見返りを求めず、ただ楽しむ~Buddy’s Voice vol.8:久野雄大~
We are Buddiesは、子どもと大人ボランティアがバディとなり、直接会って一緒に遊んだり、話したりしながら、細く長い関係性を築いていくオランダ発祥のプログラムです。バディとなる大人ボランティアは、月に2回程度の子どもとの関わりを1年以上続けることを自らの意思で選択し、この活動に参加しています。様々なバックグラウンドを持つバディたちは、なぜWe are Buddiesに参加し、活動を通してどんなことを感じているのでしょうか。 この"Buddy's Voice" の連載では、様々な視点からこのプロジェクトを捉え、その意義を探求するべく、バディたちの生の声を届けていきます。
第8回となる今回は、Buddy’s Voice vol.7 でインタビューを受けた飯塚杏奈さんがインタビュアーとライティングを担当しました。
インタビューを受けてくれたのは、食品メーカー勤務の久野雄大さん。昨年10月から、バディとして、小学校3年生の男の子A君と月に2回程度、直接会って共に時間を過ごしています。久野さんとインタビュアーの飯塚さんは同じご家庭の兄妹のバディを担当しており、みんなで一緒に遊ぶ事はあるものの、お互いのバディに対する気持ちを聞く機会はほとんど無く、久野さんも飯塚さんもこの機会をとても楽しみにしていたようです。
飯塚杏奈(以下、杏奈):こんにちは〜!よろしくお願いします。今日はお話しできるのを楽しみにしていました!雄大さんのバディ相手のA君はどんなお子さんですか?
久野雄大(以下、雄大):A君は「これやりたい!あれやりたい!」と素直に言ってくれます。顔合わせのときは、初対面の僕に「キャッチボールしよう!」と声を掛けてくれて、50球くらい投げて遊びました。お互い緊張せずにバディを始められたと思います。帰り道、A君から手を繋いでくれて、「今後のバディの活動は楽しくなりそう!」と感じたことを覚えています。
杏奈:A君アクティブですね!私もA君と何度か会っていますが、初対面で抱いた印象よりもとても積極的でした。
雄大:そう!あとちゃんと自分の意思を持っているし、優しい子です。
以前A君と僕とA君の妹のEちゃん(杏奈さんのバディ相手)と3人で公園で遊んでいる時、A君はEちゃんのためにメリーゴーランドの遊具を回してあげていました。A君って優しいんだな、妹思いの一面もあるんだな~と思った事が印象に残っています。
杏奈:優しいお兄ちゃんですね。
相手の事を考え、嫌だと思ったら相手に伝える
杏奈:雄大さんはバディをやる上で決めている事はありますか?
雄大:ダメと言わない事。A君に何かを押し付けない事。A君と対等な関係でいたいなと思っています。
杏奈:ほうほう。
雄大:ただ遊んでいるだけでも、お互いの気持ちを大切にしながら過ごしたいなと思うんです。人と関わる上でルールはあるでしょ?例えば、卓球を一緒にする時、A君は上手くできないと適当に球を投げたり打ったりしてしまうときがあります。
僕は、A君が卓球を上手くできずに適当に打ったり投げたりすることに関してダメとは言わないし、最初は好きにやらせます。これはA君が僕の存在に慣れてくれて、甘えてくれている証拠だとも思うので。ただ、何度もそれが続いてしまう時は、僕の事を考えてくれていないなと感じます。
このまま遊んでも2人で楽しく遊べないと思うので「A君がそんな風に卓球をやるなら、僕はつまんないよ。」と伝えたり、態度で示すようにしています。A君と同じ目線であろうとするからこそ、こちらの感じた事もちゃんと伝えることを心がけています。
杏奈:すごい!それはお互いの気持ちを考えていないとできないですね。
雄大:自分は親でもないし、いい意味で何かをしなければならない立場ではない。だからA君が小学校で友達と遊ぶ時と同じで、1人の人間として、自分とA君の間で自然とルールを決めている感じです。
少しサバサバとしているように聞こえるかもしれないけど、親でも先生でもない第三者として、フラットにお子さんと関わる事は、We are Buddies の考え方にもつながっているのかなと思います。気負わずにやっていけたらなと!
ただ目の前の時間を楽しむ
杏奈:雄大さんが気負わずにバディを続けてきて、ご自身の中で変化はありましたか?
