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PERSON vol.4 "松尾章史"

 帰宅後は早々と部屋に籠って、ペン片手にノートと向き合う時間。

 壁には日々の気付きや大切にしたい言葉が書かれたポストイットがびっしり。

 入社当初に寮で生活を共にした私が思い浮かべる、松尾の日常です。優しそうな外見、人当たりの良さとは裏腹に、ストイックで、真面目で、論文を書くように頭の中を細かく整理する、ちょっと大袈裟にいうと研究者のようなイメージ。

 入社4年目、真面目さの裏に隠れた松尾の素顔を見つけるべく、これまでと今とこれからについて聞いてみました。

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どこに熱を持てばいいか、見出だせなかった

 千葉県出身、早稲田大学社会科学部を卒業し、神戸で損害保険会社の営業を経験。”ザ・サラリーマン”なキャリアを辿った20代前半。

 「損害保険の営業を選んだ深い理由は、なかったかな。周りに影響されて、いわゆる安定した企業を選んだ。よくいる大学生、って感じだよね」

 それでも、働く中で何か見つかるかもしれないと考えながら日常を過ごしたといいます。だけど、だんだん自分が何にもドライブされていないことに気付き、仕事のどこに熱を持てばいいかを見出だせなかったという神戸での日々。

 「シンプルに日常の中で自分が納得できる時間を増やしたかった」

 松尾は当時を振り返ります。

 そんなモヤモヤをぶつける先は、一冊のノート。自分は何に不満を持っていて、何がしたくて、どうありたいのか。帰宅後はひたすらノートに書き込んでは考え、考えは書き込む日々を繰り返したとのこと。

 そんなタイミングで松尾は、「インタープリター」という言葉に出会います。ホールアースのスタッフがまさにそれにあたる「自らの感性を媒介して、自然のメッセージを誰かに伝える」という仕事です。幼少期から自然が好きで、会社ではなかなか経験できなかった個人との直接的な関わりを求めていた松尾に、一筋の光が差し込みました。

ホールアースとの出会い

 突破口が見えてからの動きは早かった、と松尾は言います。

 まずは勉強しなければと考え、都内の環境教育系専門学校へ入学。2年間、フィールドでの実習や、部屋に缶詰状態での研究を通して、仲間とともに自然の世界に没頭することの楽しみを知ったとのこと。ときには一日中生き物の名前をひたすら覚えたり、足元の植物の生態を調べ尽くしたりしたそう。

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 自分の「好き」に忠実に突っ走った社会人学生時代。そんな中、とある雑誌でホールアーススタッフがインタビューを受けている記事を読み、「インタープリター」という言葉に再び、「ホールアース」という組織に初めて、出会います。そして、専門学校在学中に参加した、ホールアースが運営する「田貫湖ふれあい自然塾」というビジターセンターのインターンシップでの体験が、今の自分を形成する大きなキッカケになったと、松尾は話します。 

四季6月 2日目  (114)

 「インターンシップの中で、自分なりに自然体験プログラムを考えて、実践するっていう機会を与えてもらったんだけど。企画するにあたって、プログラムの最終的なゴールを決めましょう、っていう話になったんだよね。僕は『自然の魅力を体験者に伝えることが最終的なゴールです』って伝えたら、『それじゃあ浅いよ』って一蹴されて。『ゴールは、伝えることじゃなくて、プログラムを体験した人の意識が変わったり、日常的な行動に変容が生じることでしょ』って。『あぁ、インタープリターって社会を変えていく仕事なんだな』って、改めて気付いたのを今でも覚えてる」

 自然の魅力を伝えるだけでなく、その先にある人々の意識や社会に変革を与えること。遠く、大きなゴールを掲げるインタープリターという仕事に魅力を感じた松尾は、その後も何度かホールアースを訪れ、専門学校卒業後に、スタッフとしてホールアースへ入社することとなりました。

思いにままに、ワクワクと

 入社の経緯を振り返っても、やはり真面目でストイックな松尾の歩み。持ち前のその気質を武器に、ホールアースでも基幹事業をコツコツと積み上げるように経験する中で、組織の根幹を支えるスキルを身に着けてきました。現在は、自然ガイドを主軸に、木こりや森林調査、人材育成事業、国際事業、企業との連携など、幅広い業務を担っています。そんな松尾は来年でホールアース5年目のスタッフとなりますが、働く様子をそばで見ていると、なんだか最近仕事への取り組み方が変わってきたように思えます。

