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"マッチングさせたい"編集者 | きよもとちひろ

音楽、漫画、映画、お笑い、舞台・演劇ほか、広範なポップカルチャーを世界に繋ぐWebメディア『ナタリー』。最新かつ要注目のニュース、一捻り加えた切り口のインタビュー、鋭敏な語りで綴られるコラムなどなど、色とりどりの記事が各媒体で毎日更新されている。

なかでも『音楽ナタリー』の歴史は長く、2007年2月から現在まで、気鋭の若手にスポットライトを当てた特集やアーティストによる連載なども含めて、業界の動向を伝え続けている。

きよもとちひろはそんな媒体で、2014年からライター・編集を務めてきた。

編集未経験の当時アパレル店員だった彼女が、倍率3桁の競争をくぐり抜け、見習いからキャリアをスタート。

「勧められたらなんでもやってみる」柔軟な姿勢と、睡眠は3時間で充分というバイタリティをもって、取材現場を縦横無尽に駆け抜けて7年。もうすぐ9年目の今日、兼ねてからの友人からお誘いを受けて、とある部屋にやってきた。


「ようこそ、Flat Share Magazineへ」

ちひろんさん1

きよもと ちひろ
1990年8月7日生まれ。千葉県出身。10代の頃からアパレル販売員として勤務し、2012年6月に「ナタリー」の運営会社ナターシャに入社。1年半のアシスタント期間を経て、「音楽ナタリー」編集記者に。記事の編集、執筆、撮影に加え、近年では動画のディレクションなども担当している。趣味は料理と映画鑑賞。韓国語を勉強中。
聞き手:赤澤える(Flat Share Magazine)
書き手:ホンダユーキ


きよもとちひろさん、ようこそ

ちひろ:音楽ナタリーで編集記者として働いてます、きよもとちひろです。よろしくお願いします。

──お久しぶり! 『東京ガールズコレクション』以来かな。とにかく久しぶりだ、来てくれて嬉しい。今日は改めてちひろんの経歴とか仕事のことを聞きたいです。ナタリーは何年目なんだっけ?

ちひろ:私が22歳になる年に入ってるから、もうすぐ9年目かな。変化を求めるタイプでも転職してキャリアアップしたいタイプでもないから、気づいたらこんなに長くいた感じ。

──ナタリーに入る前は何してたの?

ちひろ:渋谷パルコに入っているアパレルショップで21歳まで働いてた。もともと洋服が好きで、高校卒業後の進路を決めるときに父に「文化服装学院に行きたい」って言ったんだけど、「お前は学費を払って学ぶのと、給料をもらいながら学ぶのどっちがいい?」と聞かれて、「それならお金をもらいながら学ぶ方がいいかも」って思ってアパレル販売の道に進んだよ。

──お父さん、すごいことを言う。

ちひろ:うちの両親は千葉でレストランを営んでいるんだけど、お父さんは小さい頃から料理が好きで中学を卒業してすぐに飲食店で修行を始めたらしくて。母も高校までしか出ていなくて演劇をやっていたの。
そういう家庭で生まれたから学歴コンプレックスがあったんだよね。「みんなが進学するなか私だけ学ぶのをやめていいんだろうか?」みたいな。その言い訳を探すために文化服装学院に行きたいって言ってたんだと思う。

一度は落ちてしまったナタリー

──アパレルで働き始めてどうだった?

ちひろ:販売員は向いてたね。もちろん数字を意識して売らなきゃいけない部分もあるけど、おすすめした服を買って喜んでもらえるということが一番嬉しかった気がするな。それで働くうちに店長をやるようになって。

──すごい。

ちひろ:でも私は組織の中で一番上に立つのは向いてないなと思ってる。

──そうかな? 何となく上を任されるタイプかと思ってたけど。

ちひろ:サブリーダータイプなんだよね。誰かをサポートするのが得意。0から1を作る人ではないしね。

──共通の友達と遊ぶときにちひろんの話になると「仕事ができる」でイメージが統一されてるのね。一緒に働いているわけでもないのに。だから前職でもすごかったんだろうなって。

