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DX支援で急成長するSun Asterisk。急成長の過程で起きていた経営統合と資本政策を全部解説。さらに、売上をKPIツリーで分析・解説します(独自の業績予想含む)

企業のDX支援を行う株式会社Sun Asteriskが7月31日東証マザーズに上場します。目論見書分析はこれで3回目になるのですが、今回は、組織再編と業績予想が主なテーマです。

この記事から得られることは、
・株式を活用した、経営統合とM&Aを理解できる
・利益計画をKPIツリーでシンプルに整理する方法

全体を流し読みしても理解できるようわかりやすい内容になってますので、ぜひ最後までお読みください。

1 数字から見るSun Asterisk

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ストック型顧客数をエンタープライズとSMBに分けて顧客数、顧客単価を開示しています。現時点の内訳は、75社の顧客のうち大半の56社がSMBとなっていますが、今後はエンタープライズの受注を増やすことで、顧客数、顧客単価ともに伸ばす計画です。 KPIと業績予想については、「4 重要KPIの解説」で詳しく説明します。

ファイナンスで特徴的なのは、VC/事業会社向けファイナンスはたった1回しか行っておらず、Post-Money Valuation(ファイナンス後の時価総額)は180億円です。実際には2019年11月〜2020年2月の間に3回に分けて払込が行われています(3回とも同じ株価)。時価総額の算定方法は、スタートアップによくあるDCF法ではなく、類似会社比準法を採用していると思われます。類似会社比準法は、上場企業から類似会社を選定してそれらのPER(株価収益率)を使って算定。類似会社をどこに選定するかによってPERは大きく異なり、主幹事証券に相談して決めているはずですが、どこの企業を類似会社に選定したのかは開示されません。なお、簡単ですがPER計算式は以下のとおりです。2019年12月期の当期純利益4.1億円に対して約44倍となります。

PER計算式 時価総額180億円 ÷ 当期純利益4.1億円
 = PER44倍

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これは、マザーズ全上場企業269社の平均PER139倍、情報・通信業113社の平均PER212倍より低く3分の1から5分の1の水準です。最近のIPO銘柄への過熱感を踏まえると、上場直後の初値が公募価格(想定630円)の3倍や5倍、すなわち時価総額ベースでは、700億円から1,000億円に一気に上がる可能性があります。

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外部向けファイナンスが1回のため、株主構成における外部株主比率が9%と低く役職員の持株比率は91%となっています。上場時の公募・売出後も80%以上を維持し全役員の意思が統一されているという前提ですが、同社の株主構成は、経営の重要な意思決定が株主総会で覆ることがない安定的であるといえます。

2 組織再編

現在の組織体制

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Sun Asteriskは、当社および100%子会社Sun Asterisk Vietnam、同じく100%子会社のグルーヴ・ギアの3社で構成されています。ここに至るまで、やや複雑な組織再編を経て現在の形になっています。

組織再編の沿革

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この沿革図から推測される、組織と事業の変遷です。

・組織の変遷
当社の前身である株式会社アイピースは2013年2月に設立。2014年にアジアを中心にエンジニア人材育成・派遣を手掛ける旧フランジア・ジャパンおよびFrangia Holdings Pte. Ltd.(フィリピン)と経営統合。その後、2017年12月にFrangia Holdings Pte. Ltd.と資本関係を解消したのち、現在の形になっています。

・事業の変遷
WEBコンサルティング会社がオフショアでIT人材を抱える企業と経営統合。クライアントに対するプロダクト開発支援がDX支援事業に進化し、人材が不足している企業にエンジニア派遣を手掛けるべくグルーブ・ギアを2018年12月に子会社化。

なお当社は、グルーヴ・ギアをかなり安く買収しており、 M&Aとしてはよいディールをしたと判断できます。買収前のグルーヴ・ギアは現金及び現金同等物を1.3億円保有しており、それを2億円で100%買収していますので実質的な支出は約6,800万円です。買収にかかる会計情報は以下をご確認ください。

