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【高校数学】軌跡・領域問題を捉える

割引あり

はじめに

高校数学の軌跡・領域の問題を正確に捉えるための教材を作成しました.
教材(pdfファイル)はこの記事の一番最後に置いてあります.
興味のある方はご購入ください.

教材の目次

教材の目次は次の通りです.
各章・節の始まりのページ数を括弧で示しています.

1 はじめに (1)
2 集合と論理(4)
2.1 命題と条件(4)
 コラム:「不等式を証明せよ」という問題文
2.2 集合(8)
2.3 条件どうし・集合どうし(9)
 コラム:「ならば」を否定する
3 写像とその値域(12)
3.1 写像とその値域の定義(12)
 コラム:存在性を除去する
3.2 「値域の定義」再考(15)
 コラム:関数の最小値・最大値を捉える
3.3 写像とその値域の例 (18)
 コラム:コンマを捉える
4 おわりに(25)

教材のねらい(本書「はじめに」より)

軌跡・領域の問題に対して,数学を学んでいる少なくない高校生が苦手意識をもっているようです.
私も,高校生であった当時は軌跡・領域の問題が苦手だったので,彼らが苦手意識をもつに至った理由は想像に難くありません.
以下に,実際の軌跡・領域の問題と,それに対するよくある答案を載せます.
この問題と答案を参照しながら,軌跡・領域問題で理解しがたいと思われる点を確認します.


問題.$${xy}$$平面上の点$${(x, y)}$$が$${x^2 + y^2 < 1}$$をみたしながら動くとき,点$${(x + y, xy)}$$の動く領域を求めよ.

答案.$${x + y = X}$$,$${xy = Y}$$とおく.
与えられた条件より$${(x + y)^2 - 2xy < 1}$$
つまり$${X^2 - 2Y < 1 \cdots①}$$
$${x, y}$$は$${t}$$の2次方程式$${t^2 - Xt + Y = 0 \cdots②}$$の2解である.
$${x, y}$$は実数であるから②の判別式$${X^2 - 4Y}$$は0以上である.
したがって$${X^2 - 4Y \geqq 0 \cdots③}$$
①,③で変数を$${x, y}$$に置き換えて
$${x^2 - 2y < 1 \cdots④}$$
$${x^2 - 4y \geqq 0 \cdots⑤}$$
よって,求めるべきは④,⑤で表される領域である.


高校生にとって理解しがたいと思われる事項は3点あります.
第一は,「実数条件」です.
軌跡・領域の問題の答案では,しばしば「実数条件」が登場します(上の答案にも登場しています).
この「実数条件」とはどのような条件なのでしょうか.
また,軌跡・領域の問題で「実数条件」が頻繁に現れる必然性は何でしょうか.

第二は,変数の置き換えです.
上の答案の最後では,$${X, Y}$$という変数がそれぞれ$${x, y}$$という変数に置き換えられてしまっています.
この操作も,軌跡・領域の問題の答案では頻出です.
変数を置き換えるという操作は,数学的にいかなる意味をもっているのでしょうか.
あるいは,変数を我々が勝手に置き換えてよい理由はどこにあるのでしょうか.

第三は,「逆の確認」です.
一般に,軌跡を求める際には「逆の確認」が必要であるとされています.
他方,上の答案のように,「逆の確認」を行っていないものも多くあります.
「逆の確認」とはどのような操作なのでしょうか.
また,軌跡を求める際に「逆の確認」を行わなければならないのはなぜでしょうか.
さらに,「逆の確認」の省略が許されるのはどのような場合でしょうか.

以上の疑問はすべて,軌跡・領域を求めるという操作の中身を理解すれば完全に解決します.
ところで,軌跡・領域を求める操作は,写像の値域を求めるという数学的な操作に対応します.
また,写像の値域を求めるという操作を理解するためには,集合と論理に関する基本的な知識を身につけておく必要があります.
そこで,このテキストを作成しました.

このテキストは2つの部分に分かれています.
前半では,後半の理解のために必要となる数学の基本的な文法(集合と論理)を解説しています.
具体的には,命題と条件,集合の基本事項についてまとめました.
高校数学で論理をしっかり教えようとする指導者のなかには,論理結合子の意味を真理表で与えるところから始める人もいます.
しかし,このテキストではそのスタイルを採用しませんでした.
少なくとも,このテキストの内容は,これまでの数学の学習で読者が培った古典論理の感覚と,自然言語の語感だけで十分に理解できると考えたからです.

後半では,写像や値域という新しい道具を導入し,それを軌跡・領域の典型的な問題に適用する様子をお見せします.
初見の人にとって,値域は受け入れるのが難しい概念かもしれません.
新概念への心理的抵抗をなるべく小さくするために,値域を導入することについて考える項目を用意しました.
また,世の中に出回るいい加減な記述式答案に対抗するために,丁寧な答案を掲げるように心がけました.
おそらく,論理に忠実に作られている類書の答案は,量化記号($${\forall, \exists}$$)を用いて記述された主張の同値変形を繰り返すことにより答えを得ているものが多いでしょう.
しかし,このテキストに量化記号は一度も(厳密には「一度しか」)登場しませんし,すべての答案で必要性と十分性とに分けて議論しています.

