ブランド・エクステンション 既存のブランドを生かして新商品を投入する
「あれっ?また新商品出てる!」。コンビニやスーパーでは、頻繁に新商品が投入されていることを僕たちは日々実感します。
このような現状ですから、そのつど新しいブランドを1から立ち上げて市場に投入することは手間がかかることだと了解するのはたやすいでしょう。したがって、既に確立されたブランド名をそのまま使用して、新しい製品やサービスを市場に導入するブランド・エクステンション(brand extension)という戦略が重要な役割を果たすことになります。
企業が存続するためには新製品の市場投入は必要不可欠です。このことも、ブランド・エクステンションについて知らなければならない大きな理由です。
本記事では、ひとたび構築されたブランドを活用する代表的手法であるブランド・エクステンションを解説します。第1章では、ブランド・エクステンションの効果、第2章ではブランド・エクステンションの種類、第3章では消費者によるブランド・エクステンションの評価、第4章ではブランド・エクステンションの実施ための4つの条件を示します。
ブランドとはそもそも何かということについては、以前記事を書いていますので、そちらを参照してみてください!
なお、本記事の論述の多くは坂下玄哲「ブランド・エクステンション」、杉本徹雄編『マーケティングと広告の心理学』、朝倉書店、2013年に依拠しています。
1. ブランド・エクステンションの効果
ケラー(Keller)の定義によれば、ブランド・エクステンションとは「企業が新製品導入の際に、すでに確立されているブランド・ネームを用いること」です。このとき、ブランド・エクステンションを生み出すもととなる既存ブランを親ブランドと呼びます。
ブランド・エクステンションは様々な局面に好ましい効果をもたらす一方で、好ましくない効果を派生させる危険も伴います。本章では、ブランド・エクステンションのメリットとデメリットを解説します。
その際、特に消費者、流通業者、競合他社、自社という4つの視点からそれぞれ整理することとします。
1.1 ブランド・エクステンションの好ましい効果
1.1.1 消費者
まず消費者にとっては、ブランド・エクステンションによる新製品は受け入れやすいものです。なぜなら、まったく未知のブランドよりも自分にとって馴染みのあるのブランドのほうが知覚リスクが低く感じられるからです。つまり、あれこれ考えて購入する必要度が下がるということです!
また、同じブランドで様々な製品やサービスを展開すると、消費者のバラエティ・シーキング(variety-seeking)に対応できます。例えば、僕は(ジュースと称して)サントリーの「ほろよい」というお酒をよく飲むのですが、「ほろよい」にはいろんなフレーバーがあり、飽きることがありません。このように、消費者に自社ブランド内で多種多様な商品を回遊させる手法も有効なのです。(僕はサントリーの沼にはまっているのです!)
この手法は、既存のブランドの関連商品が、新たな顧客層を獲得することにも意味します。
1.1.2 流通業者
卸売や小売などの流通業者からすると、ブランド・エクステンションによって、流通経路や棚スペースの確保が簡易化されることが考えられます。すなわち、既存のブランドを基準に流通させることができるということです。
会社と流通業者の関係に注目しましょう。会社が同じブランド・ネームで商品を複数展開すればするほど、流通業者は依存度を高めていくと言えるでしょう。これは結果として、企業が流通に対する交渉力を強めるでしょう(僕はこの記述からは黒いイメージを受けちゃいます)。
1.1.3 競合他社
自社ブランドによる製品を複数展開することによって、ライバル企業の参入をブロックすることができることができます。
また自社ブランドを継続的に活用することで他社と差別化し、親ブランドのポジショニングを確立できます。
1.1.4 自社
自社にとっては、同じブランド・ネームを使用することによって、プロモーション支出やパッケージング、ラベリングの効率化を得たり、導入やフォローアップのためのマーケティングコストを減らしたりすることができます。
また、新しいブランドを開発するにはけっこうなお金がかかりますから、これを回避することにもつながります。親ブランドの意味の明確化やイメージの向上にも貢献します。
1.2 ブランド・エクステンションの好ましくない効果
1.2.1 消費者
あまりに多くの製品やサービスが展開されると、消費者が混乱したり、失望したりすることがあります。いらない選択肢が増えても困るだけです。
1.2.2 流通業者
流通業者からすると、過度なエクステンションは取引や管理を煩雑化させるので、うざったく感じられることがあります。小売だと、棚が圧迫され、店頭管理が煩わしくなるということが考えられます。
1.2.3 競合他社
自社のエクステンションが、競合他社のエクステンションを誘引し、競争が加速してしまうということがあります。また、エクステンションはヒトやカネなどの資源の分散をもたらします。
1.2.4 自社
エクステンション製品の失敗は、親ブランドのイメージを損なう可能性があります。一方、たとえ成功したとしても、親ブランドと共食いしてしまうこともあります。
以上、本章ではブランド・エクステンションの効果について説明しました。
2. ブランド・エクステンションの種類
