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高まる国家のリスク それでも再エネ〝大幅増〟を選ぶのか|【特集】脱炭素って安易に語るな[PART-3]

地球温暖化に異常気象……。気候変動対策が必要なことは論を俟たない。だが、「脱炭素」という誰からも異論の出にくい美しい理念に振り回され、実現に向けた課題やリスクから目を背けてはいないか。世界が急速に「脱炭素」に舵を切る今、資源小国・日本が持つべき視点ととるべき道を提言する。

11月号ヘッダー画像(500×1280)

文・山本隆三(Ryuzo Yamamoto)
常葉大学名誉教授
NPO法人国際環境経済研究所所長。住友商事地球環境部長などを経て現職。経済産業省産業構造審議会臨時委員などを歴任。著書に『電力不足が招く成長の限界』(エネルギーフォーラム社)など多数。

欧米では脱炭素政策がもたらすリスクを見極め、その〝備え〟を同時並行で検討している。脱炭素の理念は美しいが、日本は再エネ依存に潜む中国リスクなどをもっと認識する必要がある。

 日本政府は、脱炭素に向け再生可能エネルギー(以下、再エネ)による発電量の大幅増を決めた。再エネ電源が増えれば、温暖化対策が進む良い面もある。

 だが、米国や豪州などは、不安定な電源ゆえ停電のリスクが高まることを経験した。さらに、太陽光、風力などの再エネ設備の多くは中国が供給しており、世界が再エネ電源への過度な導入によって「脱炭素」を進めれば、後に詳しく述べるように、中国がエネルギー覇権を握ることにつながる。脱炭素政策を進めるには、こうしたリスクを正しく認識することが必要だ。

他人事では済まされない
欧州を襲った電力価格高騰

 再エネ電源に燻る〝悩みの種〟を具体的に見ていこう。

 欧州連合(EU)では今年9月、電気料金の上昇が大きな話題になった。スペイン、イタリア、ギリシャ政府は料金を引き下げるため、課税額の見直しや補助金の支出などを決めた。料金上昇の原因は、コロナ禍からの回復を受け、電力消費量が上昇したにもかかわらず、北海からの風量が過去20年間で最低になるなど、今年前半の風力発電量がEU全体で昨年同期比7%減少し、火力発電への依存が増したことだ。

 石炭火力発電所の廃止を進めたEU主要国の火力設備の主体は天然ガスだ。しかし、コロナ禍からの経済回復や天候要因などにより天然ガス価格が急騰している。世界銀行の資料によると、欧州の指標原油である「ブレント原油」は昨年の第二四半期に1バレルあたり31.4㌦だったが、今年8月には70㌦前後と2倍以上も高騰している。

 一方、欧州の天然ガス価格は同時期に100万BTU(英国熱量単位)あたり1.82㌦から15.49㌦まで上昇し、9月にはさらに上昇した。加えて、EUでは排出される二酸化炭素(以下、CO2)に対し、市場を通して価格を付けているが、その排出枠価格は年初の30ユーロから上昇を続け、9月に60ユーロを超えて電力価格にも影響を与えた。

 価格上昇に加え、今冬は電力が不足する懸念もEUでは囁かれ始めた。他国との連系線の能力が限定されているアイルランドの送電管理者は、「風力発電量次第では停電のリスクがある」と警告している。欧州委員会(EC)委員は、「再エネの導入を早く始めていれば電気料金上昇は避けられた」と主張しているが、再エネ導入は両刃の剣だ。

 ECの拙速な脱炭素政策が引き起こした電気料金の高騰だとして、欧州議会ではポーランド選出議員が「電気料金を支払う市民が、不幸なことにECの野心のツケを払わされる」と非難し、同国のマテウシュ・モラヴィエツキ首相も「高騰しているポーランドの電気料金はECの気候変動政策と結びついている」と憤りを露わにしている。

 主要国は、CO2排出量削減の切り札として再エネ導入を進めてきた。EU、米国、カナダの主要先進国を中心に多くの国が、2050年に温室効果ガスの実質排出量ゼロを宣言する中で、日本も「50年脱炭素」を宣言し、「13年度比温室効果ガス46%減」の「30年目標」も定めた。

 目標を実現するには、エネルギー消費のあり方を見直す必要がある。現在は

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