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森へつなぐ、森と生きる


富士山麓のエリアを車で走っていると、薪置場があるお家をよく見かける。森の近くで暮らす人にとって、薪は一昔前の燃料ではなく、身近なものだ。
私達にとっても薪割りは日常的な営みだ。火起こしはホールアースのスタッフにとって必須スキルになっている。

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 ホールアースの事業や活動は、森なしでは語れない。富士山本校がある柚野も森に近く、猪之頭地区では間伐体験のプログラムや植生調査を行い、青木ヶ原樹海では洞窟探検などのツアーを行っている。本校の敷地内ではあらゆるところで、自分たちで森から切り出したスギやヒノキなどの間伐材を使用している。参加者がよく集まる広いデッキも、間伐材を使用している。自然の素材はどうしても朽ちていくけれど、その都度自分たちで修理したり作り直したりしている。その分、木に触れる時間は長くなる。自ずと木の扱いにも慣れてくる。

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 本校から40分ほど車を走らせると、青木ヶ原樹海に到着する。プログラムでは、数百年生きる巨木や溶岩の上に力強く根を張る木々を目の前に、子どもたちに森のでき方について話す。目をつぶって耳を澄ませてみたり、動物の痕跡を見つけたり、様々なアクティビティを通して五感を使って森を楽しんでもらう。また富士山2合目の森では、天然林と人工林を見比べて、その違いと森の抱える課題についても話したりすることもある。ただ純粋に「森ってワクワクするところだな」「森は居心地がいいな」と感じてもらいながら、人と森との距離を近づけることも大切だけれど、私達の活動の根底には「環境教育」がある。楽しいだけのツアーではなく、教育と呼ぶからには、実践者として汗をかいていなければ伝えるものも薄っぺらくなってしまうと考えている。

 だから普段から、スタッフと森との関わり方は大切だ。森は時に仕事場であり、時に遊び場でもあり、時に暮らしの一部になっている。チェーンソーを持って人工林に入り、木を切り倒すこともある。出勤前、狩猟のため仕掛けた罠の見回りに森へ入ることもある。頻繁に森へ通っていると、些細な“森の変化”にも気づくことができる。そうやって、獣害の問題は富士山麓でも深刻であることを目の当たりにした。早朝、森に植生調査に行くと珍しい植物を見つけることもあるが、不法に採られないようにするため、誰にも知られないように観察を続ける。休日、木々の間にハンモックを吊るせばそれだけで癒やしの空間ができあがる。山の斜面を駆け抜ける疾走感も、森の真ん中で寝転がって、風が木々の間を吹き抜けるその音の心地よさも、全て体が覚えている。

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 森との関わりが深くなっていけばいくほど、そこにある課題も目につくようになっていく。森と人の共生のためには、そこから目をそらすわけにはいかない。例えば獣害であったり、人工林の荒廃であったり。私達はそこに対して、狩猟や解体施設の運営、一般の人を森へ案内し間伐を体験できるプログラムの企画といった、何らかのアクションを起こしているけれど、私達だけでは解決は難しい。そこで、様々な専門家とも協力しながら事業を進めていく。

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 ある林業家の方が仰るには、昔より日常的に森に入る人が減ってしまったという。確かに、猟師や林業家の方々は高齢化や後継者不足等で減少の一途を辿っている。人がほどよく森へ入ることで保たれていた生態系のバランスは崩れてきて、そのしわ寄せは野生動物だけではなく人間にも及んできている。かといって猟師や林業家を増やすことが簡単ではないことも重々承知している。だからこそ、官民分野を超えて連携していくことが重要だと考えている。私達は“ハブ”となって、ある時は行政と、ある時は企業と、様々な団体を繋ぎコーディネートし、森と共生していく方法を模索し続けている。
例えばその一つとして、森を舞台に企業の新人研修を企画したこともあった。共に間伐の体験をしながら協力し合うことで、森の抱える課題を知るだけではなく、社員同士の交流も深まるという効果も生み出せた。

 数年前からは静岡県の事業である「森の力再生事業」にも携わっている。その一環として今年は竹林整備をすることになった。竹林は適切に維持管理されないと、雑木林を侵食してしまう。様々な樹種が混じり合う雑木林と違い、竹だけになってしまった場所は根が地下深くまで張らないため、土砂崩れを起こしやすくなる。一見緑豊かな森に見えても、質の観点から言うと問題を抱えている場所が多くある。

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 日本は森林の面積が国土の68%と、世界的にもトップクラスだ。しかし、手を加えられなくなった森が増え続けると、どうなるのか。大雨や台風、長雨といった異常気象が増えている昨今、自分には関係のない問題だと言えなくなってきている。


 一方で、ポジティブな変化もある。というのもここ数年、時代の変化とともに森と人の関係性も多様化しているのだ。以前はCSR(企業の社会的責任)活動の一環として行われていた企業の森づくりの活動も、近年ではCSV(Creating Shared Value :共有価値の創造)という新たな概念のもと、事業活動を通じて社会的な課題を解決していく企業も増えているという。個人の趣味としての登山やトレッキング、キャンプの人気も根強く、新たな生活様式を求められる時代において、そこに着目する人も増えている。


 森との接点を増やし、森との距離を縮めることは、よりよい暮らしへ向かう為のヒントとなるはずだ。私達は手を動かし、汗を流し、自然と対峙しながら、また新たなプロジェクトへと昇華していく。

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