魔法の言葉(悪い意味で)

また30年前の話です。

勉強に部活、毎日猛烈に厳しい指導の元に生活していた。それでもめげずに少しでも褒められ認められようと血を吐く思いで生活していた。

学業で上位に入り笑顔でテスト結果を家に持ち帰ると珍しく父が帰宅しており真っ先に見せろと言ってきた。

その時に言った言葉

「俺みたいに○○大学出ると会社で座ってるだけで給料もらえるぞ。他の人は汗水たらしてバカみたいだ。大学行ったら遊んでいても卒業できる。大変なのは高校までだ。大人になってラクしたかったらもっと勉強しろ」

怒号とダメ出しの毎日に辟易してはいたが、私にはぼんやりと夢があった。人が喜ぶ物を作りたい。具体的には分からないけど人の役に立つものを。今よりも苦労するかもしれないし報われないかもしれない。それでも人間社会の一員として役に立ちたい。

物理学、地球科学、有機化学の本を暇を見ては読み漁っていた。友達にからかわれないようにコッソリと。

座ったままで一生の大半を過ごすなんて絶対に嫌だ。座ったまま人を顎で使って給料をもらうなんて事は絶対にしたくない。私は決していい大学になんて行かない。

その日から勉強をぴたりと止めた。


部活で怪我人が続出した。

肘と肩の故障ならよくある話だが膝と足首の故障者が多い。その日の帰り道、主力メンバーと話し合い「ウサギ跳び」がまずいのではないかという結論に達した。その当時はもうウサギ跳びは時代遅れ、故障を招くだけでトレーニング効果は薄いと報道されていたので全員薄々気づいていた。

翌日にまた同じメンバーで話し合い、監督にウサギ跳び中止を訴えようという事になった。

そのまた翌日、意を決して練習が始まる前に監督のもとへ走った。いつものメンバーが監督の前で一列に揃い「お前から話せよ」「いやお前だろ」「いや俺は無理」と押しつけあい誰も話し出せずにいた。

「何の用だ。文句があるなら早くしろ」鬼の形相でこちらを睨んでいる。もう話す内容がバレているのではないかと思い冷や汗がでる。

たまらず私が口を開いた

「監督、怪我人が増えてます。全員ウサギ跳びの後です。テレビでもやってました。何かその。。。他に方法というか何というか。。。」歯切れの悪い言葉しか出ない。その後間髪をいれずに監督が言った言葉

「バカヤロー! お前たちなんか甲子園もオリンピックにも出れはしないんだよ。体格も才能も全然ダメだ。だから俺はなーお前たちの根性を鍛えてるんだよ!生意気な能書きなんて二度というな!」

「はい!すみませんでした!」ここだけはなぜか全員声がそろう。

その日から私達の野球は、つらいフリをし気合を入れてるフリをする競技に変わった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?