闇まで見つめる編集者 | 小林司
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闇まで見つめる編集者 | 小林司


初代グランプリの玉城ティナを筆頭に、既成のルールを物ともしない多彩多様な面々が受賞者に名を連ねてきたオーディション『ミスiD』。


10年目を迎えるこのオーディションを立ち上げた小林司は、グラビア企画『妄撮』や、水原希子二階堂ふみのフォトブックを手がけた講談社の編集者でもある。

そう、今では『ミスiD』実行委員長としての顔が目立つ小林だが、もとは一介の編集者だった。

それがなぜ、異色ともいえるオーディションを始め、心身ともにボロボロになりながらも、数万にものぼる応募者と対峙し続けてこられたのか。人生を懸けてぶつかりに来る誰かと、真剣に向き合ってこられたのか。

その理由や背景を知るために、『ミスiD』選考委員でもある彼女が、彼をこの部屋に招き入れる。今日も、住人たちと共に。

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小林司
講談社 編集者/ミスiD 実行委員長。
FRaU、VoCE、FRIDAYなどの雑誌編集や、「妄撮®」シリーズから美輪明宏、水原希子、二階堂ふみといった書籍編集の傍ら、2012年「ミスiD」を立ち上げ今年十年目に。今ではそっちがメインに。

「ミスiD2022」はこちらからチェック
 ▶️ https://miss-id.jp/2022 
聞き手:赤澤える(Flat Share Magazine)
書き手:ホンダユーキ

※ こちらの収録は7月中旬に実施いたしました。


小林司さん、ようこそ

小林司(以下、小林):講談社で編集者をしている小林です。2012年から『ミスiD』というオーディションを始めて今年で10年目です。よろしくお願いします。

──よろしくお願いします。今日は『ミスiD』を始める前の小林さんについても知りたいので、まずその話から入らせてください。『ミスiD』以前はどんなことをされていたんですか?

小林:新卒で講談社に入って、最初は女性誌『FRaU』の編集部にいました。当時、今はもうほとんどない隔週誌だったこともあって、明日校了だからとにかくやるという感じで、かなり働いてましたね。

──なるほど。そこから『ミスiD』にはどう繋がるんでしょう…?歴史のある講談社が『ミスiD』をやるのはかなり新しいことだったと思うんです。

小林:きっかけ自体は『ミスマガジン』という老舗のグラビアオーディションにあります。2012年頃にAKBグループの台頭でアイドル全盛時代が来て、アイドルが表紙のほうが売れるからグラビア業界全体が下火になったんですね。だから『ミスマガジン』で新人を発掘してもそこまで響かなくなっちゃって、一旦休止になったんです(編集部注:2018年から再び開催)。

そのとき『ミスマガジン』の営業担当が何かオーディションのアイデアがないかと探していて、白羽の矢が僕に立ちまして。僕は当時『FRaU』を離れて単行本の編集をしていて、水原希子ちゃんや二階堂ふみちゃんを見つけて1冊目のフォトブックを編集したり、エロいんだけどエロくない『妄撮』というグラビア企画をやっていて......
『妄撮』ってわかります?

──もちろんです。当時、グラビアタレント以外だけでなく読者モデルが登場したことに驚いた記憶があります。

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小林:そうそう。被写体は普通の服を着ているんだけど、一部分だけ紙が破れたようなデザインになっていて、そこが下着になってたりするグラビアでした。
男性版の『妄撮男子』もあって、これは紆余曲折あって『anan』でやりまして。他社の雑誌なんですけどね。うちの局長も「向こうが問題ないなら良いんじゃない」「本にするときはうちから出せればOK」ってことで。
たぶん両社の歴史上で唯一、クレジットに講談社とマガジンハウスが並びました。

──それは珍しい…!初めて耳にしました。

“何千人のなかの1人”ではないオーディションを

小林:この『妄撮』のほかにも女の子に関わるものを手がけていたので、「オーディションやらない?」と声がかかったんです。それでSNSに注目したんですよ。東日本震災の翌年でしたが、震災時はTwitterがめちゃくちゃ活躍しましたよね。

