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“既存のバックオフィスの価値観を変えたい” WELgee事務局長、渡辺早希のパッションに迫る

社会課題に関わる人たちの境遇を変えるために、今年4月に就任した若き事務局長、渡辺早希(わたなべさき)。彼女がなぜWELgeeに入社し、何を目指すのか?その原点に迫る。

2020年4月、WELgeeに「事務局長」が誕生した。

しかし、彼女の役職は「事務局長」ではなく「リソースデパートメントマネージャー(Resource Department Manager)」だ。

既存の”バックオフィス”の価値観を変えたい
 
NPO・非営利セクター全体の底上げを目指す彼女の原点には、ヨルダン、そして韓国済州島(チェジュ島)での、心震わせる出会いがあった。(執筆 : 林 将平)

「もう”バックオフィス”とは呼ばせない」非営利セクター初の”リソースデパートメント”の取り組みとは?

渡辺早希、23歳。

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2020年3月に大学を卒業し、社会人として新たな道を歩みだした一人だ。
だが、彼女が就任したのは、新卒ポジションや、正社員採用をオープンにしている組織ではなく、まだまだ名も無い非営利組織、WELgeeだった。

 彼女は「リソースデパートメント(Resource Department、以下RD)」の統括として採用された。通常の非営利セクターでは「事務局」と呼ばれる役職である。両者の違いとは何か?

「私の役割は、組織全体のマネジメントを行うという意味では事務局長と同じです。しかし、”バックオフィス”としてオフィスの中でペーパーワークをするのではなく、組織全体のリソースの調達や配分をマネジメントする、いわば”攻めの”バックオフィスです。」

RDとは、事業や組織活動の基盤となるようなヒト・モノ・カネ・リレーションズ(外部のステークホルダーとの関係性)をマネージし、組織活動の最大化を測るための部署である。

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▲リソースデパートメントは、組織活動を最大化するため、組織の様々なリソースを獲得・配分する機能を持つ

非営利セクターにて、これまでにない部署を担うことになった彼女は、その挑戦にワクワクしている。

「任意団体時代から4年目のベンチャーであるWELgeeでは、様々な制度を整える必要があります。既存の人事制度・労務管理にしても、世の中に型はありますが、私たちらしい評価を、ゼロから考えることができます。通常のバックオフィスでは、型がある業務をこなすのですが、RDはゼロからイチを作ることが多いです。

そんな渡辺は、どのような経緯でWELgeeと出会ったのか?
その出会いを紐解くには、彼女が初めて渡航した、「ヨルダン」について語る必要がある。

初海外はヨルダンの”ザータリ難民キャンプ” 「難民」ではなく「友」として結ばれた絆

渡辺が難民と関わるきっかけは、大学一年生にさかのぼる。

「大学時代、たまたま学生が主体となって授業をつくる取り組みの、実行委員に誘われました。そのトピックが難民だったのですが、これまで私は、”難民”というトピックに関わったことがありませんでした 。」

授業を企画する側として、難民についてのリサーチをしていた渡辺。
そこで、たまたまヨルダンへの留学を控えていた先輩に出会ったという。

「難民について知りたいの?だったら、ヨルダンのザータリ難民キャンプに行かない?」

その言葉に突き動かされた渡辺は、声をかけられた当日に、航空券を予約。
これが、彼女の初めての海外渡航となる。


初海外で、難民キャンプ。
本当に衝撃的な体験だったという。


「もともと私は”難民”というカテゴリーを知るために、ヨルダンへ行きました。しかし、”難民”と呼ばれる彼らと出会ってみると、人としての面白さや、強さを感じました。」

彼女はヨルダン滞在中、この渡航のきっかけをくれた先輩の友人宅に滞在していた。そこでの出会いもまた、彼女にとって衝撃的なものであったという。

「私を泊めてくれた彼らも ”難民キャンプ” では暮らしていないけれど、祖国の情勢悪化で帰国出来ない、イエメン人の留学生でした。」

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▲ヨルダンにて、ヒジャブを被り、話を聞く渡辺。

「彼らの多くは、親や友人が殺されてしまったなど、苦しい経験を抱えていることもあるのですが、それでも自分たちが作りたい未来を語ってくれました。そこで初めて、”難民”という枠ではなく、人として、もう他人事ではなくなった感じがしました。」

大学1年生の夏に経験した、ヨルダンでの難民との出会いと衝撃は、その後の渡辺の将来にも、大きな影響を及ぼすこととなる。

「なぜ韓国に大量のイエメン難民が?」済州(チェジュ)島へ駆けつけて見つけた、絶望を癒やすコミュニティの力

その後、様々な国際協力の分野で活動を重ねていた渡辺。

タイやスリランカでのスタディーツアーや、エチオピアでの開発コンサルティング会社でのインターンなどにも参加していた彼女だが、もう一度「難民」により戻す出来事が訪れた

2018年7月、韓国のチェジュ島に、大量のイエメン人難民が押し寄せた。

同年には、内戦が続くイエメンからチェジュ島へと逃れ、実に552人もが、亡命を希望して難民申請をした。済州島は観光客誘致をするために、大部分の国からの訪問者に対し、ビザなしでの入国を許可しており、イエメンもそのビザ免除の国の一つだった。

"済州島に押し寄せるイエメン難民"ニュースの報道を見て、渡辺は思った。


まさか、あのヨルダンで出会った、イエメン人たちかもしれない。なぜ、彼らが、遠く離れたのチェジュに来ているのだろうか?」


現地の状況を自分の目で確かめたいと強く思った渡辺は、すぐに航空券を取り、チェジュ島へと向かった。

滞在は4泊5日。

その間は、ひたすら島を歩き回る。済州島は小さい島だから、歩いていたら1人や2人とすれ違うだろう、そう思いながら、イエメン人との出会いを求め、歩き続けたという。

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渡辺が渡航をした2018年9月には、イエメン人難民に対する報道規制がかかっていた。当時、韓国国民の間では、突如現れたイエメン人難民たちに対する反感が高まっており、彼らの受け入れを拒否する署名が、70万筆以上も集まっていた。

イエメン人を探して、入管あたりをうろうろしていると、「何をしているんだ」と怪しまれる始末。

彼らは一体どこにいるのだろう...

