女と暮らしてる女の恋愛遍歴 〜20代後半①〜

H氏から振られ、C氏に甘える日々を送っていた私、少しは元気を取り戻して職場以外にも世界を広げたりもしていた。そしたら元気余って?、新しい出会いなぞ求めたりして……。そんな私の軽はずみな行動は、周囲に多大な迷惑を掛ける事態を引き起こし、またその後5年間の私の人生を「修行期間」にする。

今回増える登場人物は1人(K氏)だが、関わった期間がちょっと長いので2回に分けてお送りする。


C氏のこと

C氏とは休日を共に過ごしたりする「曖昧な関係」を続けていた。C氏への恋愛感情が完全に消えたわけではなかったが、若かった?私はH氏の華やかさも忘れられず、穏やかなC氏に物足りなさも感じていた。C氏は付き合い始めた当初から「いつかこいつは私から離れていく」と思ってたらしく、必要以上に関係を深めよう(一緒に住むとか)とは決してしなかった。

私とC氏は「女性同士」という社会的には認められないカップル。10年以上前の当時は、今よりももっと理解されにくい社会だった。今考えると、そういう部分もC氏の腰が引けていた遠因かもなーと思い当たる。しかし社会の荒波?なんて無頓着だった私は、身内のような優しさを見せつつも、ある部分では頑なに一線を引いてくるC氏のクールさが、ただただ寂しかった。


出会いの掲示板

そんな穏やかな日々、暇つぶしはネットの徘徊。そんな中で「L的出会いの掲示板」なるものを発見する。当時のLGBT的出会いのツールは断然「掲示板」だったと思われる。SNSの発達した昨今でも、LGBT業界ではまだ現役なんじゃないのかな?最近はLGBTに特化したSNSやアプリもあるみたいだけどね。

エリアごとに分かれた掲示板、地方の板は過疎気味ではあったけど書き込みが皆無というわけではなかった。そこに書き込みをしていた人(K氏)に、半ば興味本位でメールをしてみた私。……これが濁流のような日々の始まりだったね。

私は「メル友(死後?)」を作って楽しむタイプではない。メールはあくまで「連絡用ツール」であり、用もないのにメールしたりしない。なのでK氏とも「だらだらメールするんじゃなくて、さっさと会って有り無し確認すれば?」って思っていた。「有り無し」って当然「恋愛対象になりうるか」である。さっさと会う約束をしてしまう私に、K氏は面食らっていたらしい。……そうだよね、どんな人が来るのか分からないし、危険な場合もあるもんねー。やっぱり考えなしな私。


「性同一性障害」の男性

今回知り合うことになったK氏は、いわゆる「性同一性障害」の男性であった。つまり生まれた時の戸籍や生物学的性別は「女性」、性自認(自分が思う性)は「男性」。こういう人を「FtM(female to male)」と言ったりもする。(反対の場合は「MtF(male to female)」)また最近は、「性同一性障害」という言葉に変わって「性的違和」という言葉が使われているようだが、世の中での認知度合いを鑑みて敢えて「性同一性障害」という言葉を使ってみた。

以前にC氏と一緒に行ったL的出会いの場で、チラッとだけFtMの人に会ったことはある。その時は「そんな人いるんだー」という印象。それまでテレビとかで見ていた、いわゆる「オカマ」「オナベ」的な人たちと目の前の人が繋がらないという、LGBT当事者と実際にあったことのないストレート(ノンケ)の方々のような私。

そしてK氏と会うことにしたのも、彼がFtMだったからというのもあった。興味本位の部分があったことも否定はしないが、「境目の不安定さからくる魅力」みたいなものをそういう方々に感じていたのもある(もともと中性的な人が好き)。


実際に会ってみて

実際に会ってみたK氏は、一言で言うと「田舎のヤンキー青年」であった。そして会って数時間で「いい人そうだけど、話合わんかも……」って思っていた私。FtM云々という以前に、生きてきた環境その他が違い過ぎてカルチャーショックの連続。一方、K氏は私のことをとても気に入った様子。そして押しの強さに弱い私。

