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リーマンショック、結婚破談、日本企業のパワハラ…あらゆるどん底から這い上がった『ロスジェネ世代』の男が、『難民』のキャリアに伴走する理由

武居裕介、39歳。

平均年齢26歳のWELgee内で、唯一の『ロスジェネ世代』のメンバーだ。
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『ロスジェネ世代』とは、1970年~1982年頃に生まれ、 就職氷河期の時期に該当するバブル崩壊後から約10年間のうちに就職活動を行った人々のこと。

バブル崩壊後の極度の景気の冷え込みが原因で、新卒採用の枠が絞られ、正社員採用が困難を極める中での就職活動を経験し、そして、運よく入社できた企業でも、過酷な労働条件に苛まれる人も多い。

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▲Google検索にて「ロスジェネ」に関連する検索キーワード。その悲惨さを物語る言葉が並ぶ。

武居自身、そんな『ロスジェネ世代』のど真ん中である。彼は、就職・転職時に不景気の波に揉まれ、転職先にてパワハラに苛まれてきた、『ロスジェネ世代』の鏡である。

様々などん底を経験してきた彼は、現在39歳となった。今年の1月より、WELgeeへと参画をし、就労伴走事業のキャリアコーディネーターとして、日本に逃れた難民の就職に伴走をしている。

WELgee随一の、豊富なビジネス経験を武器に、若い20代のメンバーと、世代と価値観が大きく異なる4~50代の企業人の方との橋渡しを行なう武居。

でも、なぜ彼は「難民」のキャリアに伴走するのだろうか?

武居は言う。

「ロスジェネとは、人生につまずく瞬間を実体験として知っている世代のことだ。」

奇しくもこの言葉が、なぜ武居が「難民」のキャリアを支援するのか、そして武居がどんなキャリアを歩んできたのかを物語る合言葉となる。(執筆 : 林 将平)

 1年の”地獄”の営業経験。就職氷河期の真っ只中で出会った企業は”ブラック企業”

武居のキャリアの始まりは、2004年。時代は、バブルの崩壊を受け、ほとんどの企業の有効求人倍率が1を割った、いわゆる「就職氷河期」の真っ只中だった。

やりたいことがあるわけでもなく、選択肢も限られている中で、就職した会社は、当時ジャスダック上場企業の情報通信業界の営業会社。配属された部署は、もちろん「営業」だった。

人と接するのが好きだから、営業できるかと思った武居。しかしながら、全く売れない。1日100件の飛び込み営業を半年続けても、1件も売れない

「今日は何件だ?」

「ゼロです。」

「帰ってくるんじゃねぇ」

そんな調子で、毎日上司に詰められ、怒鳴られる武居。

営業として挫折をし、会社を辞めようと辞表を出した際に、たまたま人事のポジションを勧められた。

「人事?管理部門って、成果の出せない人間が行くところではないか?」

人事に対するネガティブな空気感が、営業の現場にはあったが、まぁ今よりましだろう、と環境を変えることに決めた。

この決断が、のちに彼が積み上げてゆくプロフェッションである「人事」の道の最初の一歩となった。

偶然出会った「人事」という仕事。視座を広げた「アントレプレナー採用」

「採用の仕事に出会い、これが本当に楽しかったんです。」

業務に携わる前には毛嫌いしていた「人事」。

しかし、蓋を開けると、採用活動に没頭している自分がいた。武居が人事という仕事の中で最も惹かれたのは、人の人生に関われることだった。

「自分の発した言葉で、その人のスイッチが入る瞬間があるんです。僕自身が関わったことにより、その人の生き方やマインドセットを変えることができる。」

武居は「アントレプレナー採用」という、3年後の独立を前提に入社する採用担当者として配属をされた。目の前にいる候補者たちは、独立気質が強く、高い能力を持っている。レベルの高い候補者たちに感化された武居は、人生で初めて「スイッチが入った」という。

「こういうチャンスをもらったから、どうせ辞めるんだったら、”こんな成果を残したのは、武居がいたからだ”と周りから言ってもらえるくらいの成果を残したいと思ったんです。」

がむしゃらに働くこと4年。気づいたら、人事部の主任となっていた。

二度目の「氷河期」。鬱になりかけた職場環境から「人生全てをリセットした」捨て身のカナダ渡航

20代後半となった武居。

前職を離れ、その当初お付き合いをしていた女性との結婚のために転職活動をしていた2008年は、リーマンショックの真っ只中だった。

求人がどんどん閉じられる最中、辛うじて内定に辿り着いた一部上場IT企業の、人事職として内定を得た。

しかし、そのわずか2日後に、予定をしていた結婚が破談してしまった

結婚のために転職をしていたと言っても過言ではなかった武居。全てのモチベーションを喪失してしまった。

リーマンショック直後、結婚破談、モチベーション喪失状態…

そんな状況で、藁にもしがみついたこの一部上場のIT企業は、武居の自由奔放な性格とは全く相容れないドメスティックな「ザ・日本企業」。厳しいマイクロマネジメントに晒される中で、上司との関係性も醜悪であり、部署内には味方すらいない状況。

