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青葉寄『夏に溺れる』感想(※ネタバレあり)

※この記事には『夏に溺れる』のネタバレを含みますのでご注意ください。







はじめに

青葉寄先生の『夏に溺れる』を読み終えた今、記憶がまだ新しいうちに感想のようなものを記そうと思う。

感想

10代の解像度がとても高いと感じた。
作者が10代とはいえ、ここまでリアルに表現できるのはすごいことだと思う。
私たちの年代の中学生の「陽キャ」の基準である薄い前髪や、すぐに広まる噂など。
新幹線のトンネルで電波が繋がらなくなるという、ちょっとした描写からも、青葉寄の優れた描写力が伺える。

また、ふたりの会話がとても好きだった。

「遊びに行こう、殺人者さん」

「俺たちカップルに見えてると思うよ」
「大変不本意です」

少しクスッと笑えるような、そんな微笑ましい会話劇だと思った。

「私たち、小説みたいだね」
「こういう美しい景色だけを見て、生きていければいいのに」

ふたりの会話ではこのような美しい台詞も登場する。

最後のシーンでは涙が溢れた。
凛はとっくにこの感情が恋だったと気付いていたのかもしれない。
しかしそれを認めたのは、光の死に際だった。
最後に残るのは聴覚。その言葉が本当だったらいいなと思う。もし光の耳に凛からの告白が届いていたなら、この物語はハッピーエンドであるともいえるかもしれない。

おまけ

151ページに「いつか観た映画の殺人鬼が〜」
とあるが、これは菅田将暉とSEKAI NO OWARIメンバーである深瀬慧が主演の『キャラクター』という映画のことであると考察した。

また、とあるシーンで私はこの曲が頭に流れた。(私はセカオワファンでもあるためついセカオワと結びつけてしまう)
SEKAI NO OWARIの「umbrella」だ。
この曲の歌詞では、自分を傘に例えており、愛する人には激しい雨が降り注いでいる。
自分がそばにいられるのは貴方に雨が降り注いでいる(=不幸)だから。貴方に降る雨が止んだら自分(=傘)は必要なくなる。
そのような歌詞だ。

光は凛の「不幸」による目の「深海」に惹かれた。その深海を、その原因ごと自分だけのものにしたいと思った。
光のその独占欲は紛れもなく愛だった。
とても歪で黒々としているが、愛なのだ。
『夏に溺れる』は光と凛の愛の物語だった。

☆余談(メロンブックス特典より)

「ナツノヒカル」
映画『タイタニック』の終盤のローズが自らを「ドーソン」と名乗るシーンが思い起こされた。

おわりに

切なく、美しい。
殺人ものなのにこんなに微笑ましくて爽やかなのは不思議に思えた。
キャッチコピーを付けるとしたら「新感覚!」とでも言おうか。

夏の終わりの物語。
『夏に溺れる』は私の今年の夏の一部になった。
青葉寄先生、ありがとう。

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