ちひろ:それはどうだろう(笑)。もともと好きなことしかしたくないというポリシーがあって。私が好きなことって「音楽」「服」「食」なんだけど、最初に手を付けたアパレルは販売員や商品企画をやっているうちに、「この仕事は何年先までできるかな」と思うようになっていったの。
ある日お店に大好きなアーティストが来てくれて、そのときに少しお話をさせてもらって、「あぁ私ってすごく音楽好きだよなあ」って思い出して。

その頃はももいろクローバーZを筆頭にいろんな女性アイドルが好きだったんだけど、「ももクロといえばナタリーじゃん。そこで働けたら良いなぁ」と思ったんだよね。でも未経験だし……と思いつつ求人を覗いたらナタリーがECを始めるってことで物販経験のある人を募集してて。「これだ」と思ったんだよね。私が一番入りたいと思った音楽編集部ではないけど、会社って入ったもん勝ちでしょ?って採用面接を受けて、そして落ちた。

──えぇ!?

ちひろ:でも当時の取締役からすごく長い不採用のメールが来て。その内容がどう解釈しても、私を落としたことを後悔してる感じなの。「あれ?これはもうひと押しで入れるかも」と思って、「今回は残念でしたけど何か働き口はないんですかねぇ」みたいに返信したら、編集部のアシスタント募集があるよって教えてくれて、それにまた応募して入社したって流れ。

ちひろんさん7

倍率は200倍? 受かったのは私1人

──入社した当初はどんなことをしてたの?

ちひろ:いわゆる雑用だね。入ってから何人応募があったのか聞いたら......確か100人だか200人ぐらいだって言ってた。
数字はちょっと曖昧なんだけど、ちょうど映画『モテキ』が公開された後では初めてのアシスタント募集だったから応募が多かったみたい。映画の『モテキ』って主人公がナタリーの編集部のアシスタントなんだよね。だからその反響があったみたい。

──じゃあその反響で増えた志望者との競争に勝って入ったんだ。すごいね。何人受かったの?

ちひろ:1人だよ。

──え、すごすぎる。

ちひろ:アシスタントは未経験でも入れるから同じ考えで応募をした人が多かったんだと思う。だって私、それまでお店のブログで「こんにちは!今日のおすすめはこちら!」とか書いてたんだよ(笑)。ライブは好きだからよく行って自分用に記録はしていたけど。ずっと活字は好きだったし、文章を書くこと自体に苦手意識はなかったけど。

──向いてはいたんだ。

ちひろ:でも過去の私の文章を見ると全部直したい(笑)。昔のレポートとか、本当に見てて辛い。

──誰かに教えてもらって伸びていったのかな。

ちひろ:当時の編集長で、今は相談役になった大山卓也さんにマンツーマンでついて教えてもらったの。最初の頃はニュースのネタを拾ってきては書いて、大山さんに校正してもらって修正する毎日。

── 一人前になるまでどれぐらいかかったの?

ちひろ:あんまり覚えてないし、まだ1人前になったとも思ってない(笑)。でもアシスタントから編集部に入ったのは入社から1年半経った頃だね。大山さんに教えてもらいながら、ゴミを片付けたり、シュレッダーをかけたり、来客にお茶を出したり。
あと先輩の取材の文字起こしをさせてもらえたのは大きかったかな。その内容を聞いてると取材のやり方がなんとなくわかるから。手が腱鞘炎になるぐらい文字起こししたなぁ。

──大変だったインタビューはあった?

ちひろ:『きのこ帝国』の佐藤千亜妃さんへのインタビューだった。でもファンだったから、インタビューが始まったら緊張しすぎて用意してた質問が何も出てこなくなってさ。同席してくれた大山さんが私の質問状に書いてある質問をほぼ全部聞いてくれたんだよね。

──そういう失敗するイメージはなかったな。

ちひろ:やっぱり緊張するよ。インタビューは初対面なことも多いから会話の糸口を見つけるのが難しいし、時間も限られてるし。大好きな佐藤さんへのインタビューを失敗したというのが一番苦い思い出かも。

ちひろんさん5

特に記憶に残っている取材とは

──パニックになっちゃったことは他にもあるの?

ちひろ:佐藤さん以降はちゃんとしようと思ったからないかもなぁ。人から大変だったエピソードはよく聞くけどね。例えば「この曲にはどういう背景があったんですか?」って聞いたら、「かっこいいと思ったから」って返してくるロックバンドの人へのインタビューの話とか。

あと撮影の時にカメラマンとテンションが合わなくてピリついた現場とかはあるなあ。

──なるほどね。じゃあテンションが上がったインタビューはある?

