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どれもまごころ


 昔よくテレビで見たある芸能・有名人が彼のタクシーに乗ってきて、酒とか住居の話をした。今から和歌山のイオンでウォーキングの授業をすると言い、新幹線ではビールを一本飲んできたと言った。飯と酒は俺はセットだから。今俺がテレビに出ても、笑い物にされるだけだから。そういう番組が多い。そういう番組には出たくない。楽しく。面白く。まごころを持って。それがやっぱり一番だと思う。そんなことを明るくその人は言って、「金なんてなんぼあっても足らん」と言っていた。
 深夜、珍しく妙齢の女性がひとり乗ってきて、少し酔っていた。「東中島まで」と女性は言い、彼は「わからないのでナビを入れます」と言い、女性は「あら。最近始めたのかしら。頑張ってね。頑張ることは、いいことよ」と言った。それで私ね、私たちね、もう七十歳になるのだけどね、友達と会って呑んでいたの。ワインがね、二百円だったからね、激しく呑んできた。友達と会って、話して、呑む。これが私は本当に楽しくて、大事なことだと思ってる。息子も独り立ちしたしねえ、お兄さんいくつ? ああ、息子と同じくらいの歳やねえ。お兄さんさ、タクシーって儲かるの? 儲かるって言っても、会社に半分取られてるわけでしょう? お兄さんさ、頑張りなさい。会社を作るのよ。三台でも小さくても、会社を作って、儲けるのよ。そのために、いま勉強するのよ。小さくてもなんでもいいから自分でやって、それで今より儲けなさい。私は絶対そのほうがいいと思う。だって年収三百万なら、それなりの女が寄ってくる。年収九百万なら、根性の悪い女が寄ってくるの。でも年収一千万を越えると、性根も顔も申し分ないのが寄ってくるのよ。私は知ってるのよ。だからそれまで頑張るのよ。会社を作って、働いてお兄さん、いい女をはべらせるのよ。わはは、私ちょっとここで降りて、もう一杯呑んで帰るわ。
 彼はひとつ四百五十円の弁当を昼に食べて、とても美味しかったと思った。弁当にはかき揚げと塩サバとヘレカツも入っていて心があった。心があるぶん、ありがとうと思って美味しかった。年収やお金の話をしているときはありがとうと思わなかった。何か足りない、不足な表情をしてた。不足な表情じたい、悪いことでないのだろうけど、心は落ち着かなかった。心が落ち着いているときは、幸せな気持ちになっているので、なるべく心は落ち着かせていたいと思った。思って買い物や風呂に行った。
 コロッケ屋で、九十円のコロッケを五つ買うと、四百円でいいと言ってくれた。八百屋で、百三十円のオクラを、百円でいいと売ってくれた。風呂場では当たり前に皆裸だった。裸で挨拶したり、笑い合ったりした。コロッケを酒屋にあげたいと思って酒屋に行った。すると神社で汲んだという水をくれた。その水で焼酎を割って呑むと柔らかくて、心底美味しかった。

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