──そうでしたね。良くも悪くも影響力がありました。

小林:そう、誤情報とかもあって。ただ電話もネットも動かない状況でTwitterが動いているのはすごいなと衝撃でした。雑誌はこれに勝てないと思っていたんです。だからSNSを見ている、あるいはSNSしか見ていない、雑誌も買わない子たちにも届くようなオーディションをやりたいと思って企画し始めました。

──今ではいろんなジャンルの子たちが登竜門として捉えていたり、憧れていたり、『ミスiD』は大きな存在になっていると思います。

小林:シンプルにかわいい人はどこかの事務所に応募しますよね。ものすごい武器がある人、それが歌なら『THE FIRST TAKE』などに応募します。でも、そこで日の目を浴びる人は少ない。『THE FIRST TAKE』なんて何千人と受けた人がいたと思うんですけど、グランプリは1人です。
ただ、僕は「その1人の他にも良い人はいる」と思ってしまう質なんです。基本的にはみんな何かしらの1位なんですよ。だから何かの1位になれないことが負けでもないし、ダメでもないんです、絶対に。だから“何千人のなかの1人”じゃないオーディションがあっても良いなと。やっぱり編集者として「なんでこの人が世に出ていないんだろう?」って思っちゃうし。

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吉田豪、大森靖子、戸田真琴......
それぞれの視点は

──私は前回の『ミスiD2021』から選考委員として携わらせていただいていますが、関わりを持って初めてわかる凄さがありました。小林さんの熱量もそのひとつです。
オーディション中に「数ヶ月前にこういうツイートしてたよね」などと言葉をかけて話を引き出してる様子は、ほとんどカウンセラーのように見えることも多々ありました。それに小林さん、受けに来る全員のSNSだけでなく、裏アカウントやサブアカウントまでしっかりと見ていますよね。

小林:はい。

──そのことに驚いてそこから自然な表情になれる人がいたり、泣きながら「話を聞いてもらえただけで良いので、賞はいらないです」と訴える人がいたり、面接が思うようにいかず泣き出す子もいましたけど、それでも冷たく切らずに話を聞く。時間がかかっても、全員に対して可能な限りこれをやりきる。
このモチベーションはどこからくるんですか?

小林:単純に言えば、興味が尽きないからです。言い方によっては残酷ですが、おもしろいと思えないとやれないので。
いつも思うんですが、そのへんにいる人みんなにインタビューしたいんですよ、片っ端から。オーディションに参加するような女の子だけじゃなく、子供でもおっさんでも。とにかく話を聞いてみたい。人は好きなものも人生もそれぞれ違う、誰もがとんでもないストーリーを持っているかもしれない、そういう“外には見えない何か”を見つけることが純粋にゾクゾクするんですよね。

それに家族や恋人に言えないこともオーディションの場では言えたりするんですよ、懺悔室みたいに。この懺悔室は今で言う裏アカやサブアカなんだろうけど、見てくれる人は限定されるし、リアルな人間関係がある人に見つかると終わりですよね。家族や友達って意外に本当のことや心の闇は打ち明けにくいんです。だから『ミスiD』はある意味セーフティネットなのかもしれません。
まぁ、オーディションを受ける子も大体は緊張とか不安もあって黙ってしまうから、各々の琴線に触れるワードを知っておくことが必要で、必死に探してます。

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──だからその人のことをこんなにも知ろうとするんですね。その上で的確に相手の核に触れるワードを取り出してるから、小林さんってやっぱりプロの編集者だな…と感じます。
小林さんが集めた選考委員の皆さんも独特の視点をお持ちですよね。審美眼といいますか。

小林:吉田豪さんは興味がある人とそうでない人がはっきりしていて、やっかいな人や悩んでたり病んでいる人には人並外れて優しい。でも、『ミスiD』に出なくても生きていけそうな人にはほぼ興味を示さないんですね。だから逆に信頼できるんです。
大森靖子さんは女の子と向き合うのがライフワークみたいな人だから入り込んで見てくれるし、まこりん(戸田真琴さん)は心を見たい人だから、葛藤や闇を覗きに行くんです。佐久間宣行さんは、コンプレックスとかが表現として外に出るのを見てくれるので、そこを信頼してます。

