メモ:コンパクトシティとは

専門外なのですが、先日コンパクトシティについての話をして全然知識がないことを痛感したので、簡易にまとめます。

1.コンパクトシティとは

そもそもコンパクトシティとは、都市的土地利用の郊外への拡大を抑制すると同時に中心市街地の活性化が図られた、生活に必要な諸機能が近接した効率的で持続可能な都市、もしくはそれを目指した都市政策を指す。

都市計画分野の研究者たちは以下のように定義している。

谷口守は、「都市活動(居住・業務他)の密度が高く、効率的な空間利用がなされた、自動車に依存しない交通環境負荷の小さい都市」としている。

海道清信はコンパクトシティがもつ空間的要素まで踏み込み、以下の5つの要素を挙げる。
①密度が高い
②都市全体の中心から日常生活をまかなう近隣中心まで、段階的にシティセンターを配置する
③市街地を無秩序に拡散さない
④自動車を使わなくても日常生活が充足でき、身近な緑地を利用できる
⑤都市圏はコンパクトな都市郡を公共交通ネットワークでむすぶ

鈴木浩はコンパクトなまちづくりの展開として以下の7つを挙げる
①車社会を前提とした都市のあり方からの軌道修正
②都市的な土地利用として空洞化を抑える
③中心市街地における商業業務機能や公共公益機能の適切な配置と既成市街地における居住空間の集積誘導により賑わいと歩いて生活できる市街地のエリアを広げる
④周辺の農業的土地利用との共存・共生の確立
⑤コミュニティにおける安全・安心の居住、生活環境の形成
⑥資源問題・環境問題に適切に対応したサスティナブルな都市形態とマネジメント
⑦自然や環境に対する敵対的な都市の姿や施策を根本的に修正

すなはち、コンパクトシティは生活機能の都市への集中だけでなく、それに伴う交通機関の変化、周辺地域の活用、環境問題への取り組みなどのも含まれていると考えられる。

2.コンパクトシティの背景

コンパクトシティが提唱された背景は、国際的に様々である。

国際的に、コンパクトシティの原点は1972年のEU諸国の都市政策と環境問題対策といわれている。

日本においてコンパクトシティが提唱され始めたのは1990年代。それまでの日本の都市は高度成長期を経て拡大を続け、政策的にも郊外の住宅地開発が進められてきた。しかし、大規模小売店舗法の改正などもあり1990年代より中心市街地の空洞化現象(ドーナツ化現象)と郊外化が各地で顕著に見られるようになった。

郊外化の問題点は、既存の市街地の衰退以外にも以下のようなものがある。
①自動車中心の社会は移動手段のない高齢者など「交通弱者」にとって不便
②無秩序な郊外開発による持続可能性、自然保護、環境保護などの観点からの問題
③際限のない郊外化、市街の希薄化による道路、上下水道などの公共投資の効率の悪化と膨大な維持コストが発生するなどの財政負担

つまり、人口増加に伴い都市から郊外への拡大がおこったが、人口減少が進行する社会では郊外から都市への収縮が必要なのではないか、と考えられている。

また、国土交通省も、コンパクトシティを目指すべく政策転換を進めている。1998年にまちづくり3法(改正都市計画法、大規模小売店舗立地法、中心市街地活性化法)が制定したが、十分に機能せず、中心市街地の衰退に歯止めがかかっていないとの問題認識がった。

そこで見直しが行われ、そのうち都市計画法、中心市街地活性化法が改正され2006年に施行された。ただ、この改正については福島県などで問題になった、郊外への大型量販店やショッピングセンターの立地抑制に狙いがあるのではないかとの批判がある。

3.コンパクトシティのメリット

コンパクトシティについてはどのような議論がなされているのか。

まず、国土交通省は以下のようなメリットを挙げている。
①持続可能な都市経営
・公共投資、行政サービスの効率化
・公共施設の維持管理の合理化
・住宅、宅地の資産価値の維持
・ビジネス環境の維持・向上、知恵の創出
・健康増進による社会保障費の抑制
②高齢者の生活環境、子育て環境のため
・子育て、教育、医療、福祉の利用環境向上
・高齢者・女性の社会参画
・高齢者の健康増進
・仕事と生活のバランス改善
・コミュニティ力の維持
③地球環境、自然環境のため
・CO2排出削減
・エネルギーの効率的な利用
・緑地、農地の保全
④防災のため
・災害危険性の低い地域の重点利用
・集住による迅速、効率的な避難