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グルーヴ・ギアの業績は、2018年12月期は売上11.9億円、2019年12月期は11.4億円です(2018年12月期は筆者推計)。さらに注目したのは、2018年から2019年にかけては売上が微減ながら利益が4倍になっています。これは、買収後に間接部門の合理化などを進めた結果によるものと推測され、年間1億円近くの利益を出せる企業を6,800万円で買収したという結果になってます。のれんの償却期間は10年ですが、遅くとも2年で回収できるでしょう。

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3 資本政策

組織再編を繰り返す過程での資本推移を全部解説します(開示されてない過去のものについて筆者推測であることをご容赦ください)。

設立から2年後(2012年7月〜2014年12月頃)
経営統合の話は2014年からスタートします。持株比率や株式譲渡は、2,3社それぞれの代表者が1つのグループに統合するにあたり、経営体制・役割分担・資金力などを考慮して決めているものと推察してます。推測ですが、平井氏が比較的資金に余裕があり、初期の資本政策を支えていたように見えます。

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役員間の株式移動・増資(2018年1月〜12月)
2017年12月に経営統合が完了します。2018年1月の株式移動の理由は「グループ再編に合意が得られた」と記載があります。経営統合を決めたあとの3年間、様々な利害関係を調整しながら組織再編が進められたと思われます。このあたりの内情は実際に聞いてみたいところです。
1点気になったところは、2018年6月に平井氏向けに8,000万円の第三者割当増資を行っています。株価は、2018年1月に実施された24,000円と比較して66倍の1,600,000円です。この短期間で同じ普通株式にも関わらずこれだけのバリューアップしているのは何か意図がありそうです。事業資金として8,000万円必要だが経営者の持株バランスを見て平井氏の比率をあまり上げたくなかった、または、この株価で実施することで時価総額を上げて、その後の外部向け資金調達のバリューアップに大きく弾みを付けたかった、など。

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ストックオプション・増資
(2018年12月〜2020年2月)

ストックオプションについては2種類あります。どちらも行使価格は1,600円(株式分割考慮後の現在は80円)となっておりますが、割当先や活用方法が異なります。

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第1回ストックオプションは、役職員に対して業績に応じて割り当てるための信託型SOになってます。現時点では、受託者である税理士糸井俊博氏を割当先とし、「どの役職員に割当するか」が決まった時点で割当を行います。これは、上場前の安い株価で信託設定しておくことで、理論上、割当時点ですぐにキャピタルゲインが得られるモデルとなっております。

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第2回ストックオプションは、子会社グルーヴ・ギアの代表取締役である石塚保行に対して発行しているものです。石塚氏はグルーヴ・ギア株式売却により一定のキャピタルゲインを得られたものの引き続き子会社代表として、経営にコミットし、Sun Asteriskグループ全体の業績貢献が期待されたものと推測してます。

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2019年11月の資金調達のリリースはこちらです。

今回調達した資金で、Sun Asteriskはテクノロジー人材の育成プログラムを拡大させる予定だ。同社は現在、ベトナムにて3大学の約1500名に同プログラムを提供しており、今後は「多国展開」を含む事業拡大を図る。資金はクリエイティブスタジオの中長期的な成長基盤の強化、そしてアクセラレーション事業であるスタートアップスタジオによる、各国のスタートアップの創出にも使われる。結果として、「DXソリューションの継続的かつ拡大的な提供」を目指す。要するに、大企業からスタートアップまで、幅広い規模の会社の高度IT人材不足を、海外で育てた人材で満たしていくというスキームを、資金調達によりより加速させていく、ということだ。

