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20年かけて電子政府に デンマークから学べること|【特集】漂流する行政デジタル化 こうすれば変えられる[COLUMN1]

コロナ禍を契機に社会のデジタルシフトが加速した。だが今や、その流れに取り残されつつあるのが行政だ。国の政策、デジタル庁、そして自治体のDXはどこに向かうべきか。デジタルが変える地域の未来。その具体的な〝絵〟を見せることが第一歩だ。

デジタル先進国デンマークは20年かけてデジタル化を進めてきた。北欧の小国から日本のデジタル改革のヒントを探る。
話し手・安岡美佳
聞き手/構成・編集部 鈴木賢太郎

話し手・安岡美佳(Mika Yasuoka)
デンマーク・ロスキレ大学 准教授
京都大学大学院情報学研究科修士、東京大学工学系先端学際工学専攻を経て、2009年にコペンハーゲンIT大学博士号取得。2005年より北欧(スウェーデン、デンマーク)在住。北欧研究所代表、一般社団法人スマートシティ・インスティテュートのエクゼクティブアドバイザーなどを兼務。


 高福祉国家、北欧の小国、きれいな街並み──。多くの日本人がデンマークに抱く印象はこのようなものではないだろうか。しかし、それだけではない。デンマークは国連がとりまとめる最新の電子政府指数で堂々の1位になるなど、世界でも高く評価されるデジタル先進国でもあるのだ(下図)。

デンマークは世界屈指のデジタル先進国である

(出所)スイスの国際経営開発研究所(IMD)『デジタル競争力ランキング2021』、 国連経済社会局『世界電子政府ランキング2020』、 早稲田大学電子政府・自治体研究所『世界デジタル政府ランキング2021』より引用
(注1)各ランキングで分析指標は異なるが、デンマークはいずれのランキングでも上位に名を連ねている
(注2)日本はIMDで28位、国連で14位、早稲田で9位にランクインしている

 現在デンマークでは、あらゆる行政手続きが電子化されており、市役所の窓口に行列ができることも、各種の申請手続きを紙で行うこともない。デジタル化の経緯を見ると、二つの特徴が見てとれる。一つは時間をかけて長期の目標を立てぶれずに実施したこと。もう一つは「強制力」を行使しデジタル改革を進めてきたことである。

 デンマークでは、住民の取得意思の有無にかかわらず、日本のマイナンバーにあたる個人番号(CPR)が強制的に付与されている。CPRは地方政府で導入された1924年から納税・医療・教育などあらゆる場面で利用されるようになり、今では銀行口座の開設や医療サービスの受領など、生活のあらゆる場面で不可欠なインフラとして根付いている。

 また、デンマークの電子政府政策は20年かけて段階的かつ強制的に導入されてきた。2001年から、4年ごとに「電子政府政策」が発表され、各政策では達成目標とマイルストーン(中間目標)が掲げられた。特筆すべきは、14年11月1日を区切りに、政府や自治体などの公共機関から市民への連絡を、半強制的に電子移行したことである。この間、国や地方自治体のデジタル化(第一・二次電子政府政策)を端緒に、公共機関と関わりのある民間企業(第三次)へと浸透させ、段階的に基盤を整えてきたからこそ、最後に市民(第四次)へと電子化を広げることができたのである。

 デジタル化の進捗は可視化され、誰でもオンラインでチェックすることが可能だ。政府はいつまでに何をやるべきか、あらゆるメディアや著名人を使い、戦略的な告知を徹底するなど、デジタル化を一般市民に浸透させるための工夫を凝らした。

 さらに、各種行政手続きのデジタル化は、全てを一度に実施したわけではない。戦略的に対象となるサービスを選び、一歩一歩進めていった。例えば、……

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