これらは行政視点でのメリットが目立ち、市民が実感しにくい印象を受けるが、市民にもわかりやすいメリットとしては以下のうようなものがある。
・生活機能へのアクセスが容易に
・地方税増収に伴う住民サービスの拡充
・コミュニティ形成

4.コンパクトシティの問題点

約20年前から提唱されたコンパクトシティは東北、北陸地域を中心に成功例があるものの、まだ普及しているとはいえない。そこには以下のような問題点や課題がある。

①既に拡大した郊外をどう捉えるのか
1990年代以前に拡大した郊外には当然ながら今でも生活する人がいる。郊外の環境の良い、ゆとりのある住宅を好む住民も多いため、必ずしも住民の支持を得られていないケースも多い。また、平成の大合併で広大な自治体が次々と誕生した中で、コンパクトシティ化は郊外や旧自治体の中心街を切り捨てることに繋がる可能性もある。

②郊外の発展を抑えれば中心市街地が再生するのか
コンパクトシティの目的は都市機能の集中とそれに伴う経済・生活・環境問題の改善であり、市街地拡大の抑制ではない。そして、市街地拡大の抑制と中心市街地の再生はもちろん同義ではない。このことから市街地拡大の抑制に腐心することの危険性は十分に注意しなくてはならない。例えば、郊外化を抑制する目的で郊外へのショッピングセンター立地を抑制するのは、中心地の既存商店街の活性化策ではない、ということである。

③都市計画の有効性への疑念
そもそも都市計画が有効に機能するのかという疑問もある。従来も都市計画が真に有効に機能していれば防げたことは多いのではないかという意見である。都市計画が有効でなければ、計画に沿った施策も意味をなさない。都市計画が国民、住民の希望・考えを無視した官僚・学者主導のものだったため、これまでの都市計画が失敗したのではないかという意見もある。

④交通機関の転換の難しさ
コンパクトシティでは自動車から公共交通機関や自転車への交通機関の転換を目指す。現在でも、自動車への依存は駐車場スペースや道路幅が狭い傾向にある中心市街地には不利に働く。一方で、郊外では既に鉄道やバスによる公共交通網が衰退し、自動車による移動以外に適当な手段がない場合も多い。たとえ公共交通網に投資をしたところで、自動車による移動に慣れた郊外の住民が十分に公共交通機関の利用に向かうのかという不安はある。

⑤居住環境や居住地域の制限
コンパクトシティにおいては、居住地域と環境保全地域が区分された場合、それは住民の居住地域の制限につながる。郊外に住む人が住む土地を環境保全地域に指定された場合、その移住を強制することはできないはずであるが、その住人に対して風当たりが強まる可能性は高い。また、居住地域に人々が集中て住むことは住環境の悪化にもつながる。プライバシーの侵害、騒音、高層ビル等による日照妨害などが考えられ、郊外から中心地に移住する人は慣れない環境での生活を強いられる可能性が考えられる。

5.高齢化社会の観点では

最期に、高齢化社会の観点でコンパクトシティを考えてみる。

高齢化社会におけるコンパクトシティのメリットは、高齢化、その家族、自治体それぞれにある。たとえば、高齢者は商業地域や生活機能へのアクセスが容易になるし、家族も高齢になった親が近くに住んでいればいざというときに安心である。また、地域包括ケアシステムを推進する行政にとっても介護や医療などの機能を近接させ、より密接な連携を可能にできるため、これまで以上に高齢者のケアという観点では充実するだろう。

一方で、高齢者が中心地に集中することで、すでに足りない介護施設や医療施設がさらに不足する可能性が考えられる。また、高齢者にとっては長年の生活環境や生活スタイルが変化することには抵抗が大きいと考えられるし、これまで築いたコミュニティが壊れてしまう可能性も高い。さらに、商業地域や生活機能へのアクセスの問題も、テクノロジーの発展により解決される可能性が高い。すなはち、近くに商業施設がなくても買い物ができるのであれば、商業施設がある地域に移住するメリットはないのである。

このように、高齢者支援の効率という観点ではコンパクトシティは有効だが、高齢者の視点にたつとコンパクトシティの促進は必ずしも受け入れやすいものではない場合もあり、生活環境が良くなるともいえないだろう。


参考

国土交通省 東北地方整備局資料
国土交通省資料
大木健一,2005『コンパクトシティをどう考えるか』
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