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トンネルのこっち側 ~雪国雑記4~

            Kさんのこと

Kさんという常連のお客さんがいた。その存在を始めて認識した時には  もうおじさんというよりおじいさんという風貌だった。

日曜の夕方ほとんどのお客さんが帰っていくと入れ替わりに玄関に現れる。
1人で。予約は無いが来ない週の方が少ないので大体来ると思っていて
間違いはない。人気のなくなった玄関でスキーのワックスをかけていて、
振り向くとKさん。

「Kさんきたよー。」今思えば、いらっしゃいませも無かった。
特に気にする様子もなくいつもの部屋へ。お互い気を使わなくて良い関係
だったということにしておこう。

Kさんはおみやげを持ってきてくれる。大きな亀の形のフランスパン。
中にレーズンが入っている。切って台所のストーブの上にアルミホイルを しいて焼いてマーガリンを塗って食べる。忘れられない味の一つだ。
それがいつしかスーパーで売ってるようなりんごのパンになった。
気まぐれかパン屋が無くなってしまったか。聞かなかった。というか
あまり会話らしいものをしたことがなかった。


基本的には無口な人だが祖母なんかとは話をしていてスイスにスキーに
行った時の写真を見せてくれたこともあった。
お金持ちだったんだろう。普段は何をしてるのか。何故いつも1人なのか。
興味は尽きない。特に昔は気にならなかったのに。
昔聞いとけばよかったのかと思いつつ、それはそれでKさん嫌だったかもね。


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