ただ、僕は全員見ないといけないので。こぼれちゃう人がいたらいけないから、あくまで僕が全員を見た上で、それぞれの視点で選考委員に深堀りしてもらう感じが理想です。

──そうやって見ていった結果、錚々たる受賞者を排出しているわけですね。

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いまだにDMを見るのが怖い

──小林さんは『ミスiD』に没頭しながらも、ご家族と過ごす時間もしっかりと大切にされていますよね。仕事に忙殺されながらも、夫や父親という役割を楽しみながら担っているのが素晴らしいな、と思います。それに、家族のことをフランクに話してくれる一面が周りにより安心感を与えているような気もします。

小林:オーディションなんて傍から見れば怖いですもんね。僕も親ですし絶対に怪しいと思っちゃう。吉田豪さんの「地下アイドルの運営の8割は信用できない」​​という名言もありますが、本当に割とそんな世界で。配信事務所とかも含めて良いところももちろんありますが、一人で生きていきたい女の子たちにとっては、今はまだなかなか厳しい環境だと思います。

──センシティブな事情を抱えていたり、不安に感じながらも挑戦している人がたくさんいる場ですし、安心してもらうことは重要課題であり続けますね。

小林:はい。DMも開放してますし実際何百と来るので、下心があると思われたり怪しむ目で見られたとしても、それもしょうがないかなとは思ってます。ただそれもあって、選考委員は最初からほぼ半分女性にしてきてますし、子供の話なんかも隠さずして少しでも安心材料を増やしたいなと思ってます。

──手を出す気もなければ、そんな時間すらない印象です、小林さん。期間中の小林さん、本当にボロボロですもん。そこまでやり抜くのか……と、選考委員の皆さんと一緒に心配していました。

小林:去年の夏は、赤澤さんにもかなり付き合ってもらいましたけど、オンラインのカメラテストで600人ぐらい見ましたよね。10日間あって、1日80人とか。5分ずつ朝から画面が切り替わって、場所は島根だったり、どこかの公園だったり、実家だったり。一人一人テンションも違うから、そこに1回ずつチューニングをあわせないといけなくて、まあ軽く頭がおかしくなりますよね。
女の子たちはきちんと気を使って質問やDMをしてくれる人も多いですが、遠慮なく文句を言ったり喧嘩売ってくる人もいるし、いまだに朝起きてDMを見るのが怖いです。希死念慮を抱えてたり、いつ何があるかわからない365日なので、身体が休まらないところはありますね。

──私に届いたDMのなかに、「小林さんのおかげで今日は死ぬのを止めました」って子がいました。それを聞いた瞬間は、小林さんは一体どこまで対応しているのかと驚きましたが。

小林:DMが来なくても、本当にヤバいかもしれないツイートを見たらDMしたりもします。大丈夫ですか、と。最近は、この人がちょっと不穏ですと情報提供してくれる人も増えてるので助かってます。

──例えばどんな情報提供が?

小林:死ぬことを仄めかすようなツイートや配信をしてる、みたいなことですね。基本は大事にはならずに済みますが、そうじゃない場合は警察に動いてもらったり.......。

──編集者やオーディションの主催者としての領域を超越していませんか。

小林:さすがに身がもたないので、この状況は考えものだとは思ってます。ただ、これって『ライ麦畑でつかまえて』のホールデン少年が妹のフィービーに言う「だだっ広いライ麦畑の崖っぷちで、走り回って落ちそうな子供を片っ端から捕まえる」みたいな仕事だな、と思ってるんですよね。だから大変なのはもうしょうがないかなと。

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他人事じゃなくなる瞬間

──携わってから分かったことですが、『ミスiD』はオーディションなんて名では括れない特殊な仕事だと思いました。受けに来た人を通して自分に問いが突きつけられた気がして、なんだかこっちが見られている感じといいますか。

