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中国初の民法典成立、「離婚冷静期」に反対の声

要点
① 中国初の「法典」である「民法典」誕生
② 離婚率の上昇と制度改革
③ 「離婚冷静期」の設定義務化に関する議論

  5月28日、中国で開かれていた第13回全国人民代表大会で「中華人民共和国民法典」が可決、成立した。2021年1月1日から施行され、同時に現行の婚姻法、相続法、民法通則、養子法、担保法、契約法、物権法、権利侵害責任法、民法総則が廃止される。

  新中国成立以来初となる統一的な民法典の誕生は衆目を集め、民法典は中国人の「社会生活の百科事典」のようなものとなる。一方で、中国の微博(ウェイボ―)では離婚に関する規定に関し賛否を巻き起こしている。「反対離婚冷静期」というハッシュタグの閲覧数は既に3800万にものぼり、非常に関心が集まっているテーマと言える。

離婚手続きを厳しくする要因となった離婚増加問題

  民政部が発表した国の結婚・離婚に関するデータによると、結婚登記数は下降傾向にあるのに対し、離婚登記数は年々上昇傾向にあることが明らかとなった。21世紀に入ってから連続で離婚率は上昇しているとも言われ、政府にとって早急に解決すべき大きな社会問題とされてきた。

図1

民政部:2010-2019年婚姻・離婚登記数統計データ(http://www.chyxx.com/industry/202002/832066.html)

  多くの国では協議離婚が認められていないが、日本や中国では認められており、当事者間の話し合いのみによる合意のみで離婚届を提出することで離婚が成立する。中国ではその手続きが比較的簡単なため、スピード離婚の場合、再考する時間もなく離婚が成立してしまう。

  コロナ禍で離婚数が増加したことも話題となったが、離婚の原因は以下の表によると、離婚原因は日々の生活で積もった不満や不和によるところが大きい。また社会的背景としては、結婚観・家庭観に変化があったことや、女性の社会進出が進んだことがある。

离婚原因

浙江省高院 2018年離婚原因の統計(http://www.199it.com/archives/833157.html)

  そもそも離婚という行為は夫婦だけでなく家族の問題だ。財産分割以外にも例えば子供(特に問題となるのは未成年)の扶養問題があり、当事者間の突発的な不仲でそういった問題を発生させるべきではない。政府としては離婚率の増加問題を解決し子供の権利を守る必要があるが、冷静期が個人の自由を侵害しているのではないかという意見も一理ある。

「離婚冷静期」とは?

  衝動的な離婚を防ぐために設けられた制度で、離婚届の提出後から30日以内なら離婚届の撤回をすることができる「冷静期間」を設けることを義務化した(ただし例外として家庭内暴力(DV)による離婚申請の場合はこれに限らない)。実際には、2003年に「婚姻登記条例」で規定された一か月間の審査期や、離婚率が高い地域での独自の対策がこれに近い。また古くは「寧拆十座廟,不壊一桩婚(他人に婚姻事に干渉してはならない)」という伝統的考えもあり、離婚を制限する考えがなかったわけではない。

  冷静期間に対しては賛否両論で、賛成派には「電撃婚・離婚をするパートナーを減らすために冷静期間を設けるべきだ」、「子供の保護を優先すべき」などの意見があり、反対派には「成年には物事を冷静に判断する能力が備わっている」、「国家の私権への介入だ」などの意見があった。他には「結婚冷静期」も設けるべきだという声も。DINKsが増える中国において、特に若者のパートナーはより結婚という制度に縛られないライフスタイルを送ることが予想される。

  冷静期間のように突発的な離婚を避けるために国家がある程度の制限をかけることは中国に特別なわけではない。アメリカ、カナダやイギリスなどにも確認できる。また隣国の韓国では子供を守るために「離婚熟慮期間」を設けており、このような冷静期間には一定の効果が有ったことがすでに証明されている。では、果たして中国で効果はあるだろうか。

  中国には「上有政策、下有対策(上に政策あれば、下に対策あり)」という言葉があり、反発が大きい離婚冷静期の今後の展開に期待される。また同様に協議離婚が認められている日本や台湾への影響や、実際に離婚率上昇に歯止めがかかるのか、等に注目が集まるだろう。


文/ 田川 太一

Weekly China

June 2nd ,2020

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