最近観たり読んだもの(12月)

・スターティング・オーヴァー(著:三秋縋 メディアワークス文庫)

https://mwbunko.com/product/311935800000.html
二周目の人生は、十歳のクリスマスから始まった。全てをやり直す機会を与えられた僕だったけど、いくら考えても、やり直したいことなんて、何一つなかった。僕の望みは、
「一周目の人生を、そっくりそのまま再現すること」だったんだ。
 しかし、どんなに正確を期したつもりでも、物事は徐々にずれていく。幸せ過ぎた一周目の付けを払わされるかのように、僕は急速に落ちぶれていく。――そして十八歳の春、僕は「代役」と出会うんだ。変わり果てた二周目の僕の代わりに、一周目の僕を忠実に再現している「代役」と。
 ウェブで話題の新人作家、ついにデビュー。

・うーん、あんまし。タイムリープ物。同著者の本は「君の話」「僕が電話をかけていた場所」「いたいのいたいの、とんでゆけ」等結構買ってて、一番のお気に入りは初めて読んだ「三日間の幸福」なのだけど、ようやくデビュー作を手にした。

・後年の作品より文体がかなり軽い。特徴のSF的な設定が好きだったのだけど、今作ではご都合主義的にふんわり説明される。主人公は典型的な三秋系で、なんか気怠げでタバコをふかしては酒を嗜む思慮深い男の子。後半までサクサク読み進めてたんだけど、主人公が歩きタバコし出した所で無理になって読むの止めちゃった。塩漬け中です。

・少女七竃と七人の可愛そうな大人(著:桜庭一樹 角川文庫)

https://www.kadokawa.co.jp/product/200809000379/
純情と憤怒の美少女、川村七竈、十七歳。
いんらんの母から生まれた少女、七竈は自らの美しさを呪い、鉄道模型と幼馴染みの雪風だけを友に、孤高の日々をおくるが――。直木賞作家のブレイクポイントとなった、こよなくせつない青春小説。

・面白かった。昭和末期~平成初期の、北海道の田舎の閉塞感の中に生きる思春期の少女のお話。主人公「七竈(ななかまど)」は、フラっと出かけては男を捕まえて過ごす文字通り淫乱な母の元に生まれて、それだけでも噂の種なのにエラく美人に生まれてしまったものだから、色んな人の視線に晒される。

・そんな気持ちを共有してくれるのは、同じようなかんばせの男の子 雪風。二人は機関車模型が大好きな変わった高校生で、二人だけの世界に閉じこもって孤高な青春を送るが、雪風の顔が美しいことにも理由がある。

・作中頻繁に「かんばせ」って単語が出てくる。顔つき。顔の色という意味らしい。「ばらばら死体の夜」でも思ったけど、桜庭一樹の本は冬の落ち込んでいる日の夜更けに読むのが似合う。

・作中出てくる芸能スカウトが、「本物のかんばせは都会にはない。都会にあるのは化粧にたけ、衣を纏って美女を演じる、ごくふつうの女たちだ。ーーー本物は地方都市にこそある。」とアイドル観を語る。あー乃木坂46の橋本奈々未や橋本環奈みたいだなーと思った。アイドル詳しくないけど。

・川村家が警察を引退した老犬 ビショップを飼い始めて、彼の胸中が語られるシーンが随所にあるが、彼は七竈のことを「むくむく」と認識している。二人で散歩する時も、「つぎの日の午後、おれとむくむくは二匹で連れだって街の散策に出かけた。」と語る。考えてみれば犬にとっての主とは一家の長であって(作中では七竈の祖父)、それより下位の存在は同じ獣だと思われていても不思議じゃないのかもしれない。少女七竈は未だ幼い。

**

・セカンド・ラブ(著:乾くるみ 文春文庫)**

https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167732059
「イニシエーション・ラブ」の衝撃、ふたたび
1983年元旦、僕は春香と出会う。僕たちは幸せだった。春香とそっくりな女・美奈子が現れるまでは。衝撃の恋愛ミステリー再び