そう考えていた矢先、海岸沿いに、若者たちがフットサルやバスケをしている広場を通りかかった。

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「近くにマックがあるし、ここに絶対いる!」 

座り込んで「偵察」をしていると、実際にイエメン人らしき男性が、一人ポツンと座っている。

ここで彼女は、勇気を出して声をかける。開口一番、友人から習った、南イエメン方言のアラビア語 「シャシュキーシャンディーラクモーシャンキラク(働いてお金が手に入ったら、僕が返すね!)」をぶつけた。

文脈はないが、彼の心を掴むには十分だった。


「...なんでお前はイエメン方言が話せるんだ!!!」


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▲やっと出会えたイエメン人のおじさん

そこから彼と友人になり、彼がどのようにチェジュ島まで流れついたのかを語ってくれた。彼に出会ったのが、済州島滞在の最終日だったこともあり、その後は、SNSでコンタクトを重ねる。

出会った当初は、新天地で希望に満ち溢れいてた彼。しかし、しばらくコンタクトを重ねると、どんどんと絶望してゆく彼の姿があった。

「俺はもともと検察官だった。でも今ここでは仕事がない。ホテルで泊まっていて資金もそこがつきそう。金も、生きがいもない...」

日本に住んでいる自分が何かできるわけもなく、半年が過ぎた。
再び韓国へと戻ると、彼が置かれている環境が、大きく変わっている姿を目の当たりにしたと言う。

「済州島にて、イエメン人と結婚した韓国の方が、レストランを開いていたんです。そこがイエメン人のコミュニティとなり、当時途方に暮れていた彼も、その中でなんとかうまくやっていました。遊び方も覚えて、夜の街の楽しみ方も紹介してくれました(笑)」

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▲イエメン人コミュニティを訪れた渡辺

コミュニティが作られることにより、彼らの生活が大きく変わることを、身をもって体感した渡辺。日本でも同じような境遇にいる人がいたら、何かしたいと思っていた矢先に出会ったのが、WELgeeだった

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渡辺がはじめてWELgeeの活動に加わったのは、WELgeeサロンの運営だった。

「難民と日本社会の接点を作る」ことを目標に、月ごとサロンの運営と、難民(Internationals)の特性を生かしたミニイベントを企画・運営した。

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「難民のために」ではなく「難民とともに」。難民たちとの対話でわかった、WELgeeの理念 

WELgeeのインターンを通じて、多くの当事者達たちと対話をした渡辺は、自分自身の心情の変化に気づいた。

「これまで、国際協力や難民の課題に関心があったのですが、”誰かのために”と思ってやることが、誰かの人生を、自分の生きがいにしてしまっているのでは、という罪悪感につながったんです。人の人生を利用しているという意識があったんです。」

目の前に、”難民”と呼ばれる人と向かい合って話をする時に、
この人たちのために、というより、この人たちと”共に”活動したい想いが湧いてきた。

「"難民のために"ではなく、今目の前にいるあなたと”とも”に、この社会を変えて行きたい、というWELgeeの理念にしっくりきたことを覚えています。」

「新卒で」職員となった彼女の背中を押した、WELgeeの繋がり

インターンを開始してから約半年後、戦略室長の安齋より、リソースデパートメントの構想が語られた。

バックオフィスそのものの価値観を変える、革新的な部署の構想が語られ、魅力に感じたが、一方で、当時就職活動中だった彼女は、一般企業の就職などの、他の道も考えていたという。

それでも、彼女は、新卒でWELgeeの職員となることを決意した。

多様なキャリアの選択肢の中で、なぜWELgeeに入ったのかを尋ねると、彼女はこう答えた。

「私は、WELgeeが持っている様々な”繋がり”の大きさに惹かれました。確かにWELgeeは、職員の数も、資金も少ない組織です。しかし、それ以上に、働いている人たちが持つ多様なセクターや、人々との繋がりに惹かれました。」

「だから、自分が一般企業で入って、研修を受けて学ぶよりも、自分がそこにいて、手を動かしながら、繋がりの中で学び、稼働して、自分から動いて行くことの方が、得るものが大きいと思いました。」

「社会課題に関わる人たちの”境遇”を変える」 渡辺が未来に描くビジョン。

渡辺が考えるもう一つの課題が、ソーシャルセクターに関わる人たちの底上げだ。

インターンの中で、朝から晩まで、ひたむきに難民のことを考えている職員たち。一方で、メンバーたちの給与明細を見ると、愕然とした

「WELgeeのビジョンである、”自らの境遇にかかわらず、ともに未来を築ける社会”というのは、職員の人たちにも当てはまると思いました。

「今、自分の生活を切り詰めてまでも、一所懸命活動している職員や、この業界・NPOとして関わっている人たちに、しっかり対価がでなければ、いつまでも持たないと思いました。彼らを取り巻く境遇を改善すること、今あるリソースを駆使して、また、足りないリソースを生み出して、彼らの境遇や、環境を変えてゆきたい。そのために、RDとして、HRやFinanceの部分を担ってゆきたいと感じました。」

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彼女が掲げる未来が、どのように実現されてゆくのか?
彼女の今後の活躍が、とても楽しみだ。

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