「部署内の上司、先輩にいじめられてましたよ。いわゆる吊るし上げです。四面楚歌とは、まさにこの状況のことを言うのかと思いました。

本気で死ぬことを考えた。
鬱の手前の状態まで追い込まれていた武居。

そんなどん底の状況で、たまたま会社内の現場で活躍されている、海外経験者の2人と出会った。彼らは寛大で、ポジティブで、人を惹きつける魅力があった。

IT企業人事の際の、現場の海外経験者2人とのゴルフの写真があった〜

▲海外渡航経験者の2人との写真

 "海外での様々な経験が人を大きくさせる"。

そんな印象を持った武居は、気が付いたら留学エージェントの門をたたいていた。

どこに行こうか?

学生の頃、1か月間滞在していた、カナダへの渡航を先に考えていたが、いざ決断をするとなると、足がすくむ

大した英語力も、コネもない自分が現地でやって行けるのか?....日本に帰った先に、再就職できる先があるのか?....複数の転職回数があり、その上、29歳からカナダへ渡航した場合、絶対に日本企業で雇ってくれる人はいない...日本企業の人事として働いていた武居が、そのことを一番理解していた。

そして何よりも、「これは人生の”逃げ”なんじゃないか...」という思いが頭をよぎった。

しかし、今の環境にいたら、自分は間違いなく鬱になる

日本に戻らないで、現地の企業に飛び込んで、採用をしてもらい、ビザを出してもらう。全てを捨てる決意で渡航を決めた。

「あの時の決断がなければ、今の自分はいない。」

武居はその決断を、人生で一番の決断だったと振り返る。

言語もコネもゼロから始めたカナダでの武者修行は、「精神と時の部屋」

カナダのトロントとバンクーバーでの海外生活を送った武居は、語学学校から始まり、ビジネスカレッジ、インターンシップを含む複数のローカル・ベンチャー企業での仕事を経験した。

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期間にすると、たった一年半の海外生活。

しかし、何年分かわからないほど、濃密な経験値を得ることができた。 言うなればドラゴンボールで登場する「精神と時の部屋」のようだった。

ビジネススクールで毎日提出される山のような宿題を毎日深夜まで行い、仕事を探すために、英語で135社に対してコールドコーリング(テレアポ)を行なった。現地企業では自らの背景を生かし、日本人だからこそできるマーケット開拓に挑戦した。日本人は自分だけという、完全英語環境の実務で、苦しい瞬間が山ほどあったが、得られた経験値は果てしない。

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▲就業中の仲間たちと

日本社会では「落ちこぼれ」レッテルを貼られていた自分が、考えられないほどの挑戦をしていた。

そして、移民や難民の割合の多いカナダでは、武居個人が経験したよりもはるかにとんでもないサバイバルをしている人たちとも出会った。自分のこれまでの苦悩が、ちっぽけに見えるほどの経験だった。

カナダでの武者修行を経て、何よりも一番変わったのは、底知れない自信がついたことだという。

「己の身一つで世界に飛び込んで、そこで立ち位置を作ってきた。素晴らしい人たちに囲まれて、世界に対して貢献できることを、初めて感じることができました。世界で生きられるじゃん、俺!と思ったんです笑」

帰国後、出国前にお世話になっていた海外経験者のキャリア支援をするベンチャー企業に拾ってもらい、就職をした。システムエンジニアの経験はゼロだが、マッチングシステムの立ち上げ責任者として、マッチングプラットフォーム企画・設計・開発・運用・営業など、0 → 1 全て関わった。カナダへと渡航する前には考えられないほどに、目の前の機会へ積極的に動き、チャンスをものにした自分がいた

武居自身の波乱万丈な人生経験から学んだことは、キャリアコンサルタントとなった今にも脈々と生きている。

「人生、つまづいた時が大切だと言うことに、気づきました。その中でもチャレンジをすることの環境が与えられていることに気づき、動ける人たちには、共通する資質があります。その一つが、他人のせいにしないこと。苦しい中でも、何かをつかもうとしているか?自分の行いを他人のせいにせず、自分の責任にできるか。今関わっている3名の難民の人材も、そこを見ています。僕自身がそうでしたから。」

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「20代の時には、ある意味他責、全部他人のせいにしていました。それが、カナダに行ってマインドセットが変わった。人生起こることの全ては自分のせい、失敗しても、誰かに裏切られても、全部自分のせいだと思い、でもその中で、何を学び、次に生かすかを本気で考えられるかで、人の成長って変わってくると思うんです。」