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 例えば、昨年ふと始めた「森のアロマ」プロジェクト。富士山麓では、かつて大量に植林された人工林に整備の手がいき渡らず、動物や植物が命をつなぐことのできない暗い森が多く存在してしまっている、人工林問題が深刻です。

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 森林の材が活用されることで、木が伐採され、整備が進む、というサイクルをいかに生み出すかが課題とされる中、上司からの、「ちょっとアロマつくってみてよ」の一言に、松尾はフットワーク軽く動き出しました。

 アロマづくりの経験を持つスタッフにやり方を聞いてみて、倉庫の奥底から蒸留器を引っ張り出して使ってみたり。ホールアースで管理している森の間伐材をアルコールに浸けて、匂いを嗅いでみたり。そこから、ヒノキを使ったアロマづくりのイベント企画や、クロモジの蒸留液を使った飲料の試作にも手を出していきました。「お、悪くないかも」という自己満足の実験、好奇心が徐々に形を変え、誰かの喜びへと繋がっていったのです。

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 アロマによる森林活用にとどまらず、里山で問題となっている放置竹林の竹を使ったシナチクの発酵試作や、鹿革×テクノロジーがテーマのイベント企画など、自分の心が赴くままに走り出し、プログラムという形で自分のワクワクを一つずつ形にしていきました。

 真面目でストイック、から、思うままにワクワクと、に変わり始めた松尾はこう話します。

20180428-0430 古民家里山キャンプ (373)

 「『インタープリターとして、自然を切り口に社会を変えたい!』っていう考えにメラメラ火がついたこともあって、ホールアースに入るときには『自分は社会のために何をすべきで、どうあるべきか』みたいなことをひたすら考えてたね。それはそれで楽しかったけど、あんまり上手くいかないことが多くて」

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 社会の課題や問題は常に変わり、自分を取り巻く状況や心境も変わり続けます。そんな中で、ひたむきに問題を追いかけることも一つのやり方だけど、少し考え方を変えてみることにした、松尾は話します。

 「課題ベースでものごとを進めると、単純に心がすごく疲れるんだよね。課題解決にとらわれて、自分のワクワクがだんだん見えなくなっていくことが多くて。そんな自分に気付きながらも、走り続けちゃう、みたいな」

「最近は、課題とか社会性だけじゃなくて、自己実現とのバランスも大事にするようにしてる。ワクワクベースで、自分の中の熱を大切にして、その先に課題解決がある、っていう形が理想だよね」

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 社会性だけでなく、自己実現も。だけど、クライアントから依頼のある受託事業や、組織として担う必要のある仕事もある中で、自分がやりたいことだけに時間をかけられるわけでもないはず。

 「全部が全部、最初から全身でワクワクするわけじゃないけど、楽しみがわからなくても、まずは精一杯やってみる。自己実現というより、相手への贈り物のような感覚で、精一杯やる。贈り物を続けていたら、だんだんそれが自分事になってきて。最初から楽しいというよりは、楽しみを見出していくことが楽しいんだよね」

あのときワクワクしたなと言えるようになりたい

 熱量のベクトルが社会だけでなく、自分の内側へと向き始めたホールアース4年目の冬。5年目、またその後、どうなっていきたいか、どうありたいかを聞いてみました。

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 「語弊があるかもしんないけど、今は5年後とか10年後のプランは正直あんまりないかな。自分が持っている事業とかプロジェクトに対して、5年後10年後こういう状態にしたいなあとか、こういう結果になってほしいなあっていうのはあるけれど。自分がこうなりたいっていうのは、あんまりないな」

 「ワクワクしながらたくさん動いて、その中で有機的に変化していって、振り返ってみたら、『あぁ、いい10年だったな。あのときワクワクしたな』って言えるようになりたいかな」

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 松尾と仕事の話をしていると、「あ、この人ワクワクしてるな」と感じることがよくあります。普段は聞き役に回ることの多い松尾が少し早口になって、「やろうやろう」の回数が増えるとき。こっちまでワクワクさせられる、楽しい時間です。そんなときにこちらが意見を差し出すと、「確かにそうだね」とか、「そっちのほうが楽しそうだね」とか、素直にワクワクする方へ流し流されるのが松尾の面白いところだなあと思います。

 自分の中の熱量には忠実だけど、こだわりは持ちすぎず、ときどき変わりながら、面白がりながら、でも常に前に進む姿勢。近くにいると、「負けずにワクワクしないとな」と、なんだかふざけた闘争心を掻き立てられます。

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