このテキストに量化記号を登場させなかった理由は,読者が「量化記号それ自体に(論理の)本質がある」という錯覚に陥るのを防ぐためです.
たしかに,量化記号は数学の主張を簡潔に表示するのに役立ちます.
この便利さゆえに,数学の論理的な議論で量化記号を積極的に使用していると,量化記号に論理の本質があるのでは,と思ってしまう気持ちはわからないでもありません.
しかし,本質の所在は量化記号が表そうとしている意味・内容(すなわち量化)であって,量化記号ではないのです.
なんとなれば,量化記号は量化を表現するためのたんなる「記号」に過ぎないからです.
読者には,この錯覚に陥ることなく,量化記号ではなく量化そのものを理解してほしいと願っています.

また,このテキストのすべての答案で必要性と十分性の議論を厳密に分けた理由は,その方が論理的なギャップの少ない答案を提示できると考えたからです.
たとえば,(量化記号と)同値変形を用いて上の問題に対する答案を作成すると次のようになります.


求める領域を$${W}$$とする.

$$
\begin{align*}
(X, Y) \in W &\iff \exists x \exists y (x^2 + y^2 < 1 \land X = x + y \land Y = xy) \\
&\iff \exists x \exists y ((x + y)^2 - 2xy < 1 \land X = x + y \land Y = xy) \\
&\iff \exists x \exists y (X^2 - 2Y < 1 \land X = x + y \land Y = xy) \\
&\iff X^2 - 2Y < 1 \land \exists x \exists y (X = x + y \land Y = xy) \\
&\iff X^2 - 2Y < 1 \land X^2 - 4Y \geqq 0
\end{align*}
$$

であるから,求めるべきは$${x^2 - 2y < 1}$$,$${x^2 - 4y \geqq 0}$$で表される領域である.


この答案は,各変形が同値であることの理由がまったく示されていない,という点に問題があります.
もっとも,自明な同値変形に理由を付す必要はありません.
たとえば,この答案の1回目から3回目までの変形は,明らかに同値であるものとして片付けても問題ないでしょう.
しかし,4回目と5回目の変形は,論理的なギャップをはらんでいるように思えてなりません.
一般に,同値変形にこだわった答案には論理的なギャップが生まれやすいのではないでしょうか.

反対に,同値変形にこだわらなければ,論理的なギャップのない答案を作ることができます.
この立場で上の問題に対する答案を作成すると,次のようになります.


求める領域を$${W}$$とする.
$${(X, Y) \in W}$$であるとせよ.
このとき,ある実数$${x, y}$$が存在して

$$
x^2 + y^2 < 1, \quad X = x+y, \quad Y = xy
$$

がすべて成り立つ.
その実数を$${x_0, y_0}$$とすると,$${x_0, y_0}$$は

$$
x_0^2 + y_0^2 < 1, \quad X = x_0+y_0, \quad Y = x_0y_0
$$

をすべてみたす.
第1式によって$${(x_0 + y_0)^2 - 2x_0y_0 < 1}$$であるから,これと第2式・第3式によって$${X^2 - 2Y < 1}$$となる.
また,実数$${x_0, y_0}$$がどんな値であったとしても,かならず

$$
(x_0 + y_0)^2 - 4x_0y_0 = (x_0 - y_0)^2 \geqq 0
$$

が成り立つから,$${X^2 - 4Y \geqq 0}$$となる.
逆に

$$
X^2 - 2Y < 1, \quad X^2 - 4Y \geqq 0
$$

がともに成り立つとせよ.
第2式により,実数$${x_0, y_0}$$を各々

$$
x_0 = \dfrac{X - \displaystyle\sqrt{X^2 - 4Y}}{2}, \quad y_0 = \dfrac{X + \displaystyle\sqrt{X^2 - 4Y}}{2}
$$

で定めることができる.
$${x_0, y_0}$$は

$$
x_0 + y_0 = X, \quad x_0y_0 = Y
$$

をともにみたす.
また,これらの式と第1式により,$${x_0^2 + y_0^2 < 1}$$である.
したがって,

$$
x_0^2 + y_0^2 < 1, \quad X = x_0 + y_0, \quad Y = x_0y_0
$$

がすべて成り立つ.
ゆえに,ある実数$${x, y}$$が存在して

$$
x^2 + y^2 < 1, \quad X = x + y, \quad Y = xy
$$

がすべて成立するから,$${(X, Y) \in W}$$である.
以上により,求めるべきは$${x^2 - 2y < 1}$$,$${x^2 - 4y \geqq 0}$$で表される各領域の共通部分である.


これまでの説明から明らかなように,このテキストのターゲットは軌跡・領域問題をこれから克服しようとする人たちにとどまりません.
このテキストは,量化記号・同値変形を使用する類書で軌跡・領域の分野を学んできた読者に対して,オルタナティブを提供するという側面をもっています.

教材(pdfファイル)

教材のサンプル(1ページ目)です.

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