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【アーカイブ】夜の挿話1(真夜中)

真夜中の食卓で遅い夕食をとっていると、ふとした瞬間に強烈に「夜」を意識することがある。
そんなときの夜はとても無表情だ。
子どもの頃の夜ふかしのように非日常からくる興奮もなければ、夜遊びのように享楽的で甘美な匂いもない。文字体でいうならゴシック体だ。

僕は夜に話しかける。

僕は今ひとりなのか?
ひとりじゃないさ。隣の部屋では老いた夫婦が眠っている。さらに隣の部屋では若い男がひとりでテレビを観ている。街にはもっとたくさんのひとがいる。
その中に笑っているひとはいるんだろうか。
もちろん、たくさんいる。
じゃあ悲しんでいるひとは?
少なからず、いる。
僕にできることはあるのかい?
お前にできるのは、目の前の夕食を食べることだけだ。
そうか。
またな。

すっかり冷めてしまったアジフライを頬張ると
冷めてしまった分だけ甘みが増していた。

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