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進化のハナシ 人間本性について考える

1. 「進化」って何なん?

人間とは何かという問題は、古来より哲学的な問題として考えられてきました。一方で、私たちがヒトという生物である以上、自分たちがどのような歴史をたどって現在の姿になったのかを考慮に入れることも、意味のあることでしょう。

人間の形態、脳の働き、行動特性といった人間本性(human nature)を作り上げてきたのは、私たちの祖先の長い進化の歴史なのです。

本記事では、そもそも「進化」とは何なのかを解説します。今回の解説で、「進化」という語の生物学的意味を理解しましょう。会社のサービスや技術の”進化”も、ポケモンの”進化”も、生物学的には進化じゃありません!

(なお、僕の専門は生物学ではなく哲学なので、もし誤り等がございましたらコメント欄でご指摘ください。)

2.1 自然淘汰

進化とは、生物の遺伝的な性質が、世代を経るごとに変化していく過程を指します。生物が持つ様々な形質のうち、遺伝子が何らかの形で関与していないものは、進化の対象になりません

文化的な知識は次世代へと受け継がれますが、遺伝的なものではないので生物進化ではないのです 。また、人が自分の一生のうちに何かが上手になったり(学習による向上)、あまり風邪をひかなくなったりすること(免疫獲得)なども進化じゃないです。

なぜ、世代を経ると遺伝子は変化するのでしょうか。その一つの理由は、それぞれの対立遺伝子ごとに、それを有する個体の生存と繁殖の確率が異なるという理由です。つまり、生存と繁殖の可能性を高めてくれる遺伝子が残りやすくなるのです。

そうして何世代かするうちに、遺伝子頻度が変わっていきます。このプロセスを、「自然淘汰(natural selection)」と呼びます 。「淘汰」と言われると冷たい印象を受けますが、元の語がselectionだから実は「自然選択」でもOKなのです。まぁでも自然淘汰が訳語として普及しているのが現状です。

2.2 中立進化

世代を経ると遺伝子が変化していくもう一つの理由は、まったくの偶然、すなわち「中立進化」と呼ばれるプロセスです。どの対立遺伝子であっても生存・繁殖率に差がない場合、世代を経るごとにある一つの対立遺伝子が集団に増えていくのか、減るのか、変わらないのかということは、毎世代サイコロを振るような偶然で変化します 。こうして集団中の遺伝子頻度が変化していくことが、中立進化なのです。

以上、遺伝子の変化には、中立進化と自然淘汰という2つのプロセスがあることがわかりました。ある形質が適応的なため自然淘汰で生じたのか、それともたまたま中立進化で生じたのかについては、個々の形質について十分検討しなければならないのです。

3.  適応及びその他の用語

3.1 適応

前節で、「適応」という言葉を使いました。進化を語るためには、適応という語にも触れなければなりません。生物学的に適応とは、個体が、その生きている環境との関係において、生存と繁殖を有利に行えるような形質を備えていることを指します 。別な言い方をすれば、いくつかの世代を超えて作用する過程、あるいはその過程によって生じたと考えられる形質です。前節でみた自然淘汰は、生物が進化し、適応的になっていくメカニズムであると言えます。

他にも進化論に関係がある用語があります。それらの用語については、過剰な説明を避けて、以下で最低限解説いたします。

3.2 過剰生殖

生物はたくさんの子を産む能力を持ち、親が生む子の数は大人になる子の数を上回るのが常です。そうじゃなきゃ、種が滅んじゃいますからね。

3.3 変異

同じ集団内の個体間には変異が見られます。この個体間の変異は遺伝的な場合と、新たな形質が現れる場合(突然変異)があります。

3.4 分岐

環境は時間とともに、また場所ごとに変化します。そのように変化する環境に適した遺伝的変異が淘汰されて残ります。したがって、もとは同一集団であっても異なる条件に適応するにつれて集団は分岐し、互いに異なる形質を持つことになるのです。もとの先祖は同じでも、地域差が生じるのはこのような理由なのです。

3.5 共通の祖先

地球上の生物の多様性は、はるか昔の共通の祖先から系統が分岐したことに由来します。すごいですね。これには、生命の神秘!と言いたくなります。

以上、本章では進化論を理解するための重要な用語を解説しました。

4. 進化に対するいくつかの誤解

進化という言葉に馴染みはあるものの、必ずしも学校で詳しく教わることはないので、世間には数々の誤解が出回っています。そのため、いくつかの誤解を解いておく必要があるでしょう。

まず、進化は進歩であるという誤解があります。進歩は、よりよいものに近づいていくという価値観を含む。一方、進化は遺伝子頻度の変化であり、自然淘汰上有利であると言っても、それは生存・繁殖率が高いと言っているにすぎないのです 。

また、適応は万能であるという誤解もあります。生物はその時々の環境に適応するように進化しますが、何か高みに向かって進歩するわけではありません。したがって、適応は完璧な形質を生み出しません 。ここから人間が進化の頂点に君臨しているわけではないこともわかります。

人間はたまたま現在のような姿になったのです。てゆーか、ヒトは水中で呼吸できないし、大きな脳が大量のエネルギーを使用するからその分の食物を摂取しなければならないじゃないですか。そのように考えると、水中とか食べ物が不足した状況には対応できないように人間は進化しちゃったと考えることもできます。

今生きている種は、それぞれの進化の歴史を歩んできているのです 。「人間が最強」という考え方は、人間が勝手に妄想してるだけなんですねっ!

5. まとめ

本記事では、進化論の基礎知識を紹介し、その後「進化」という語の誤解を晴らすことを試みました。繰り返せば、進化とは、生物の遺伝的な性質が世代を経るごとに変化していく過程のことなのです。その変化は、環境に適応的な遺伝子によって起こる場合と、偶然変化した遺伝子によって起こる場合があるのでした。

以上のことから、生物学での「進化」という語は、日常的に使われる意味と全然違うことがわかりますね。会社の技術の”進化”は、「前よりよくなったんですよ~」ってことでしょうし、ポケモンの”進化”は「強くてかっこよくなる」的な意味ですよね。

第4章でも言及しましたが、ほんとうは、進化は単なる変化で、価値観を含んでいないのです。この進化論と価値観・思想の関係性という問題については、また別の記事で書きたいと思います。

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生物学に関連して。結構考えて書いたマジメな記事です ↓


思考の材料

参考文献

カール・ジンマー&ダグラス・J・エムレン『カラー図解 進化の教科書 第2巻 進化の理論』更科功・石川牧子・国友良樹訳、講談社ブルーバックス、2017年

コリン・パターソン『現代進化学入門』馬渡駿輔・上原真澄・磯野直秀訳、岩波書店、2001年

長谷川眞理子、長谷川寿一『進化と人間行動』、放送大学教育振興会、2007年

その他

科学思想史の講義

心理学の講義

倫理学の講義

進化生態学入門:ポケモンの進化は進化じゃない? (本記事のサムネの文言はこの記事のほぼパクリになっちゃってますね泣。ポケモン・進化・誤解でググったら、たまたま同じような記事が見つかったのです)


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