小林:あぁ、前にそれを言ってもらってめちゃくちゃ救われたんですよ。根本宗子さんや戸田真琴さんも「自分の仕事ぶりや生き方にめっちゃ返ってきた」と言ってて嬉しかったですね。確かにいわゆる“審査”みたいな感じじゃない。「この生き様をぶつけられて自分はどうなんだ?」となる。

──候補者が選考委員の前に立つじゃないですか。終了後にあのスペースに立ってみたんですけど、それだけで変な汗が出ました……。他の選考委員の方も、普段もっと大きな会場で大勢を相手にしている人でも、同じ反応でした。
今なんて選考委員がみんなマスクしてるから無表情に見えるでしょうし、距離もあるから余計に緊張するでしょうし、そのなかで1曲歌うとか自分の話をするとか…… もう想像できません。彼女たちは本当にすごい。

小林:うん。すごい。僕なんか、とてもじゃないけどできません。

──彼女たちを見ていると、必ず自身の反省に繋がります。
私は「自分を選んでほしい!」という素直な気持ちをいつも細かく殺しながら生きてきたのかもしれない、と気付かされるんです。オーディションが進めば進むほど、候補者にお会いすればするほど、「こんなに挑戦している姿勢を見せてもらってるのに、私はこのままで良いの?」という思いに駆られます。
毎日がそんな様子だったので、選考委員としての活動を通して、私自身に変化があった実感があります。

小林:赤澤さんみたいにそれを言葉にしてくれたり、自分ごとにしてくれるのが嬉しいです。それは“混ざる”ことだと思います。

──混ざる?

小林:本に書いてあることが自分の感情とリンクするみたいな、それが“混ざる”感覚だと思うんです。ある本に共感できないのは、その本が良い悪いという話ではなく、自分の人生にリンクしていないからで。
『ミスiD』もどこかでスーッと混ざってくる感覚があって、あの他人事じゃなくなる瞬間がおもしろい。だから赤澤さんも『ミスiD』を通して、自分の人生と受けに来た人の人生を混ぜてくれてるんだと思います。

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あの時の“赤澤える”を見て

小林:人生と言えば、初めて話したのは去年の春でしたっけ? そのときいろいろ話してくれましたよね。こっちから言うのもなんだな、と思っていたことを。

──「今の私が参加して大丈夫ですか?」なんて聞きましたよね。携わっている会社の社長に関連するニュースで世間を騒がせてしまっている、その渦中にいましたから……
あの頃は実際に大きな企画や取材、イベント登壇も全てキャンセルになって希望を失っていたので、『ミスiD』も当然ダメになるだろうと思っていました。それでもお声をかけてくださるから、「小林さん、もしやあのニュースをご存知ないんですか…?」とも聞きましたね。

小林:わざわざ自分から切り出してくれたのがすごいと思って、改めて信用したんですよ。あの件は別に赤澤さんが悪いわけではないのに、ちゃんと向き合っている、そこにすごい覚悟があるなと思ったんです。

──それに、実際に選考委員のお話しをお受けしたら、挑戦しにくる人たちは“どんな人に評価されるか”なんてことを気にしていなかったんですよね。自分の人生をさらけ出しにきているから、受け取る側が何者かなんて、むしろどうでもいい感じでした。それを見ていたら、改めて「どうにかして問題のある環境を抜けださないといけない」と思ったんですよね。

小林:実際に辞めちゃってますもんね。

──いろんな人の人生を知って、私の人生もまだまだこれから挑戦できるし、今はまだ本気でぶつかっていないかもしれないと気づいたので。

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(『ミスiD2021』にて、受賞者・詩羽を囲む小林さんと赤澤)


『ミスiD』っぽくないのにグランプリ?

──その時、“『ミスiD』っぽさ”についても話しましたよね。誰も定義していないのに存在する、概念的なものについて。

小林:よく「玉城ティナは『ミスiD』っぽくない」と言われるんですけど、

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