株式分割・IPO(2020年3月〜2020年7月)
最後にIPO時のバリュエーションですが、約13億円の公募増資後の時価総額は、約251億円です。

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4 事業KPIの解説と業績予想

業績サマリーは以下のとおりです。2020年12月期については筆者推計で、2020年1Qの売上数字を4倍にし、粗利率は1Q実績、売上高販管費率は2019年12月期の42%を利用しております。なお、同社は連結子会社2社、従業員規模が連結で1200名超の企業体になりますが、事業セグメントが単一セグメントとなっております。サービス内容として、クリエイティブ&エンジニアリング系サービス、タレントプラットフォーム系サービスに別れており、それぞれの売上高を開示していますが、セグメントとしては単一であるためそれぞれの粗利率など収益性がやや見づらいです。ここでは、主力事業であるクリエイティブ&エンジニアリング系サービスのKPIに注目して解説していきます。

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同社の重要な経営指標は、クリエイティブ&エンジニアリングにおけるストック型顧客数、平均顧客単価となっております。

ストック型売上
 = 3ヶ月以上継続する準委任契約

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ストック型顧客数
 = 各期末時点におけるストック型売上の顧客数

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月次平均顧客単価
 = 年間ストック型売上 ÷ 各月の顧客総数

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また、ストック型売上の月次平均解約率も重要なKPIです。月次平均解約率の定義と会社コメントを引用しました。

月次平均解約率:2015年1月から2019年12月までの60ヶ月を対象に、各月で月次の解約率(解約者数÷顧客数)の60ヶ月の平均値

クリエイティブ&エンジニアリングの売上高の合計に占めるストック型売上の割合は2019年12月末時点で、80%超と、安定的かつ継続的な収益構造にあります。また、月次平均解約率(注1)は、3.52%と低い解約率を実現しています。また、アップセルやクロスセルにより、平均顧客単価も順調に推移しています。

会社としては低い数字と言及してますが、3.52%は決して低くない数字です。要するに、「毎月3.52%の解約がある=年間42%」なので既存顧客の4割が毎年入れ替わるということです。ストック型顧客数が75社なので、3.52%なら約3社(2.6社)が毎月解約となります。また、この解約率はストック型売上に限ったものであり、フロー型売上については解約率という定義はありませんが、短期間で終わってしまうプロジェクトがそれなりの件数あるものと思います。

フロー型売上は、3ヶ月未満の準委任契約または請負契約です。3ヶ月未満の準委任契約はPOCであり、新規顧客数と直結する重要なKPIであると筆者は考えています。つまり、POCでMVPを開発してうまくいったプロジェクトがストック型売上(3ヶ月以上の準委任契約)へ移行するからです。以下の図で「ファーストプロダクトをリリース」がPOCと認識してます。

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2020年12月期の独自業績予想
現時点では2020年12月期の業績予想は開示されていませんが、仮に2020年第1四半期の売上数字(14億円)の4倍が業績予想であった場合、約56億円となります。これを、C&E系サービスとTPF系サービスに分けて、C&E系サービスはストック型とフロー型に分解、そこからさらに既存顧客と新規顧客、POCと請負契約に分けます。主なKPIとして、既存顧客は毎月3.5%づつ売上減少、新規顧客はPOCを実施した6件のうち50%の3件が毎月新規顧客として増加。顧客単価については、POCが500万円、ストック型売上が月額370万円。請負契約の売上は四半期毎に1.1億円、年間4.4億円としています(POCの期間は実際には1〜3ヶ月と思いますが、計算をシンプルにするために、ここでは3ヶ月としています)。同社が業績予想を達成できるかどうか、以下のKPIに注目すべきと考えてます。

・解約率がどれくらい下がるのか
・POCからストック型の新規顧客へのリテンション率

業績予想の全体図

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※上記業績予想はあくまで筆者推測であり、会社発表の数字と異なります。実際の業績予想は、上場日の7月31日朝8:00頃発表されます。発表された数字と照らし合わせてみたいと思います。

まとめ

 Sun Asteriskは、複数企業が経営統合したため、社長経験者が複数在籍する経営経験値が高いベンチャー企業だと感じました。
また、業績判断に参考になるKPIがいくつも開示されており、今後もウォッチしていきたいと思います。上場日当日の成長可能性に関する説明資料にも注目しましょう。