※ネタバレ注意

・面白かった。「イニシエーション・ラブ」に続く叙述トリック系恋愛ミステリ。イニラブは既に読んでたから、鼻から描写一つ一つに疑ってかかって読んでいたんだけど、主人公の正明=幽霊は読後ひとっ風呂浴びてやっとわかった。イニラブと比べるとオカルト色が強いので人を選ぶかもしれない。幽霊とか他人の性格が憑依するという事象が肯定されている世界だから。

・主人公にあんまり感情移入できなかった。正明は童貞を拗らせていて、付き合ったらもう結婚を前提に考えるべきだと訴え、非童貞・非処女等の貞操観念を気にするタイプ。時代かな。また、いつ来るかわからない電話を待つのが辛いから。という言い分を真に受けて、電話番号を教えない相手を恋人として信頼するのはいかがなものか。春香が電話番号を教えなかったのは、美奈子への成り代わりに支障をきたすからだろう。

・「つよい人」というフレーズがテーマの一つになっている。個人的には、つよい人というのは懐が広く柔軟で、何か困難にぶつかっても一度受け止めて考えてから行動できる人だと思っている。そういう点で言えば主人公 正明は「つよい人」ではなかった。この作品の中で無理くり当てはめようとするなら、それは打算的で野心家で、メタ的には間男であるところの紀藤先輩だろう。ただ、自殺した正明のことを恋人と一緒になって嘲笑する姿は、「善い人」ではないことは確かだ。

・ネットで解説・感想を漁った中で、現 春香=美奈子であり、家族含めて協力せざるを得ない状況にあるという説を見つけて、ゾッとしたけど合点がいったので今の所この説を押している。読み終わった人は是非見つけてみて欲しい。

・西の魔女が死んだ(著:梨木香歩 新潮文庫)

https://www.shinchosha.co.jp/book/125332/
中学に進んでまもなく、どうしても学校へ足が向かなくなった少女まいは、季節が初夏へと移り変るひと月あまりを、西の魔女のもとで過した。西の魔女ことママのママ、つまり大好きなおばあちゃんから、まいは魔女の手ほどきを受けるのだが、魔女修行の肝心かなめは、何でも自分で決める、ということだった。喜びも希望も、もちろん幸せも……。その後のまいの物語「渡りの一日」併録。

・すごい面白かった。人の機微を感じやすく、繊細で生きづらさを抱えた女の子「まい」がおばあちゃんのもとで魔女修行をするお話。魔女修行と言ってもオカルトチックなわけじゃなくて、規則正しい生活を送るとか、自分が決めたことはやり通すとか、物事を客観的に捉えるとかっていう人生における基礎的なこと。でもその基礎的なことが難しい。凄くよく分かる。

・まいは中学校に上がったばかりで、スクールカーストが形成されていくあの感覚に辟易として孤立してしまうし、夜更しとかも覚えてしまって、ちょっと自律神経も乱れている様子。そんなまいのアンバランスな心身が、鶏の声で目を覚まして、野花を摘んでジャムやお茶にしたり、大きな桶で洗濯したりする田舎の生活の中で癒やされ成長していく。そんなまいを魔女(おばあちゃん)は最後まで暖かく見守っていてくれる。最後泣いちゃった。

・初版発売が2001年でそういう時代だったのかわからないけど、新しい女性の生き方とか女性のキャリア感みたいなのものが随所に観られる。

・最後に、作中の言葉ではないけれど、あとがき解説の「これから先、私は人間のひとりとして、何をしなくてはならないのか、また、何を止めなくてはならないのかを考え続けています。人間が、自分で作っておきながら、自分の手に負えなくなってしまっているもので溢れている日常ーーー」って所がグッときた。現代社会に生きることに疲れた人にお勧めの作品です。

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