結局そのまま付き合いが始まるのだが……本当に血迷ったとしか言いようがない。その時の私の心の中にあったのは、「H氏とC氏という得難い2人を、自分がフラフラしたことで失った。次に付き合う相手が出来たら、その人のことをとことん嫌いになるまでは別れないでいよう」ということ。そんな自分への誓いが、その後自分を苦しめることとなる。……H氏&C氏に迷惑をかけた償いだったのかもね。

K氏との付き合いが始まったことは、時を置かずにC氏の知るところとなる。……すぐにバレるなら、ちゃんと関係を清算してから次に行けよなー。この時を境に、今度こそC氏と「ただの友人」に戻った。そして今でも良い友人である。ありがとう、C氏。


問題児

K氏は田舎の人らしく家族思いの良い人ではあったが、いろいろ問題のある人でもあった。まずとてつもなく「束縛魔」であり、勤務中でもメールの返信が遅れると怒り出すような人。幸い勤務中でも携帯電話が触れる職場だったが、忙しいとそんなことばかりしてられないよね〜。

そして怒り出すと手が付けられない。基本「傍若無人キャラ」な私が、初めて「人の顔色を伺う」「機嫌をとる」という経験をする。要するに私とK氏はキャラが被ってたわけだ。そしてどっちも「逆上系」だったので、その後絶え間なく激しい喧嘩をすることになる。これは……本当に消耗したね。

それから金銭的にルーズな部分がある人でもあった。H氏も金使いが荒いタイプだったけど、それなりに稼いでたので自転車操業でなんとかなってた。K氏は……借金持ちだった。そのルーズさの原因の一部に、「FtMであることによる人生への投げやりさ」があると見るのは、一時は身内だった者への穿った見方だろうか。


性同一性障害の悩み

私は同性(両性)愛者ではあるが、性自認に揺らぎのあるタイプではない(同性愛者の中には性自認が揺らいでいる人も多々いる)。なのでって言うのも変だが、付き合っていた私でも、K氏の本当の悩みを本当に理解していたわけではない。それでも私の理解する範囲で、彼の悩みについて書いてみようと思う。

【FtMであるK氏の悩み】(一口に「FtM」といっても、いろんな点について人によってとても幅があるので、あくまで「K氏のこと」を書く)

・体への違和感(体型、生理があること) ←手術等の「治療的行為」を何もしていない。

・田舎の固定的閉鎖的人間関係 ←両親や親しい友人には打ち明けていた、それ以外の人にはカミングアウトできない。

・名前 ←ずっと固定的な人間関係で生きてきたので、周囲の人間はみな「戸籍名(女性名)」で呼ぶ。私はK氏が自分でつけた名前で呼んでいた。

・会社での扱い ←男性的な力仕事をしていたが、あくまで会社は「女性」として扱う。「女性は事務職じゃないと正社員になれん」とか、本当にどうかしとるよ。

彼の悩みは「FtMであること」と「田舎の住人であること」が絡み合っている部分も大きい。そしてK氏も、FtM系の人(生物学的女性で男性的要素のある人)に多くみられる「あまり偏差値の高くない人」であることが、悩みを建設的に解消する姿勢になれない遠因な気がする。とは言え、彼が「FtMであること」で不当な悩みを抱えていたことは間違いない。


失踪騒ぎ

付き合い初めてすぐに、私とK氏は「失踪騒ぎ」を起こす。発端はK氏が借金の返済に困っていたこと、当時の職場があまり好きではなかったことからの発作的行動。K氏は以前にも失踪騒ぎを起こしたことがあったらしく、今回は「失踪した後死ぬ」つもりだったらしい。「死にはしないだろ」と思いつつ、なんとなく「死なれたら困るなー」と思って私も付いて行ってしまう。……この頃の私は本当に「何かにとり憑かれてた」としか思えないよ。

1週間程の失踪騒ぎは、K氏の家族、私の家族と職場を巻き込み大騒ぎになる。結局警察(Nシステム)にお世話になって発見される。一応取り調べも受けたわ。その後……私は何とか職場復帰、K氏は以前のこともあって家族が万全の態勢で元の生活に復帰させてた。この時迷惑をかけた多数の方々、本当に、本当に申し訳ありませんでした。


この後も懲りずにK氏との付き合いを続け、それはなんと5年も続くのである。続きはまた次回〜。

私の文章に少しでも「面白さ」「興味深さ」を感じていただけたら嬉しいです。