その後、フリーランスとして独立をし現在、外国籍および海外経験日本人のキャリア支援を行うようになった。

そんな武居がWELgeeに出会ったのは、2019年8月。きっかけは、代表の渡部が参加した「世界青年の船」の関係者を経由した紹介だ。

「上場企業での人事実務経験、人事コンサル・ベンチャー企業でのベンダー側の実務経験、海外での就業経験がある自分と、WELgeeがやろうとしていることとのシナジーがありそうだ。」

その言葉通り、今年1月より、WELgeeの就労伴走事業のキャリアコーディネーターとして、難民の人材と企業の双方に伴走をしている。豊富なビジネス経験を武器に、若い20代のメンバーと世代と価値観が大きく異なる40〜50代の企業人の方との橋渡しを行っている。

「キャリア」とは、その人の人生のわだちそのもの

外国籍、難民、海外経験をした日本人...これまで多様な背景をもつ人々へと伴走をしてきた武居にとって、『キャリア』とはなんだろう?

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「キャリアとは、多くの人にとって”転職”とか”就職”と捉えられているのですが、私は人生そのもの、自分が歩んできた人生のわだちそのものだと思うんです。だから、僕の中では仕事だけでなく、旅も、留学も、遊びも、スポーツも、趣味だって立派なキャリアだと思っています。」

「生まれてから、現時点までのわだちと、そこから未来。死ぬまで、どういう道を作ってゆくのか?は人それぞれ。一直線ではないんです。むしろ、ワインディングロードや脱線があるから、人生は面白いんです。」

海外生活を通じて、人生が変わった武居だからこその言葉だ。

キャリアに伴走する際に大事にしている「課題解決志向」

武居が人材と企業への伴走で大切にしていることがある。
それは「Solution Oriented」、課題解決志向だ。

「クライアント側の企業も、人材側も、多様な課題を持っているし、本人たちが課題として捉えていない、潜在的な課題もある。」

その課題を見つけるために大事なこととは、友人になることだ。

「キャリアコンサルタントの世界では、”ラポール”と言う言葉を使いますが、まずクライアント・人材と仲良くなる。それで、色々話をしてゆく中で、ぽろっと課題が出てきた時に、その課題に対して、僕個人だったり、WELgeeのリソース用いたら、こんな風に解決できますよ、と伝えます。ただそれだけです。」

武居が双方のクライアントに向き合う姿勢は、単なる「人材紹介業者」ではない。 

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「おこがましい話だけれども、企業に対して難民の人材紹介をする際に、いろんな背景のひとと交わることによって、あなた個人の人生がワクワクするんだぜ、ということを伝えたい。 人生を楽しくしましょうよ、という姿勢で伴走したいと思ってます。」

JobCopassを通じて「外国人が活躍するロールモデル」を作りたい

最後に、難民のキャリアに伴走する武居に、何を目指すのかを聞いた。

「日本企業で外国人が活躍するロールモデルを作りたいですね。」

「やっぱり、まだまだ外国籍の採用というと、労働力の穴埋めになってしまっている現状がありますよね。立場的に外国籍が下、日本人が上ではなく、これをイーブンにしたい。」

難民が人材として企業で活躍できる資質や経験があるのにもかかわらず、まだまだ評価されていない、と語る。

「今伴走している難民の人材たちには、少なからず海外での挫折経験があります。言葉も違う、文化も違う。その中で、自分を変化させながらやってきた人たちなのです。」

就労伴走事業

JobCopasssを通じて紹介をする人材は、海外での起業経験や、トレーディング、留学経験を行うなどの、異文化間の協働経験を持つ。

「国籍のバイアスなく、人間性やその人の持っているポテンシャルに注目して、適材適所に配置する国内企業が、日本にもあります。そういった企業をもっと増やして行きたいですね。」

武居がなぜ難民や外国人に対して、底知れないポテンシャルを感じるのか?

それは、彼自身が、人生につまずく瞬間を実体験として知っているからだ。だからこそ、あらゆる境遇に置かれている人の可能性を見抜き、そのポテンシャルに伴走をするのだ。

「キャリアとは、私は人生そのもの、自分が歩んできた人生のわだちそのものだと思うんです。だからこそ、我々から学びを提供し、難民の彼らから何かを学ばせてもらう。共に成長できる環境で在りたい。人生一生学びですから。

人生即ちキャリア。彼が難民の若者たちとともに、どのような未来を築くのかに目が離せない。

◎ 武居が伴走を行う難民特化の人材紹介サービスJobCopass(ジョブコーパス)

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◎ 『JobCopass(ジョブコーパス)始動!〜難民と企業を繋ぐ、就労伴走事業部・統括山本が見据える未来〜』

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