「アジアの地中海」が中国の海洋進出を読み解くカギ|【特集】押し寄せる中国の脅威 危機は海からやってくる[Introduction]
「中国の攻撃は2027年よりも前に起こる可能性がある」──。アキリーノ米太平洋艦隊司令官(当時)は今年3月、台湾有事への危機感をこう表現した。狭い海を隔てて押し寄せる中国の脅威。情勢は緊迫する一方だ。この状況に正面から向き合わなければ、日本は戦後、経験したことのないような「危機」に直面することになるだろう。今、求められる必要な「備え」を徹底検証する。
※年号、肩書、年齢は掲載当時のもの
地政学者スパイクマンは、太平洋戦争中から米中が南シナ海で衝突することを予見していた。「大国は内海に進出する」──中国の海洋進出を、歴史的な法則から分析する。
米中新冷戦の中、いまや紛争は「起こるかどうか」ではなく「いつ起こるか」の局面にシフトしていると言っても過言ではない。
このような事態は、歴史を戦略的に読み解く地政学の理論家たちはすでに見通していた。 米国で活躍したオランダ出身の地政学の理論家にニコラス・スパイクマンという人物がいる。彼は太平洋戦争の最中である1942年に出版した著書『世界政治の中の米国の戦略』(America's Strategy in World Politics)の中で、南シナ海での米中衝突が不可避であることを主張しているのだ。
ここでカギとなる概念が「アジアの地中海」というものだ(下図参照)。具体的には「台湾、シンガポール、オーストラリア北端のヨーク岬半島に位置するトレス海峡を結ぶ三角形」にある海域である。スパイクマンは、この地中海では「中国が経済的に強力になれば、その政治的影響力も同じように大きくなる。そしてこの海域が、英国、米国、そして日本のシーパワーではなく、中国のエアパワーによって支配されるようになる日が来ることを予測することさえ可能だ」と言い切っている。
なぜこのような予測が可能であったのか。彼はシミュレーションの土台として「大国が対外進出する際には、自国の周辺の内海を支配しようとする」という歴史的な法則をもとに考えていたからだ。次に挙げる歴史的な事例では、経済以上に安全保障上の脅威が支配の動機になっていることに注目していただきたい。
たとえばローマ帝国は……
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