ちひろ:三代目 J SOUL BROTHERSの登坂広臣さんかな。クールなイメージがあったから身構えていったんだけど、本当に優しくて。いろんな媒体に同じテーマで取材されて、同じような質問もされているはずなのに、1つひとつの質問に真摯に向き合ってくれて。
私が作品を聴いて感じたことを伝えたら「すごくわかって下さってますね」みたいに言ってくれた時は本当に嬉しかった。作り手の意図を汲めているかどうかって話してみないとわからないから。ステージでスターなのは当然として、裏でも変わらず素敵な人だなと思った。本当に良い人だったよ。この前も2年ぶりに取材させてもらったんだけど覚えてくれてて。

──だからあんなにファンがいるんだろうね。それにしてもすごい。そういう経験もできる仕事なんだね。

「アー写よりアー写」
ヤバイTシャツ屋さんの撮影秘話

ちひろ:人となりを知って思わずファンになっちゃうようなアーティストがたくさんいるんだけど、『ヤバイTシャツ屋さん』も取材してからめちゃくちゃ好きになった人たち。

──前に『ヤバイTシャツ屋さん』の撮影のためにタンクトップを探して走り回ってなかった…? しかも後藤壮太郎と!

ちひろ:そうそう。冬だったからどこでも売ってなくてさ。渋谷中探し回ったんだけどね。結局、天下のユニクロで買った。

──そこまでしてくれる人との撮影なら、きっと彼らも楽しんでくれただろうな。

ちひろ:そうだといいな。「アー写よりアー写」って言ってくれるファンの方もいたりして嬉しい。

──撮影にそこまでする媒体も珍しいよね。極論だけど、会議室で取材して撮影したら終わってしまう話でもあるのに。

ちひろ:時間があるなら何かしたいとは思うかなぁ。

──MICOちゃんも言ってた。アルバム『WATER』の特集の時のこと。

ちひろ:わんことの写真ね。MICOちゃんがずっと『ビション・フリーゼ』に会いたいって言ってたから、飼ってるスタイリストの方に頼んで連れてきてもらったんだよね。

──聞きたい内容的にビション・フリーゼがいる必要はないわけでしょう。でも連れていくとMICOちゃんが喜ぶから、だから色々と探したんだよねたぶん。それけっこう特殊だと思うよ。普通はやらないもん。

ちひろ:アーティストにも読者にも喜んでほしいんだよね。取材が終わって「あの取材なんだったんだろうな」とは思ってほしくないし、どうせなら楽しんでほしい。そういうエンタメ精神はあるかも。

ちひろんさん4

常にファンの目線に立って

──アーティストのこともよくツイートしてるから、そのファンがちひろんのTwitter見てるよね。アイドルグループのさくら学院とか。

ちひろ:彼女たちのことがずっと好きだったから、記事を書いてたんだよね。何をきっかけにファンの方が私のTwitterを見てくれるようになったかはわからないけど、今では公式のトークショーにも出させてもらってるよ。

──トークショーに出演とかないよね、普通。記事に対してファンが感謝のツイートをしてるんだけど、それナタリーじゃなくて、ちひろんに言ってるもんね。それってすごくない?

ちひろ:ありがたいよね。私は当たり前のことをしてると思ってるんだけど。

──ちひろんの「楽しんでもらいたい」ってプロフェッショナルな精神や態度に感謝してるんだと思うよ。

ちひろ:やるからにはとことんやって、「この人わかってるな」と思われたいかな。ナタリーのニュースには速い、フラット、ファン目線という指針があって。他の媒体を見ていて「それが知りたいんじゃないんだよなぁ」って私は思うことがあるから。
さくら学院の話で言うと、イベントの中でメンバーがボールを投げて、それが客席の何列目まで行くかを競ったことがあって。それ誰が1位だったかよりは「誰が何列目までボールを飛ばしたのか」を知りたいんじゃないかと思って全員分の記録を書いたり。そんな風にして、どのメンバーのファンにも楽しんでもらえるように書いてる。