雄大:変化か〜最初バディをやる時に期待をしていた自分もいました。何か仕事に活かせる学びがあるんじゃないか。何か自分が成長するんじゃないかとかね。何かを得る為にバディを始めた自分もいたと思います。
雄大:でも、今はそういう事を考えなくなったんです。余計な事を考えずに、ただただ目の前のA君と楽しく遊ぶだけで良いな。A君と過ごす瞬間を大切にするだけで十分だな、と思うようになりました。これが変化かな?最初はA君が楽しんでくれるにはどうしたら良いか考えていたけど、まずはA君がやりたい事を一緒に楽しむという事を大切にしています。
杏奈:それすごく分かります。私も最初は自分が得るものがあるのではないかとバディを始めた部分がありました。でも始めてみたら、ただバディの時間を楽しむとか、1対1で関係性を作るとか、人間として生きる上で大切な事をお子さんから教えてもらいました。
雄大:確かに。そうですね。日々仕事に追われる中で目の前のA君に向き合う時間は大切だな〜と。あと、いい意味で周りに期待しすぎないようになりました。「自分はこうしたから相手も何かしてくれる」という見返りを求めてはいけないなと。期待通りにいかないことが当たり前ですしね。
そう感じられるのもA君のおかげだなと感謝しています。そして、周りにお母さんがいて、妹さんがいて、この関係が成り立っていると思うので、2人にも感謝しています。
バディをやるとき、A君と2人で遊ぶ前に、お母さんや妹のEちゃんも一緒に4人でランチに行くことがよくあります。その後、A君と僕は2人で公園に行くなどして、バディの時間が始まるのですが、4人でいるときはEちゃんやお母さんとの会話を大事にしていますね。特に、Eちゃんは杏奈さんがいないと寂しそうにしているから、A君だけでなくEちゃんのこともやっぱり気になる。「Eちゃん今日なにするのー?」と話しかけるとすごく嬉しそうだし、僕がいないときは、杏奈さんの番ですね。兄妹にそれぞれバディがいるとみんなでチームみたいで面白いですよね。
杏奈:バディをするA君だけでなく、周りの人に対して感謝している雄大さんの姿勢が素晴らしいです…
バディがジワジワ広がって欲しい
雄大:あと、1つ嬉しい事があって。この間A君のお母さんとお話しした時、「私の知り合いのお母さんが、自分の子どもにもバディをつけたいと言っているの。」と聞きました。ジワジワとバディの活動が浸透していて、すごく嬉しかったし、素敵だなと感じました。
杏奈:その言葉嬉しすぎますね。
雄大:ですよね〜これって少なくとも、僕と杏奈さんがやっている活動がA君の家族にとってポジティブに働いた結果なんじゃないかと思って。
雄大:参加している保護者の方が周りに広めてくれることで、「バディをやって良かった」「この活動を通して世の中が少しでもポジティブになっているんだな」という実感が得られます。また、We are Buddiesとしても活動の広がりを計るひとつの指標になるのかな、と思いました。
この活動がジワジワ広がっていく事は、A君や社会に対して小さくても良い影響を与えるんじゃないかと思っています。
杏奈:バディの活動が徐々に広がっていくと嬉しいですね。
手触り感をもって社会とつながれる
杏奈:雄大さんはパートナーがいらっしゃると思いますが、今後お子さんができたときに、A君との関係はどのように変化し、この経験はご自身の子育てにどのように影響すると思いますか。
雄大:おお、なるほど。自分に子どもがいる想像がつかないから、この経験がどう活きるか、何をしてあげられるかについては正直分からないです。ただ、自分の子どもにバディや第三者の大人、普段はつながれない人と接する機会というのは、つくってあげたいなと思います。
自分も小さい頃にいろんな価値観や大人に触れてみたかったな、A君いいなあと思って、バディをやっているので。もちろん、強制をするわけではないですが、子どもが嫌じゃなければバディをつけたいです。
雄大:そして、自分の子どもができてもバディは続けますね。どれだけ子育てが大変かもやってみないと分からないけれど、家庭でも話をして、できることならやっぱりやりたい。バディの活動は、すごく小さいけれど身近なところから絶対に良いことが起こっているから、自分の子どもがいるかいないか関係なく続けていきたい。
バディは、子どもを育てなきゃと思わずに、良い意味で期待をせず、フラットにいられるからこそ、続けられるんだと思います。少しでもやりたいなと思った人はぜひ参加してみてほしいなと思います。
杏奈:この記事を読んでくださっている方に、伝えたいことはありますか。
雄大:バディの活動は非常に尊くて、手触り感のある素敵な営みだということを知ってもらえたら嬉しいですね。目標に向けて頑張ったり、努力して成長したり、成果を出して何かを成し遂げることもとても素敵なことだけど、バディの活動は気負うことなく、ただただ純粋な気持ちで目の前の子ども、一人の人と向き合いながら関係構築をしていくことができます。こうした貴重な経験を通して社会とつながりがもてるんです。面白そうだな、興味深いなと、少しでも心が動いたら、ぜひ参加してみてください。
編集後記
雄大さんの考え方に学ぶ事が沢山ありました!!
これからも兄妹バディとして情報共有しながら、子供達と過ごす時間を大切にしたいです。
それでは、次回もお楽しみに!
INTERVIEW & TEXT :飯塚杏奈
PHOTOGRAPH:清水陽子
EDITING:西角綾夏