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しばらく、旅に出ます。

 皆さん、はじめまして。渡辺隆史と申します。UCI Lab.というイノベーション・エージェントを2012年に立ち上げて、所長をしています。
 ここでは、渡辺がUCI Lab.の所長やディレクターという組織上の立場とは別に、User Centered INNOVATORや著者というイチ専門家としての活動や思考の軌跡を言葉にしていきたいと思います。
 最初の投稿は、2021年に向けて始めた新しい試みについて。


タオル探究プロジェクト と tnq【たんきゅう】運動

 UCI Lab.のサイトでもリリースした通り、2020年12月から「タオル探究プロジェクト」と題した共同研究を、私と人類学者の比嘉夏子さんでスタートしました。

 このプロジェクトはタオルの商品開発を題材にしていますが、同時にイノベーションの取り組み自体について身体を動かしながら改めて考え直していく試みでもあります。
 つまり、タオル探究プロジェクトは、比嘉さんと私で企てる「tnq【たんきゅう】」という大きな運動の第1弾でもあります。ここでは、渡辺がこの”tnq【たんきゅう】運動”に込めた想いについて、いま私自身が理解できている範囲で書き留めておきます。


「わかりかた」さえリフレーミングできるか

 比嘉さん北川さんと3人で書いた『地道に取り組むイノベーション』というタイトルにもあるように、またその中で詳細に記述した通り、私の所属するUCI Lab.では、イノベーションのプロジェクトにおける安易なマニュアル化や方法論といったわかりやすい正解を否定してきました。それは、いわば電車がレールの上で予定通りに進むような”プロジェクトの量産”を拒み、自らハンドルを握って道をドライブするような、生々しい手応えや柔軟さを追求してきた感じでしょうか。

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 ビジネスの現場で、プロジェクトマネジメントの精度と都度の状況に応答できる柔軟さを高度に両立させようとするのは、なかなかアクロバティックな試みです。私たちは設立以来の8年間その鍛錬を重ね、おかげさまで個々のプロジェクトの到達距離は随分伸びたと思います。

 しかし、これまでは最初に設計するプロジェクトの設計書という明確な目的地とルートマップがあってドライブするものでした。つまり、柔軟さとは言え、あくまで当初の設計の枠の中か少し範囲外ぐらいの柔軟さだったとも言えます。
 もちろん、ビジネスのプロジェクトでは事前の設計の精度は最終成果物のクオリティを左右する重要なポイントだし、それを描く能力についての自負はちょっとあります。でも、プロジェクトを受注し納品するエージェンシーという役割や立場を越えて、その先にある真の目的「ユーザーに寄り添うイノベーション」を実現するためには、私たちはそもそも、もっと深いレベルでユーザーや状況を「わかる」必要があるのかもしれません。
 つまり、プロジェクトの冒頭に「どれだけ戦略的な問いを設定できるのか」という私たちのこれまでのリフレーミングの技法や強みは、実は「問いが生まれて論理的に解かれる」という順番をまだ手放してはいないということ。もっと深いレベルで「わかる」そして「つくる」ためには、今持っているその地図=設計さえ手放して、全く違う種類の旅に出ないといけないのかもしれない・・・。そして、その鍵は人類学的なわかりかた、旅の作法にありそうです。

すぐにはわからないことに向き合い続ける覚悟

 「地道に取り組むイノベーション」の著者3名は、本の帯に「なぜ私たちは、イノベーションにまで効率を求めてしまうのだろう?」と書きました。いま思えば(そして当たり前ですが)、この「私たち」には実はまだ私自身も含まれています。効率や確実さといった快適な安全圏では決して得られない何かとはどういうものか。
 ここでわかりたいと思っている質感とは、現場でみてもきいてもまだよくわからないようなこと。これまで私たちは、調査の被験者と一緒にワークをして無意識の領域を可視化されるように促したり、複数のフィールドや視点を重ねたりすることで物事を立体的に理解しようとしてきました。もしそういった手順でさえ理解できる深度に限界があるのなら、一体どのようなわかり方があり得るのか。
 それは、人類学を導きとするものの、エスノグラフィを手法としてビジネスの現場で使いやすいように加工し消費するような態度とは全く異なる手触りのものです。人類学者が「外国に」「2年」居続けて体得するのと同じような、すぐにはわかることが叶わない、目的を見失いそうな長い旅路の果てにしか得られないことかもしれません。

 もちろん、これまでのプロジェクトデザインやマネジメントの技芸をさらに高めていくことも重要です。ある程度課題が明らかなプロジェクトに、適切な問いを設定して、参加メンバーが安心して集中できる環境を整えながら、創造的な問題解決が生まれて実装されるまで責任を持って進めていくこと。それは、UCI Lab.の重要な専門性です。しかし、渡辺のソロ活動(あるいは別ユニット)としては、それとは別の、新しいわかりかたを探る旅もはじめてみたいのです。

そして、もっと野心的な探究の旅へ

 予め設定した問いを解くための旅ではなく、そもそも何が問いなのかも含めて、より身体的にわかるための探究の旅へ。ききたいことを直接きいてもわからないようなことをわかるための旅へ。
 それは、現時点の私には、いつものプロジェクトとは勝手が違う「わからなさ」に満ちています。でも、そのわからなさや不安を抱えながら手探りで動き続けることこそが、従来のビジネスのプロジェクトでは困難なふるまいだと感じます。すぐに質問してしまって答えを求めるとか、先に用意したフレームの空白を埋めようとしてしまうとか、そういう分ける思考を注意深く禁欲して「わからなさ」と向き合い続けること。それが、今までの私たちのプロジェクトになかった新しい質感へ到達すること(Toward New Quality)に、結果的につながるはずです。

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 タオル探究プロジェクトでつくりたいタオルは、別に大きな技術革新を伴うものではありません。コンセプトもおそらく派手なものにはならないでしょう。しかし、「タオルをつくるために調べる」という目的合理性を超えた、「タオルを通じて日常生活をわかる」ようなきめ細かいアプローチからどんな手触りが生み出せるのかを、実際に海に飛び込んで、確かめてみたいと思います。

 とまあ、いろいろエラそうに書き連ねましたが、これらはすべて立ち上げ当初に構想されていた意図ではありませんし、私だけで考えたことはほぼありません。プロジェクトの準備や入り口を進めていく中での比嘉さんとの対話から、その意味が徐々に生成されたり変容したりもして、その過程で私が徐々にわかってきたことを言葉にした2020年12月28日の最新状況です。 
 タオルを題材にした比嘉さんとの対話的協働を通じて、私自身のなかの何かが痛みをも伴いつつ変容し、さらに願わくば世の中のビジネスの実践をより豊潤にする何かを予感しつつ(期待して目指したりしてはいけない)、しばらくtnq【たんきゅう】の旅に出かけてきます。

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(主に思想上の旅ですので、UCI Lab.では普通のお仕事も変わらずちゃんと受け付けております! 念のため)


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イノベーション・エージェント、UCI Lab.で企業のイノベーションのサポートをしています。ここでは、渡辺のソロ活動や個人的立場で考えたことを、手書きのような自分の言葉で記していきます。 『地道に取り組むイノベーション―人類学者と制度経済学者がみた現場』(2020年刊、共著)