──どんな人が見ているのかを考えて、楽しんでもらえるように書いてるんだね。

ちひろ:読者の想像はするね。

──ファンは記事が公開されるだけでも嬉しいけど、その内容が充実してたらより嬉しいよ。

ちひろ:記事は残っていくものだと思うからさ。過去のイベントを振り返る時に「あのライブそうだったよな」と思い出してもらえるように書いてる。だから毎回長いレポートになる。

──メンバーやファンが過去を振り返られるように書いてるんだ。

ちひろ:そう。ナタリーがなくならない以上、記事は残るから。

ちひろんさん2

アパレル販売員と編集者に共通するもの

──ちひろんの記事への考え方って、販売員をやってたときの“おすすめしたい”って感覚に繋がってない?

ちひろ:うん。紹介したいんだよね。人と人を繋げるのがそもそも好きだからよくうちでごはん会を開いたりするんだけど、それと近いものがあるかも。アーティストとファンを繋げるのもそうだし、洋服とお客さんもそう。マッチングさせたい。そこでうまくいってるのを遠くから見て「良かったね」って思ってたい。何かと何かが出会うことにはすごくエネルギーが必要だけど、読者がナタリーの記事を経由して、よりカジュアルに新しい何かと繋がれるのならそれはハッピーだなと思ってる。

──なるほどね。それにしてもめちゃくちゃ忙しそう。1ヶ月はどういう感じで過ぎていくの?

ちひろ:担当してる『THE RAMPAGE』のRIKUさんの連載が軸になってるね。この連載は前後編と動画と予告があって、それを毎週出してる。

──1日中休める日とかある?

ちひろ:あるけど、連載の次の対談相手を考えたり撮影のイメージを考えちゃう。仕事中でも時間が空くとずっとニュース書いてるし。だから最近はインプットが足りない。もともと月に2〜3本は映画館で映画を観ていたけど今は全然だし、フェスもないし。仕事柄アーティストによく会うから、感染リスクの高い人混みは避けてて。それにライブに行っても思う存分楽しめないから、人が集まる場にはあんまり行けないね。

──やっぱりプロだよ。

ちひろ:インプットと言えば、一昨年初めて海外に行ったのはいい刺激になったな。現地の英語を聞いてたら語学に興味が出て、K-POPが好きだから今は韓国語を勉強してる。
あと漫画を読むようになった。米津玄師さんと『BEASTARS』の作者の板垣巴留さんの対談を担当してほしいって言われた時に初めてちゃんと漫画を読んだんだけど、漫画ってこんなにおもしろいんだなと気づいて。それまでは全然読まなかったのに今は毎日読むよ。

──柔軟に吸収するね。

ちひろ:新しいことへの抵抗はないね。勧められたらとりあえずやる。合わないものもあるけど、試さないとわかんないし。そもそも「できないかも」「合わないかも」と思ってたら何もやれないから。できなかったら止めればいいだけだしね。

ちひろんさん3

多いときは月に記事を150本

──これまでにどのぐらい記事を書いてるの?

ちひろ:これが難しいところで、インタビュー、ニュース、レポート、記者会見の速報とか種類がいろいろあるからなぁ......本数だけで言うと、多い時で月にニュースを150本とインタビューが数本とか。

── 150本!?

ちひろ:もっと書ける人は200本とか書いてるよ。1日5本とか書いてると月100本は超えてくるから。ただニュースとインタビューはぜんぜん違う。例えばCD出してライブしますって内容のニュースを書くとしたら、CDの収録曲、ジャケットの担当者、ライブの情報、画像みたいな情報をまとめる感じだから時間はあんまりかからない。

──テンプレがあるんだ。私もプレスリリースを送ってニュースにしてもらったことあるし、なんとなくわかるかも。プレスリリースの情報を受け取っているからコピペして組み立てる部分もあると思うけど、ナタリーはちゃんとナタリーの記事らしくなってるし早いんだよね。

ちひろ:テンプレというか、要素を組み合わせるパズルみたいなものなんだよね。ナタリーはプレスのコピペで記事は書かないから、全部オリジナルの要素がある記事になってるよ。

──もうどこの媒体に行っても大丈夫じゃない?

ちひろ:いや、この仕事は向いてないのでは、と思うこともあるよ。


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