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【特集】新型コロナウィルス による中国デリバリー産業の“変革”

要点
①外出規制により、買い物代行の需要が急増
➁ 人と人の接触を減らす「無接触配送」を導入
➂ デリバリー大手「美団」(メイトゥアン)はテクノロジーを駆使した配達を実現

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 近年、急速に普及した中国のデリバリーサービス。携帯のアプリを使ってオーダーをしたあと、30分ほどで食事を受け取れる非常に便利なサービスだ。その便利さゆえ、自炊も外食もせず、毎日デリバリーを頼むという猛者もいるほどだ。

 ヘビーユーザーの友人は、1週間デリバリーで食事を済ませ、一歩も外出しなかったことがあるらしい。それとは対照的に、慌ただしくバイクを乗り回す配達員の姿は、デリバリーサービスの普及を垣間見る景色でもある。

 そんなデリバリーサービスは、新型コロナウイルスの影響を受け、売り上げの減少と需要の変化を経験。そして、テクノロジーをフル活用した新たな取り組みを展開していた。

 感染が拡大した1月中旬より、飲食店が次々と営業を停止。中国国家統計局の発表によると、1〜2月の飲食売り上げは、4,194億元(約6兆5,950億円)となり、前年度比-43.1%となった。また、 中国飯店協会デリバリー専門委員会の理事長は、フードデリバリーの売り上げがこの新型コロナウィルス の感染拡大により8割以上落ち込むと見込んでいる。飲食業の影響はデリバリーサービスにも及んだ。

 ところが、飲食業の影響を受けなかったデリバリーサービスがある。食材や果物などのデリバリーだ。特に、食材の注文が多く、その数は平常時の9倍にまで増加。背景には、感染拡大による外出規制があるとみられる。

 中国のデリバリーサービスは、食事のデリバリー以外に買い物代行のようなサービスも含まれる。デリバリースタッフがユーザーより注文を受け取り、注文通り飲食店やスーパーなどで買い物代行を実施。購入できる商品は、肉、野菜や米などの食材以外に、食用油や果物など。ビールやウイスキー、白酒(中国の焼酎)なども買い物代行を注文することができる。

 利用しているユーザーをみてみると、依然として、20代がメインユーザーとなった。ところが、新しく、40代から60代のユーザーが全体の3割以上も占めた。
        
 家で自炊をすることが多い40代以上のオーダー数は、前年比10倍以上となり、新しい利用者の増加が鮮明になった。外出ができない自分の代わりに、デリバリースタッフを買い物代行することで、食材の調達を済ませたようだ。

 とはいえ、新型コロナ感染拡大の真っ只中。誰が触ったのかわからない品物を触ることや、多くの人と接触しているであろう配達員との接触を不安に感じる人もいるのではないだろうか。

 実際に、デリバリー大手の「美団」(メイトゥアン)や「饿了么」(ウーラマ)では、配達員と消費者が直接接触しないよう、「無接触配送」を開始した。「美団」(メイトゥアン)では、北京の一部地域で無人配達も始めた。

 「無接触配送」では、配達員が直接手渡しする代わりに、玄関に品物を置いて配達を完了し、その後消費者がそれを受け取る。人と人との接触を極力減らす取り組みだ。

 また、「無接触配送」のアップグレード版に、「無接触安心送」がある。「安心送」では、厨房スタッフや小売店の店員から配達員まで、商品に関わった人の体温と健康状態が記録される。人の健康状態に加え、包装の消毒状態も確認できる。全オーダーに占める「安心送」の割合は公表されていないが、その8割以上が「無接触配送」となっている。

 消費者に、より安心してサービスを利用してほしいと、「美団」(メイトゥアン)は無人配送まで始めた。買い物代行サービスの需要が高まるにつれ、配達員の人手不足があらわになり始めたことも理由の一つだ。平常時よりも、配達完了までに必要なプロセスが増えたためだろう。

 5Gや自動運転などの技術をフル活用した無人配送車が、配達員の代わりに店と消費者の間を駆け回った。無人配送車は店から商品を受け取ると、指定の場所まで自動運転で向かう。消費者は、その場所まで行き、無人配送車に積まれている自分が購入した商品を取り出す。新華社によると、無人配送車は、毎日決められた回数消毒されるという。

 「美団」(メイトゥアン)による無人配送の実現は、ライバルである「饿了么」(ウーラマ)との競争に一歩リードした布石ともいえる。新型コロナの影響で、デリバリー業界全体としてはダメージを負った。しかし、大手2社は平常時と変わらぬ競争をここでも見せていたのだ。 以前、買い物代行サービスへ投資拡大の意向を示していた「美団」(メイトゥアン)の CEO、王興(ワン・シン)。今回の新型コロナで目まぐるしく変化する需要にもうまく対応できたのではないだろうか。

 現在、中国のデリバリーサービスといえば、「美団」(メイトゥアン)と「饿了么」(ウーラマ)がメインだ。統計によると、ユーザーの6割が「美団」(メイトゥアン)を、3割が「饿了么」(ウーラマ)を利用している。また、その2社には、それぞれ中国大手IT企業である「騰訊」(テンセント)と「阿里巴巴」(アリババ)がバックにいることも触れておきたい。

 デリバリー業界でも、5Gや自動運転などのテクノロジーを巻き込んだ激しい競争が展開されている。慌ただしく街を駆け巡る配達員は、次々とやってくるオーダーを対処する一方、無人配送車に仕事を奪われる不安とも戦っているのかもしれない。

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By Weekly China 田村 康剛
April 3rd, 2020

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