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二枚舌構造はもはや限界 日本国憲法の本来の精神とは|【特集】歪んだ戦後日本の安保観 改革するなら今しかない[PART06]

防衛費倍増の前にすべきこと

安全保障と言えば、真っ先に「軍事」を思い浮かべる人が多いであろう。
だが本来は「国を守る」という考え方で、想定し得るさまざまな脅威にいかに対峙するかを指す。
日本人が長年抱いてきた「安全保障観」を、今、見つめ直してみよう。

多くの日本人が、日本国憲法を誤解している──。日本を取り巻く安全保障環境が激変する今こそ、「真の憲法」「真の9条」の意味を国民が理解する必要がある。

文・篠田英朗(Hideaki Shinoda)
東京外国語大学大学院総合国際学研究院 教授
英ロンドン大学(LSE)国際関係学博士(Ph.D.)取得。専門は国際政治学(平和構築論)。著書に『パートナーシップ国際平和活動』(勁草書房)、『紛争解決ってなんだろう』(ちくまプリマー新書)、『憲法学の病』(新潮新書)、『ほんとうの憲法』(ちくま新書)など多数。


 ロシア・ウクライナ戦争に直面し、日本政府は、歴史的に稀有なまでに強い姿勢で、ロシアへの制裁とウクライナへの支援を行っている。今後も日本が国際秩序を維持するために行動できる体制整備が必要だ。

 防衛費の増額という直近の課題が注目されているが、国家体制の全般的な整備という面から見れば、日本国憲法(以下、憲法)を整理しておくことも、極めて重要だ。今こそ、憲法の本来の「国際協調主義」の精神を取り戻す好機だろう。

 まず確認しておくべきことは、憲法は、本来、「国際協調主義」を目指している、という点である。

 日本はかつて、1931年の満州事変によって国際連盟が象徴した第一次世界大戦後の国際法規範にあからさまな挑戦をし、東アジアにおいて侵略行為を繰り返した。その結果、世界のほとんどの国が同盟関係を結んだ「連合諸国(United Nations)」に敗れ去った、いわば国際法規範から外れた国家であった。国際的に孤立した過去の日本の行動を反省し、新たに国際社会に貢献する国として生まれ変わるために制定したのが、憲法である。

 ところが、国際法を軽視し、憲法こそ優位との通説的立場をとる日本の憲法学者たちは、ポツダム宣言履行プロセスの一環として作られた憲法の国際協調主義を目立たなくし、憲法を国際法から切り離して解釈する運動を繰り広げてきた。「憲法優越説」である。

誤解多き憲法の原則
前文から読める「一大原理」

 日本の学校教育で教わった「憲法の三大原理」なるものを考えてみよう。日本の子どもたちは、教員に言われるがまま、憲法学者の通説に違和感を覚えられるはずもなく「三大原理」、つまり「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」を覚えさせられる。しかし実際には、……

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