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気軽に話せる医者、近くにいますか?

こんにちは。今日は当直明けですが、変わらず救急外来で患者さんを見ています。仕事が始まって約2週間たち、早速仕事の疲れで運ばれてくる方が沢山います。無理はせず2019年も頑張りましょう(医者も当直明けは休みたい笑)!

さて突然ですが、気軽に相談できる医者って身近にいますか?

両親・兄弟・友人など周りに気軽に話せる医者がいる方は、何か会った時すぐに相談すると思います。僕も医者になって、友達や親戚に相談されることが圧倒的に増えました。

しかし病院で働いていると、なぜこんなに病状が進むまで誰にも相談しなかったんだろうか?と不思議に思う患者さんが山ほどいます。なんとなく違和感や異変を感じていても、自分は健康に違いないと思い放置してしまうようです。病院は混んでるし、雰囲気も良くないし、できれば行きたくないですからね。仕事も忙しくて時間がない中、受診を後回しにしてしまう気持ちは分かります。

そんな時、病院に行かなくても気軽に相談できる医者がいると安心ですよね。今回はその重要性を知ってもらうため、二人の患者さんの話をしようと思います。

一人目は60歳代の男性Aさん。現役の経営者をしており、バリバリ働いて週2でゴルフにも行くという健康な生活を送っていました。ある日、咳き込んだ際、痰にほんのわずか血液が混ざりました(血痰)。しかし過去にも同じようなことがあり、何もしなくても止まったため問題ないと思い見て見ぬふりをしていました。その後もたまに軽く咳き込むことはありましたが、熱もなく風邪だと思いやはり放置していました。半年後、人間ドックで腫瘍マーカー(CEA)の上昇を認め、精査の結果、進行肺がんと診断されました。手術適応がなく化学療法による治療を行いましたが、薬による副作用により入院期間が長引き、全身の筋力も低下して行きました。2年後、病状の進行および呼吸筋低下による呼吸不全でお亡くなりになりました。

二人目は50歳代の男性Bさん。大手企業で執行役員を務めるエリートです。ある年の健康診断の尿検査で、潜血(2+)により要受診となっていましたが、見た目でおしっこが赤いこともなく、症状もないため放置していました。ある日、休日のヨガで友人の医者と話す機会があり、ふと思い出して尿潜血のことを相談しました。するとタバコを吸っていることや年齢を考慮して病院受診を推奨されました。「まずは痛い検査(膀胱鏡)でなく、尿の中の細胞を調べる検査(尿細胞診)をやればいいから心配いらないよ」というアドバイスに安心して仕事を早退して病院を受診。結果尿細胞診陽性であり、精査の結果初期の膀胱癌と診断されました。TUR-Btというお腹を開けなくてよい手術を受け、今も元気に仕事に励んでいます。

さて、この二人の患者さんの命運を分けたのは何でしょうか?二人とも健康に自信のあるエリートであり、喫煙者であり、自覚症状がはっきりとはなかったという共通点があります。二人とも社会をよくするために必死で働いているビジネスマンでした。

その中でBさんだけが早いうちに病院を受診できたのは、やはり気軽に相談でいる医師の存在が大きかったのではないかと思います。

全く同じ症状や検査結果であっても、それぞれの生活習慣や今までにかかった病気、家族のご病気、飲んでいるお薬などの情報によって考えられる病気は全く異なります。人の身体は思っている以上に複雑です(医者でも分かっていない部分が山ほどありますから)。

ちょっとした症状や検査異常は無視されてしまいがちですが、重大な病気の前触れであることも少なくありません。ほとんどの病気・症状は外から見ても分かりませんし、今の一般的な環境では郵送で送られてくる健診結果も本人しか知りません。

せっかく人体と病気について学ぶ専門家である「医師」という職業があるので、気兼ねなくどんどん相談するということが大切で、これが防げる死を減らすことに繋がると考えています。

「何か変だな?」と思った時、気軽にストレスなく相談できる医師がいることは確実に寿命を延ばすのではないかと思っています。ほとんどの病気は、1日でも早く見つけ、治療することが予後を改善します。

最近多くの企業が「医療相談」「健康相談」といったサービスを作っています。テクノロジーの力を使い、電話やチャットで「物理的に」簡単に相談する体制は徐々に整ってきていると思います。

しかし一方で、「毎回相談する相手も違うし、知らない人には医者であってもなんか相談しにくい」という声をよく聞きます。実際僕自身も、軽い症状なら様子を見るし、我慢できなくなったら病院に行くし、その狭間の状態において見知らぬ医者に相談するというのはやはりハードルが高いように感じます。つまり、「心理的に」気軽に相談しやすい体制はまだ整っていないように思うんですね。

人間も動物ですから、どんなに物理的なアクセスがよくなったところで実際に利用するかは心理面・感情面の影響が大きいものです。一人でも多くの人が防げる病で苦しむことがなくなるよう、限られた医療資源の中で無理ない形で、気軽に相談できる医者をみんなが持てる社会を作っていきたいですね。




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