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優秀であることがハンディキャップになる時代に。

10年以上前に、同僚にこう言われたことがあります。
『安西さんは、自分の能力に負けている。』

ん。自分の能力に負けてる?どういうことだ。

説明を聞くと、どうやらこういうことらしい。

『あなたは器用で頭の回転が速くいろんな経験も知識も得ているから、必死に努力しなくても効率よくそれなりの結果を出してしまいます。そのことがあなたが本気で努力し、より良い結果を目指すことを阻害していると思う。』

当時はその本当の意味はよく分かっていませんでしたが、その後大学生相手にラクロスのコーチをしたり、会社のステージが変わっていったりするに従って、少しづつ理解できるようになりました。

今回は、その話をしようと思います。

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2010年にラクロス部のコーチを始めてから、いろいろな気づきがあります。その一つにこんなことがありました。

「より勉強熱心で知識がある選手ほど、チャレンジの幅が狭い傾向がある。」(※あくまで傾向です。全員がそうなわけではありません。)

この「チャレンジの幅」というのは例えば、
 ・練習メニューをガラッと変える
 ・チーム力を1段階高めるために、みんなで富士山に登る
 ・うまい人のプレーをとにかく信じて一旦真似てみる
 ・練習回数を思い切って減らす
 ・海外にラクロス遠征に行く
 ・違うスポーツに手を出してみる
といったような種類のことです。

”チャレンジの幅が広い”ということは、言い換えると「今の自分自身の価値観や、知識・経験の延長線上にない価値を見いだすことが出来るか?」ということだと考えています。

「より勉強熱心で知識がある選手」は、自身の知識と経験、価値観に照らし合わせて「自分が合理的だと考える成長方法」を採用する傾向が強い。なぜならば、90点の取り方を知っているから。その方法で成功してきたから。

言い換えると、「90点取れる方法を知っていると、60点になっちゃうリスクを取ってまで120点を目指すことはせずに、とりあえず91点を目指す」ということです。
そして、余計な試行錯誤が少ない分、90点に達するまではすごく早い。

より高い点数を取る方法を知っていればいるほど、この傾向は強くなります。

この傾向は、様々なものごとにみられます。
日本で中国に比べて電子決済が浸透しないのも、überが流行らないのも、大枠では似たような構造によるものだと思います。今がそれなりに便利なので「もっと便利にしよう!」というインセンティブが働きにくく、一方で「今便利であることに既得権益を持っている人たち」の抵抗は強い。

このことが「世界の平均点が上がり続けていく」という事実と組み合わさると、問題は顕在化します。
「90点を取ることのできる方法」で90点を取り続けても、世の中の平均点が上がっていけば相対的な価値(偏差値)は下がってしまいます。
「1つの成功パターンに拘ること」は、長期的にはリスクとなります。一種の「ゆでガエル現象」と言えるでしょう。

このことは、人間の認知機能と併せて考えると理解しやすいです。

人間は「知識として知っている(と思っている)こと」や「経験的に知っていること」を信用することにして行動することで、目覚ましい進歩をしてきました。
 ・物は上から下に落ちる
  (⇒次も落ちるだろう)
 ・雷が光ると、遅れて音が聞こえる
  (⇒次も遅れて聞こえるだろう)
 ・先生の言うことに従っていると、ほめられる
  (⇒ほめられたいから次も従おう)
 ・何度も続けて裏切られると、その人のことを信用しなくなる
  (⇒どうせ裏切られるから信用しないことにしよう)

「次は物が下に落ちないも知れない」みたいな疑いを持っていては、一向に話が進みません。これは、物理法則、社会の仕組み、人間の感情の仕組みなど、様々な場面に当てはまると思います。

ここで重要なのは、「人間とは、そもそもそういうものなのだ」ということを知っておくことです。

「成功し続けている人が、その成功の方法論に固執して変化できない」ということが良くありますが、それはその人が無能なわけでもましてや邪悪なわけでもありません。
そもそも、人間とはそういうものなのです。これを能力の問題や人格の問題に結びつけると事実を見誤ります。これは知識の問題です。人間がそうなってしまう力学を正しく理解し、具体的な対策を立てることが重要です。

・「成功のメソッドを見つけた!」と感じたとき
・自分に負荷がかからなくなってきたとき
・うまく行った理由を合理的に説明できたとき

には注意が必要です。

 ※以前書いたnoteにも関連があるのでもしよかったらどうぞ。「Get out of your comfort zone.

この問題は、以下の2つの変化によってより深く複雑になってきました。
・自身の相対的な点数が低下していくスピードが早くなってきた
・ある手法の価値が消滅するまでの時間が短くなってきた

どちらも、ITに代表される技術の進歩に支えられています。
前者は世界全体の進歩の加速、後者はコストの消滅 or 飛躍的な減少 が主作用で、先ほどの2つの変化はその副作用と言えるでしょう。
(この主作用は、資本主義の原理原則に則っていて、抗うことは困難です)

副作用を防ぐために我々にできることは、
微分の世界に生きる能力を養うこと
世界はまだ知らない素晴らしさや偉大さで満ちていると信じること

この2点だと思います。

「微分の世界に生きる」とはつまり、「変化量」をKPIとするということです。今どのくらいの水準なのかではなく、どれだけのスピードで成長したか&どれだけ大きく変化したかを重視する生き方です。いくら高いところに居ようが、停滞している限りは評価されない、ということになります。

これを導入すると成長する方向のベクトルが強くなりますが、「絶え間ない成長」を強いられることにもなり、ストレスは高くなります。

そこで、もう一つの軸である「世界はまだ知らない素晴らしさや偉大さで満ちていると信じること」が重要になってきます。

世界は驚きにあふれているんだ。
今の自分の価値観では図ることが出来ない、もっと素晴らしいものがあるんだ。

言い換えると「新しい価値観を取り込んで、自分の価値観を拡大・強化する」ということです。もっと端的に言うと「自分が良いと思えるモノを増やす」ということです。

このご時世、一つの価値軸の中でひたすらラットレースをして競うのは筋が悪い。即レッドオーシャンになり、コモディティ化します。それよりも、自分の価値の定規を大きくしたり、複数の定規を掛け合わせたりして、そもそもを300点満点・1000点満点にしてしまう方がずっと効率的だし、ワクワクしませんか。

そもそも人は「やるべきことをやる」よりも「やりたいことをやる」方がエネルギーが高い生き物です。なので、自分が良いと思えるモノを増やすことは、「やりたいこと」を増やすことになります。

いわゆる「非連続な成長」というのは、一見相反する価値観や価値軸がぶつかって昇華し、化学反応を起こすことによって生まれるものだと思います。

まだ書きたいことはあるんですが、これ以上は発散してしまいそうなので、またの機会に!


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株式会社ORSO 取締役副社長 / do株式会社 取締役 / 一般社団法人 日本ラクロス協会 理事 / 千葉大学男子ラクロス部 General Manager / (元東京大学ラクロス部男子 Coach, General Manager)
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