツールでもできなくはない。10秒で終わる会話が30秒くらいはかかるかもしれないけど。だが、その程度の時間の差なら、あまり問題じゃない。しかし‥

オフィス会話4

オフィスのコミュニケーション(ごく普通の例)

A「Bさん、例のXの件で部長に見せる資料できた?」
B「あ、できてまーす」
A「じゃ、3時からの打ち合わせで部長に説明しよう。事前に私に一通り説明してくれる?」
C「3時からの打ち合わせの話?私も出るんだ。どれちょい見せて。」
B「あ、いいっすよー。これですけど。」
C「あー、すげーいいね。私の話もこれに乗っからせてもらっていい?Aさん、私の報告はこの後でいいっすよね?」
A「うん、まあいいんじゃない?」
D「えーと、今、Xの件って聞こえたけど…?それYの話は絡めないように気をつけてね」
B「えー、なぜですかー?」
D「いや、さっきYの担当と電話してたんだけどさ、Zのせいで、その話、無しになりそうなんだって。」
B「げー、マジすかー。だったらすぐ資料から消しときます。Yに代わる候補をを探しとかないと。3時までに見積りは間に合わないかなー。事前レビューは1時からでいいですか?」
A「1時で了解。あ、昼食のときに社食で部長見つけたら、その件軽く会話しとくよ」
C「手伝わなくても大丈夫?私は1時でオッケーだけど。」
B「Aさん、お願いします!Cさんありがとね!何とかなるよ。」

Cさんは、「3時からの打ち合わせ」に反応し、自分も関係する話なので、鼻を突っ込んでいる。Bさんは手に持ってる資料をCさんに渡してみせる。Cさんはざっと見てBさんにポジティブなフィードバックをし、会議の進め方をAさんに提案して承認される。さらに、Dさんが「Xの件」という言葉に反応して、Bさんへのアドバイスをしている。ここではDさん独自の情報をその場の全員に提供している。

オフィス会話6

この程度の会話なら、1分程度で成立するだろう。しかしこのたった1分間のコミュニケーションが存在するかしないかで、この日のBさんやAさんやCさんや部長の業務効率は大きく違うことになる。

最新の状況の共有、理由の説明、緊急度、感情的な要因などは、誤解のないように適切に文字にするのが難しい。少なくとも面倒だ。同じ場所にいれば、他人の電話の声、休憩時のぼやき、オフィス内の歩き方、仲間同士の会話などが耳や目に飛び込んできて、表情、声色、会話している人の話の弾み方や間の取られ方、鼻を突っ込んでも歓迎されそうなのかその逆なのか、などを感じ取ることができる。

カクテルパーティ効果

人間の知覚(特に聴覚)には、カクテルパーティ効果と呼ばれる優れた能力がある。周囲が騒がしい立食パーティの中でも、普通に会話できることなどで典型的に表れる現象で、オーケストラの中でソリストの楽器の音が大きく聴こえるのもこの効果で説明される。自分が興味を持つ対象の情報を脳が選択的に取り扱うこと、興味のないものは雑音として捨て去っていることがこの能力によるとされている。

オフィス会話2

先のオフィスのコミュニケーションの例では、CさんやDさんが、自分の業務や知識に関係しているキーワードに反応して会話に参加してくることができているのも、カクテルパーティ効果があったからこそと言える。

オフィスの価値とは

我々は、まだまだこのような場の共有をすべてデジタル化できていないんだ。確かに、毎日会社に行ったり帰ったりするために2時間もかけるのは苦痛なんだけど、残念ながら上に書いたようなオフィス空間の価値を、全てネットワークによるコミュニケーションで代替できてはいない。そのことは忘れない方がいい。

誰か、はやく現実のオフィスに匹敵するコミュニケーションが可能なアプリを作ってくれ!

このページのイラストは、「ビジネス素材 by Runland」というフリー素材提供サイトのものを使わせていただいています。


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