ブランド・エクステンションには、大きく2つのタイプがあります。すなわち、ライン・エクステンションと、カテゴリー・エクステンションの2つです。本章では、それら2つの種類を見ていきます。
2.1 ライン・エクステンション
ライン・エクステンションとは、親ブランドと同一の製品カテゴリーにおいて、親ブランドを用いて新製品を導入することを指します。例えば、お菓子や飲料メーカーが季節の期間限定フレーバーを出すことがそうです。
ブランド・エクステンションにおいては、ライン・エクステンションが後述するカテゴリー・エクステンションよりも頻繁に使用されます。なぜライン・エクステンションが採用されやすいのでしょうか。
その理由は、ライン・エクステンションが相対的に低コストかつ低リスクだからです。つまり、新ブランドを市場に導入するより開発期間が短く、導入コストが安いからです。
ただ一方で、ライン・エクステンションにはネガティブな側面もあります。例えば、新たな商品が次々に投入されると、顧客の特定の商品への愛着心(ロイヤルティ)が低下します。また新たなブランドを立ち上げる機会を喪失してしまうこともあるでしょう。
2.2 カテゴリー・エクステンション
カテゴリー・エクステンションとは、親ブランドとは異なる製品カテゴリーに、親ブランドを用いて新製品を導入することを指します。例えば、ソニーが金融領域に進出したり、富士フイルムがヘルスケア領域に進出したりしています。
カテゴリー・エクステンションのポイントは、複数の製品カテゴリーにまたがる親ブランドを、全体としてどのように方向付けていくか事前に十分な検討を加えることです。消費者はまず親ブランドの知識でもって新商品を受け入れるのだという点を気をつけましょう。
例えば、僕がいきなり化粧品に関するnoteの記事書き出したら、読者のみなさんは戸惑うでしょう(いまのところ書く予定はありません)。それは、僕のイメージにそぐわないからです。
3. 消費者によるブランド・エクステンションの評価
本章では、ブランド・エクステンションの消費者による評価について検討します。
ブランド・エクステンションによって導入された製品やサービスに対して消費者はどのような反応を示すのでしょうか。
この問題について考えるために、心理学に由来する概念であるカテゴライゼーション(categorization)について紹介しましょう。カテゴライゼーションとは、僕たちが外界のものを認知し、それが何であるかを知ることは、それを分類(カテゴリー化)する作業に他ならないということです。新しい情報(刺激)に接する際に、人はあらかじめ記憶内に保有する知識のまとまり(スキーマ)に基づいて、能動的に理解しようとするのです。
ブランド・エクステンションにおいては、消費者は既知の親ブランドの知識を基準に新しい製品を評価するということです。この評価は、2つの段階によって捉えられます。
まず、親ブランドと新製品が調和しているかがまず評価されます。その次に、調和している場合、親ブランドに結びつける形で評価します。調和していない場合、エクステンション製品が個別的に評価されます。
例えば、ソニーは家電だというイメージでソニーのゲームを買うとしましょう。その場合、ゲームの評価はそのままソニーの評価に結びつけられる可能性が高いです。一方、同じソニーでも金融に関してだったら、「いくらソニーとはいえ、金融は金融として評価しよう」と考える人が増えると思います。
4. ブランド・エクステンションの指針
最後に、ブランド・エクステンションを実施する際に消費者から好ましい反応を引き出すための4つの条件を提示しましょう。
第1に、親ブランドに対するある程度の認知と肯定的な連想を消費者が有していること。第2に、それら好ましい連想がブランド・エクステンションによって喚起されること。第3は親ブランドが保有する否定的な連想がエクステンション製品に移行しないこと。第4は否定的な連想がブランド・エクステンションによって生じないこと。これら、4つです。
5. まとめ
本記事では、ブランド・エクステンションについて解説しました。改めて確認すると、ブランド・エクステンションとは「企業が新製品導入の際に、すでに確立されているブランド・ネームを用いること」です。
ブランド・エクステンションは企業にポジティブな効果をもたらしますが、ネガティブな効果をもたらしてしまうこともありますから、注意しましょう。
ブランド・エクステンションには大きく2つの種類がありました。1つは、ライン・エクステンション、もう1つはカテゴリー・エクステンションです。いずれの場合で新商品を投入しても、消費者は親ブランドの知識をもとに評価します。
ブランド・エクステンションを実施する際には、本当にすべきかどうかを十分に検討する必要があるでしょう。
うぇいから一言
僕の「うぇいくん」も、noteやYouTube以外の使用――例えば、グッズ化までされたら、ブランド・エクステンションといるのでしょうか?
うぇいくんの第一の役割は、僕のnoteやYouTubeを文字以外でサポートするというものです。
けれども、せっかくこんないいキャラがこの世に生み出されたので、うぇい君自身が主役となって活躍して欲しいと今では思っています。みなさん、よければ応援してください。
思考の材料
参考文献
その他
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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