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三笘薫を輩出した理由…現場で指示を出さない!?小井土正亮が明かす筑波大のリアル|サッカーパパ・ママが知るべき最先端理論

6月22日・23日に開催された「WHITE BOARD CONFERENCE」では、「親が変われば、子供の未来が変わる」をテーマに、日本トップクラスの講師陣が登壇。世界で戦う選手の育成に必要なメソッドやマインドを余すことなく伝えた。

6月22日のセッション4に登壇したのは、小井土正亮だ。筑波大学体育系助教授であり蹴球部の監督は、どのようにして多数のプロ選手を輩出する組織を築き上げたのか。「自分はなにもしていない」という発言の真意とはいったい。“世界のIMTOMA”三笘薫を生んだ筑波大のセルフマネジメント術の全貌が明かされる。

2015年の主将・早川史哉の言葉

パワーポイントでつくったプレゼン資料をスクリーンに投影し、ポインターとマイクを使って語りかける。その姿は、まさに先生そのもの。参加者との掛け合いを織り交ぜて笑いを誘いつつも、たしかな学びを提供していく。オフィスビルが立ち並ぶ六本木の会場が、一気に大学の教室へと変化した。

「三笘を育てたつもりはありません。それに今日の試合も会場で一言も指示を出していないんですよ」

登壇前、筑波大は公式戦を戦っていたのだが、試合後にすぐさま会場へと向かって来たのだ。開口一番にポロッとこぼれたこの言葉が、筑波大学蹴球部の根幹を表している。そう感じる25分間の講義の後、筑波大学蹴球部テクニカルアドバイザーでもある中西哲生との緊急対談という、2部構成で行われた。

第1部の講義テーマは「大学サッカーの現状」と「セルフマネジメントできる人材の育成」について。

スクリーンには2022年のカタールワールドカップを戦った日本代表メンバーの顔が並ぶと、大卒の選手の人数を参加者に問いかけるところからスタートする。正解は26人中「9人」だ。そのほとんどがアンダーカテゴリーの代表に入っていない選手であり、大学の4年間で飛躍的に成長して代表メンバーをつかみ取った。「では、大学には何があるのか?」という導入で参加者を引き込んでいく。

筑波大学蹴球部は選手・学生が自主的に組織を運営している。年始には学生の主務がミッション、ビジョン、アクションをベースとする組織のあり方に関する資料を作成し、部員にプレゼンして、約180名の集団の方向性を示す。大所帯が指針にするものであるため、監督が全てを構築するものだと想像するが、学生の自発的な取り組みだと言う。

本セッションでは、実際に学生が作成した資料も提示しながら、学生の手でどのようなものを築き上げているのかが説明された。

学生が自分たちで築く。現体制となったターニングポイントは、2015年のことだ。2014年に戦後初となる関東大学リーグ2部への降格を経験し、1年での昇格を決めた試合直後のことだった。当時の主将・早川史哉(卒業後はアルビレックス新潟へ加入)は応援に駆けつけたOBに対して、「必ず大学サッカーをけん引する存在になっていきます」と力強く宣言した。

これを聞いた小井戸は「大学サッカーをけん引する」という言葉を大切にしようと考え始めたようだ。

「蹴球部は今年で創部127年目です。歴史が我々をつくっているのではなく、常に新しいこと、大事なことは筋を通すこと。伝統を守ればいいのではなく、どんどん自分たちから動いて歴史を刻んでいくという考えのもと、2015年から組織の体制が大きく変わってきました」

その後は筑波大学蹴球部を形成する各グループごとに、学生による運営の形を示していく。天皇杯でのFC町田ゼルビア戦の勝利に大きく貢献した分析や、20社以上のスポンサーを獲得する学生の電話営業、グラウンドに地域の人を呼ぶ「きりの葉祭り」など、独自の取り組みには感嘆の声も挙がった。

三笘薫が備える特殊能力

世界最高峰の舞台で活躍する三笘薫のすごさとは何か。独力で相手を突破するドリブルとスピードを思い浮かべる人も多いだろう。大学時代の三笘を指導した小井戸は、「マインドセット」だと答えた。

日本最高峰のドリブラーが、19歳の時に作成したセルフマネジメントシートが特別にスクリーンに映し出された。項目は3つだ。「なりたい自分」「今の自分」「『なりたい自分』になるためにどうする?」。ピッチ内外を問わず、いつまでに、何を、どうするのか。選手が現状の自分自身を見つめ直し、理想の自分になるために思考を巡らせ、それを行動に移していく。成長のための設計図のようなもので、三笘はすべての項目を枠内にびっしりと書き連ねていた。

大学生とは言え、自分を客観視して文字にすることは難しく、偏差値の高い筑波大の生徒でも全員が紙が埋まるほど詳細に書けるわけではないようだ。

東京五輪に出場する。22歳で日本代表に選ばれる。23歳で海外移籍する……など、なりたい自分を細かな年齢と一緒に記している。そこから「今の自分」と「『なりたい自分』になるためにどうする?」を詳細に記し、1年生の冬に描いた理想に向けて必要なことをやり切り、そして彼は、本当に叶えてみせたのだ。

「自分を客観視し、それを言語化し、実現するために必要なアクションを定義して実行する。そのサイクルをつくって回す力が飛び抜けていました」

その能力はどのようにして身につけられたのか。小井土監督は当時の三笘を振り返りながら「読書の重要性」に触れた。

第1部の最後は、セルフマネジメントできる人材を育てるために必要な環境について語られた。実際の人間教育で大切にしている、「尊敬」「信頼」「感動」の3つのキーワードを軸にした理論は目から鱗であり、写真や動画を撮る参加者のスマートフォンの数が増え、ノートの上を走るペンのスピードも速まった。

濃密な第1部が終わると、すぐに第2部へ。テクニカルアドバイザーを務める中西が「筑波の学生と出会って、人生が変わった」と切り出し、強烈な向上心をもつ選手の集合体がどのようにつくられたのか、なぜ人間力の高い選手が多いのかなど、実際の指導で感じた疑問を小井土監督にぶつける形で進行していく。

「空いた時間はすべて筑波大に行く」と決め、現場に通い詰める中西だからこそ引き出せる論点ばかりで、徐々に筑波大の正体が見えてくる。

選手には少しでも大きく成長してほしい。そんな熱に満ちたトークは約24分ノンストップで展開され、参加者は内容盛りだくさんの“4時間目の授業”を最後まで意欲的に受講していた。

【冒頭4分公開 #04】
小井土正亮(+中西哲生)
「世界の三笘薫をつくった筑波大のセルフマネジメント術」

【アーカイブ映像販売開始】


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