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#17 可愛い方言ランキング



中学にあがった最初の夏、
僕はおばあちゃん家の和室で扇風機と宇宙人ごっこをしながら、自由研究のテーマをどうしたものかと思案していた。

そんな僕に、おばあちゃんは襖の向こうから「スイカ切りよるけえ。じゃけん、食べんさい」
と声をかけてきた。


おばあちゃんの家は広島にある。
だからおばあちゃんも広島弁なんだけど、大阪育ちの僕からしたらそれが聞き馴染みのない言葉だったから面白かった。

それでふと閃いた。

自由研究のテーマは『可愛い方言ランキング』にしようって。

まずは広島弁だけど、「じゃ」とか「じゃけ」とかがもう可愛くないし、あんまり上位には食い込まないだろうな、と思いながら僕はスイカのある居間に出た。

居間には僕のはとこにあたるお姉さんが遊びに来ていた。
お姉さんは広島の大学生で、大学の帰りに顔を出しにきたそうだ。

お姉さんは僕を見るなり、
「今中学生じゃろ?ばりおっきなったね〜」

と言いながら僕の頭をわしゃわしゃとした。
お姉さんからはなんだかいい匂いがした。

広島弁も悪くないかもなって思った。



次の日には別の人が来た。
その人はお父さんの従姉妹なんだけど歳はお父さんより結構若い。

おばさんと言うには若いけど中坊の僕からしたらお姉さんと言うにはちょっと無理があるかなあくらいの年齢の人だった。今の僕には分別があるから、ここではお姉さんと表記させてもらうね。

そのお姉さんは福岡に住んでいて、お盆だからって広島に遊びに来たそうだ。


ついでにお姉さんは、昨日遊びに来たはとこちゃんのお母さんで、これから2人でご飯に行くのだと言う。

そんなお姉さんも小さい頃の僕を知っていたようで、

「どげんしとったん〜?」

と言いながら、やっぱり僕の頭をわしゃわしゃやった。


噂には聞いていたけど、たしかに博多弁は可愛いなと思った。

その日の夜、僕は方言ランキングと銘打った画用紙に、“広島弁も博多弁も甲乙つけ難い”と書いた。


そうこうして家に帰る日がやって来た。
僕はおばあちゃんにお礼を言って広島を後にした。

残念なことに僕は携帯電話を充電し忘れていたから、帰りは車窓を楽しむことにした。

新幹線に乗る機会なんてそうそうないしこれはこれで良いな、なんて思ったりして。

乗り換えをグーグルで調べられないのも中坊の冒険心にはただのスパイスだった。


だけど、家についた僕を待っていたのはお母さんからの大目玉だった。


「あんたちゃんと連絡しいやって言ったやんな? なんであたしがこんなに怒ってるかわかるやろ?」

充電を忘れていたから連絡のしようがなかったんだけど、そんな弁明も虚しく、そのまま僕は一晩こってりと絞られてしまった。


その晩、画用紙の最後に“関西弁はあまり可愛くない”と綴って僕の自由研究は完成した。

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